ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント 7

~区別されなかったサプライヤーへのアクション

前回まで、

● どのように区別するのか
● 区別するサプライヤーの見極め方
● 区別したサプライヤーをどうか扱うか
● 区別したサプライヤーへの具体的なアクション

について述べてきました。今回は区別「されなかった」サプライヤーの取り扱いに関して述べることにします。

(1) 区別していなかったサプライヤーを、引き続き区別しない場合

この場合は、特別な対応は必要ありません。サプライヤーからすれば、従来と変わらない対応であるためです。これまでと変わらず、同じ対応をおこなうだけです。

(2) 区別していたサプライヤーを、新たに区別しない場合

この場合は、すこし配慮した対応が必要です。これまでお伝えした内容を思い起こしてください。前々回のメールマガジンでは「区別するサプライヤーを見極める方法」として、次のポイントをあげました。

① 発注金額のABC分析結果
② 代替サプライヤーの存在
③ 発注内容の性格
1) 人命に関する部分
2) 機能に関する部分
3) コストに関する部分

この3つのポイントによって、区別するサプライヤーを見いだすとしました。また、さらに一号前で「将来必要になるサプライヤーを区別する方法」では、経営戦略を基点として、将来必要となるサプライヤーを見いだすことの重要性を述べました。これらに共通している点は、バイヤー企業とサプライヤーとの関係を、双方の担当者の人間関係に依存しないことです。サプライヤーの評価は「バイヤー企業業績への貢献を客観的な数値で測る」という軸がなければ、恣意的なものとなってしまうのです。

「バイヤー企業業績への貢献を客観的な数値で測る」という軸と、双方の担当者や幹部の人間関係の双方を合わせて、初めて有効なサプライヤーマネジメントが機能します。どちらか欠けても不十分なものとなってしまいます。たとえば、過去の区別してきた結果、人間関係は構築できている。しかし、業績への貢献度合いは減少傾向である場合を考えてみます。客観的な数値によって区別する必要がないと判断される場合には、その瞬間から区別することをやめます。このように書くと、なにか世知辛くもあります。しかし、個人の友人関係とは異なるわけです。そして「区別をやめる」からといって、それまで培ったサプライヤーとの関係を壊すわけではありません。

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上図は、取引のあるサプライヤーを2つに区別した場合を想定しています。今回のサプライヤーマネジメントでは、「区別」を固定化しません。事業を進める上で、必ず訪れる「変化」によっ、て柔軟に区別するサプライヤーを「変化」させます。このようなマネジメントを実現させるためには、区別する→区別しなくなったとの「変化」にともなう影響を極力少なくしなければなりません。

バイヤー企業が魅力的であればあるほどに、区別しなくなった場合にサプライヤーが受ける負のインパクトは大きくなります。この変化を、ネガティブなものとせず、双方の将来の糧にするためには、次のアクションが必要です。

1. 区別しなかった理由の説明

バイヤー企業側には、業績への貢献度が下がったとの明確な根拠があるはずです。これまでの貢献に感謝の念も含め、数値と共に理由を伝え、理解を求めます。これには、ある程度時間を費やすことも必要です。また、サプライヤーマネジメント上、区別をしなくなっただけであって、これまでの取引関係は継続することは、必ず明確に伝えます。

2. 今後の取引について認識の共通化

区別しなくなった明確な数値には、必ず背景が存在します。根拠は数値ですから、数値がなぜそのように推移したのか、その背景もあわせバイヤーからサプライヤーの担当者に伝えます。そして、今後どのようにしてゆくかを一回で良いです、話し合いましょう。決して、今生の別れではないのです。

このようなアクションをする理由は、一度でも「区別」をおこなったことで構築されたサプライヤーとの関係は、ひとつの大きな財産でもあるためです。ある時点での数字で表される取引関係と、将来的な進むべき道によって、判断した時点では「区別」することができないだけなのです。読者の皆さんもご存知の通り、ビジネス上の判断・意志決定は、おこなった瞬間から陳腐化が起こり、進行します。陳腐化をさせないための修正手段として、区別する・しないの判断により、具体的に区別する・しないを柔軟に変化する必要があるのです。そういった判断の繰り返しの中で、最終的に進むべき道を同じくする真のパートナーと呼べるサプライヤーを見いだす事ができるのだと考えるわけです。

私も幹事として参加している「購買ネットワーク会」では、過去に「取引先協力会の運営」というテーマでケーススタディをおこなったことがあります。5~6人で一つのグループを構成し、示されたケースにおける取引先協力会の運営方法を決めるわけです。8つのグループの発表で、いずれのグループにも共通されていたアクションが、協力会を構成するメンバーの「入れ替え」です。当日は、時間も限られていました。具体的にどのように入れ替えるのかについて、その方法論まで言及したグループはありません。私は結果を見て、まさに日本企業のサプライヤーマネジメントの縮図と感じました。

今、取引先協力会を抱える多くの企業での問題は、構成メンバーの固定化、そしてメンバー資格が不明確である点です。もう一度申し上げますが、サプライヤーとバイヤー企業との関係は、個人になぞらえた場合、友人関係ではありません。売り手と買い手という、ビジネスを戦争と捉えた場合は、最前線で戦いを繰り広げる敵手です。しかし、サプライヤーマネジメントの根幹は、対峙する関係から共同して共通の敵へ立ち向かうとの認識を共有することです。利益を追求するビジネスですから、その点を忘れることなく、どうやって共通認識を持っていくのか。今回の「区別されなくなった」サプライヤーとは、少し前まで一緒に最前線で一緒に戦っていた仲間です。マネジメントの実践上、たまたま一緒に戦えなくなってしまったのです。ビジネスですが、実行するのは人間です。ビジネスと人間の、その狭間の、悩ましい部分ではありますが、毅然とした姿勢、明確な根拠と、過去の取り組みへの敬意を、サプライヤーに対して持つべきである、そう考えて今回あえてテーマに取り上げました。

<つづく>

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