指標はこれを見ろ!1(牧野直哉)

●はじめに

今回「ほんとうの調達・購買・資材理論」では、調達購買戦略の構築について述べています。戦略を構築して、具体的な行動計画をたて、狙った姿にビジネスを近づけるのは、過去から変わらないビジネスパーソンの任務です。変化の激しい、先の見にくい現代であればなおさら、その重要性は増しています。

ある未来学者は、もっとも簡単な未来予測は、予測すべき未来の期間と同じだけ過去にさかのぼって、過去から現在までまったく同じく対応することだ、と言いました。これはある意味では正しいでしょう。しかし、過去と同じを繰り返す前例踏襲を繰り返した結果、失われた10年とか20年となってしまったのが今の日本の姿です。去年と今年であれば、大きな変化は必要としないかもしれません。しかし、環境は変化しています。毎年のわずかな変化に対応していなかった結果、10年、20年と経過して、いつしか大きな変化となって、自分たちが取り残されてしまった、私は今の日本がそんな状況に置かれている現実に大きな危機感を抱いています。そして、少なくとも、この有料マガジンを読んでくださっている皆様には、環境変化に対応できずに苦汁をなめるような事態には陥ってほしくないと、心から願っています。

未来を見通すためには、現状を正しく理解して、今の立ち位置を明確にしなければなりません。経験にとらわれずに的確に「今」を判断するには、何らかの基準が必要ですね。われわれが取り組んでいるビジネスは、経済活動の一部です。幸いにして経済活動にはさまざまな指標が存在します。そんな指標に示された数値を読み解くことで、これからの行動に、さまざまな示唆を得られます。今回から始める「指標はこれを見ろ」では、実際に広く社会に流通している指標を発表のタイミングで取り上げて、調達購買の実務に役立つ読み解き方をお伝えします。

このシリーズで取り上げられている指標は、新聞やテレビ、シンクタンクによって、さまざまな視点で読み解かれています。ここでは、そういったニュース報道やレポートでなく、発表元のデータを直接読み解きます。ニュース報道やレポートの作成者と同じ視点の情報ソースにアクセスして、情報を見る・読み解く力を養います。私も過去に何度か経験していますが、公的機関の発表資料は、発表の日に紙の資料をもらいに行かなければなりませんでした。しかし、インターネットによって無料でも入手が可能です。実際に生のデータに接していると、新聞報道やレポートが、いかに当たり障りのない内容で伝えられているかがご理解頂けます。当たり障りのない情報など、ビジネスの現場では活用できません。皆さんの日々のビジネスに役立つ読み解き方法の公開です。

●日銀短観(全国企業短期経済観測調査、以降「短観」と表記します)

正式名称:全国企業短期経済観測調査
調査概要:母集団企業は、総務省の「事業所・企業統計調査」(2006年10月実施分)をベースとした、全国の資本金2千万円以上の民間企業(金融機関を除く。約21万社)。実際の調査企業は11528社
調査頻度:年4回(1月、4月、7月、10月の各月初に発表)

最新の日銀短観は、4月1日に発表されました。このページ( http://www.boj.or.jp/statistics/tk/index.htm/ )には発表資料がダウンロード可能な状態になっています。この資料の特徴は、圧倒的な調査対象企業の数です。例えば、私が景気の先行きを判断するための指標として「景気ウォッチャー調査」( http://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher/watcher_menu.html 内閣府)があります。この調査は2050人に調査をした結果です。短観がより多くの対象を網羅していると、数字で理解できるのです。回答を得て、データ化するには、多くの労力が割かれています。労力の分だけデータにも信憑性があり、日本経済を読み解く格好なデータです。

3ヶ月に一回の発表ですし、すべてを読み込む価値がある内容です。ただ、次の6つの確認ポイントだけは内容を理解します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断
(2)短観(概要) 6.雇用
(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移
(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移
(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断
(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

上記6つの資料は、以下の赤枠の部分からダウンロードできます。

<クリックすると、別画面で表示されます>

それでは、個別に説明します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断

<クリックすると、別画面で表示されます>

各項目の色づけは、私が見るべきポイントとして追加しました。この内容から、次のように読み取っています。

(赤部分)需要と供給の状況 ~2014年4月は、引き続き供給超過状態、先行きは超過拡大
(青部分)在庫状況 ~2014年4月は、在庫過大
(緑部分)仕入価格判断 ~上昇傾向
大企業:上昇しているが、先行きは横ばい
中小企業:上昇しており、先行きはさらに上昇見通し

ここでは、

●生産能力の見通し
●仕入れ価格の見通し

を確認します。4月発表の数値からは、全体感として

・企業の生産能力には余裕がある
・在庫は増大傾向である
・仕入れ価格の見通しは、大企業と中小企業で先行きに違いが見られる

と読みました。しかし、この読み解きに私は違和感を感じました。この有料マガジンでもお伝えしている通り、2014年は「不足」がキーワードです。しかし、この数値からは「不足」が読み取れません。果たして、次は何を参照すればいいのでしょうか。

<つづく>

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