ほんとうの調達・購買・資材理論「調達関係者に絶対に役立つ統計講座11回目」(坂口孝則)
*今回もこの連載は長いので、ご印刷して読む、お時間のあるときに読む、あるいは潔く読まない、のどれかを決断ください(笑)
さて実務で使える統計講座も、そろそろ終わろうとしている。今回は、統計というか、時系列的な数値を扱う際に気をつけねばならぬ点について述べていきたい(これまでの連載をお忘れの方はバックナンバーを参照のこと)。もうちょっとで、みなさんは統計マスターになっているはずだ。
今回、紹介したいのはグラフの指数化だ。というのも、グラフの指数化と幾何平均について知らないひとが多い。算術平均だけではなく、正しい平均値の試算をお伝えする(もちろん、指数だとか、幾何平均だとか、算術平均だとかはおって説明する)。
今回のExcelファイルはこれだ。
http://www.future-procurement.com/113_1.xlsx
まず、こういう空の表を用意した。
<クリックすると拡大できます>
これは何かの価格推移表だと思ってほしい。原材料でもいいし、労務単価でもいいし、あるいは何かの商品市況でもいい。この表は黄色箇所が入力部だ。まずは、表の「年度」「価格」に記載する。次の例では、1990年下から2013年までの材料価格推移を入力してみた。
<クリックすると拡大できます>
次に入力していただきたいのが、左側の黄色箇所だ。これは「基準年度」と書いている。つまり、この基準年度を100として、その前後の数値を計算し直すのだ。サンプルでは1995年を基準年度としている。
だから、絶対値としては
・1994年:130
・1995年:154
・1996年:132
だから、1995年を基準100とすれば、
・1994年:84.42(=130÷154)
・1995年:100
・1996年:85.71(=132÷154)
となっている。これはご理解いただけるだろう。
次に、その右欄(白色だから入力いただく必要はない)に「基準年度からの隔たり」とある。これは単純に年度から基準年度をマイナスしたものだ。2000年であれば、基準年度の1995年をマイナスするから、2000ー1995=5となる。
ここまでをまとめたのが、グラフ図になる。価格(絶対値)と、指数(基準年度からの隔たり)にわけてグラフ化している。
・幾何平均の大切さを知ろう
そして重要なのは、さらにその右欄にある「基準年からの平均単価変動率(幾何平均)」だ。これは文字通り、基準年から、平均的にどれくらいの年変動率があったかを計算するものだ。具体的に見てみよう。
これは、「その年度の価格」を「基準年度の価格」で割って、その答えを、経過年数の乗数でのルート計算をしている。わかりにくい? 具体的に考えてみよう。サンプルでは、基準年度が1995年だから、2000年のところには、どう計算式が入力されているかというと……。
(2000年の価格÷1995年の価格)^(1/経過年数)=(90÷154)^(1/5)=0.9
となってる。Excelファイルをご覧いただけるなら、正確には、「0.898140659603477」となっているよね? これは、どういうことだろうか。5年間の平均として、この「0.898140659603477」倍が続いていたってことだ。具体的に計算してみよう。これが5年間の平均であれば、
154円に「0.898140659603477」を5回かけたものが90円になるはずだ
から、やってみよう。
154×0.898140659603477×0.898140659603477×0.898140659603477×0.898140659603477×0.898140659603477=90
にたしかに合致した! まあ、考えてみればExcelで計算したから当たり前ではあるけれど。直感的な表現でいえば、1995年から2000年までの5年間は、前年よりも0.9倍になっていたのが平均だったのだ。このことを、幾何平均という。間違えちゃいけない。これは単純に前年比を平均化しているわけじゃない。
というのも、これってけっこう多い間違いなんだ。なぜならば、前年比を平均しても、この0.898140659603477にはならないんだよ。これも具体例で考えてみよう。
たとえばこういう例だ。
<クリックすると拡大できます>
・2007年→2008年に50%下がった
・2008年→2009年に20%下がった
・2009年→2010年に25%下がった
とする。単純な前年比平均では、(▲50%+▲20%+▲25%)÷3=31.67%になる。こういう計算をしてしまったら、間違いだ。なぜって、計算してみたら間違いに気づくよ。
1000円×(1-31.67%)×(1-31.67%)×(1-31.67%)=319.0320115
でしょ? だから事実として300にならない。だから間違い! 正確に計算しよう!
(300÷1000)^(1/3)=0.66943295
ほらね。だから、正解は、1-0.66943295=0.33056705なんだ。さきほどの単純平均と比べてみよう。すると、単純平均が31.67%=0.3767で、幾何平均が0.3305だからけっこう離れているとわかるだろう!
さらに直感的にいえば、算術平均の間違いは、この例でわかる。
<クリックすると拡大できます>
・2006年→2007年に40%下がった
・2007年→2008年に50%上がった
といった場合だ!この場合は、下落率を単純計算するんだったら、(▲40%+50%)÷2=5%となるよね。ということは、年率5%ほど上昇していたってことだ! だけど、そんなはずはない。だって、見ただけでわかる。2006年に10,000だったものが、2008年には9,000になっているんだよ。毎年5%ほどあがっているどころか、むしろ下がっているじゃーん。これも単純平均をしてしまったゆえの間違いだ。
これは繰り返す必要はないと思うけれど、
(9,000÷10,000)^(1/2)=0.948683298
となるから、変化率は1-0.948683298=0.051316702なんだ。これだけ下がっているということ。計算してみれば、
・10,000×0.948683298×0.948683298=9,000円
だから。やはり幾何平均が正しいようだ。
・そこでグラフを読み直してみると
と、このように幾何平均を見てみると、長期間での推移がわかりやすい。イメージをつかみやすいのだ。そのデータは数年にわたって、算術平均ではなく幾何平均としてどれくらいの上昇(下落)傾向にあったのか。そしてその上昇(下落)は激しいのか、緩やかか。それによって中長期的な推移がわかる!
ひとによっては基本中の基本だったかもしれないが、今回は指数や幾何平均について述べた。この統計講座ももうちょっとだ。
<つづく>