連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2020年①>

「2020年自動運転車が走り出し、自動車産業は転換期を迎える」
自動運転はピークの象徴、ハードからサービス化の流れ

P・Politics(政治):経済産業省主導で推進されてきた自動運転の実用が開始される。高速道路、一般道路で、部分的な運転が自動化される自動車が走る。
E・Economy(経済):自動車保有台数の飽和が世界各地で起きはじめ、自動車各社はサービス事業を本格化する。カーシェアリング事業者の増加。
S・Society(社会):自動車を保有する文化から、都度利用意識が高まる。自動車のデザインはさほど意識しなくなる。また自動車メーカーのブランドから、サービス業者のブランドが重要となる。
T・Technology(技術):自動運転技術の発展、センサー技術、スマートフォンと連携したマッチング技術の進化。

・モビリティーサービスの時代

ボストン・コンサルティング・グループによれば、2035年には世界販売台数のうち、15%が部分自動運転車、10%が完全自動運転車になる。自動運転はセンサー技術など含めて、先行者利益を享受しうると同時に、諸刃の剣でもある。好きなときにクルマを呼び、自動運転車が駆けつけてくれる時代が到来すれば、自動車の販売台数が激減するにちがいない。現在、ウーバーなどのシェアリングサービスが勃興してきたが、ウーバーは2009年に設立し企業価値約8兆円と、もはやホンダのそれを超えている。

自動車の一日のうち95%は駐車場に停まっているといい、都市に住む場合は、自動車を所有する意味が薄くなる。実際に、バークレイズ・キャピタル・インクなどは、将来的に新車販売台数は40%減少すると述べている。
敵のはずの自動車メーカーが、シェアリングサービス企業と連携しているのは、とはいえ自動車というハードではなくサービスでの事業機会を探すしかないからだ。前述のフォルクスワーゲンにくわえて、ウーバーとトヨタが、Lyftとゼネラル・モーターズがそれぞれ提携を発表している。その文脈で自動運転の開発も読み解かれなくてはならない。

・世界的飽和を迎える自動車産業

くわえて忘れてはならないのが、自動車各社を焦らせるのが、近々ハードとしての自動車は飽和を迎えることだ。販売台数ではなく保有台数としては、日本に約6000万台の自動車がある(60,831,892)。この数字は高止まりしている。日本に約1億2000万人がいるとすれば、一人あたりの保有台数は0.5となる。

人口が増加していけばもっと増えるだろうが、現在では、急激な増加は期待できない。むしろ、人口が減少する見込みなので、国内での保有台数はゆるやかに減少していくだろう。これは日本だけの特徴ではなく、先進国といわれる国、たとえばG7参加国を見てみよう。おなじく、0.5程度で高止まりしている。

一般社団法人自動車検査登録情報協会が公表しているデータによると、乗用車の平均使用年数は12.76年となっている。さきほど、約6000万台といった保有台数60,831,892台を12.76で割ると、4,767,390となる。500万台ていどが国内販売といったとおり、ほぼこの数と合致する。

問題は新興国もじきにこの飽和に近づくことだ。中国は今後2025年あたり、アフリカも2030年くらいには保有台数が一人あたり0.5になると考えられる。新車販売を前提とするビジネスモデルは行き詰まりを確実に迎えることになる。国内需要を換気する減税措置も、もちろん意味がなくはないが、大きな流れにささやかに抗うものでしかない。

かつて飛行機に搭乗する際、「ボーイングに乗った」と表現した。しかしいまでは「JALに乗った」と表現する。ハードからサービス事業者のブランディングに移行した。自動車も「トヨタ車をもっている」から「ウーバーに乗った」と表現するのが一般的になるだろう。かつて固定電話がスマートフォンになったとき、いつでもつながることが価値になった。自動車も、いつでもアクセス=乗用できることが価値になるだろう。そして携帯キャリアが主役から、IT企業が主役になったように。サービス提供業者が主役になる可能性がある。

国/保有台数(台)/人口(千人)/人口あたり保有台数
アメリカ/126,013,540/322,180/0.391127755
ドイツ/45,071,209/81,915/0.550219239
イギリス/33,542,448/65,789/0.509848881
フランス/32,000,000/64,721/0.494429938
イタリア/37,351,233/59,430/0.628491217
カナダ/22,067,778/36,290/0.608095288
中国 135,119,000/1,403,500/0.096272889
インド 30,570,000/1,324,171/0.023086142

・自動車各社の反応

さきほど紹介した自動運転技術の確立。センサー技術などの開発。一見、矛盾するかのようなサービス業者との連携。各社ともまずは高速道路においてレベル4を目指すと同時に、駐車場など限定された場所での自動パーキング技術を確立しようとしている。

また、自動運転については、既存の道路交通法と関連する問題を解決する必要がある。自動運転で事故を起こした場合、誰が責任をとるのか。また、責任主体は自動運転のレベルに応じて変化すべきだろうか。賠償制度はどうあるべきか。事故のケースを想定し、民事責任がどうなるか、ユーザーとメーカー、サービス提供業者ともに検討する必要があるだろう。

同時に、業界では、自動運転にともなって発展する付加価値領域に力を入れている。

自動車から収集できるビッグデータを集め、交通システム全体を協調させる取り組み。また走行時におけるパターン認識にAIを活用し、さらに安全性を高めようとする試み。また、トラック運転手不足に対応するために、隊列走行が実証される。これは、たとえば3台で並んで走る際に、先頭車のみ有人にする。

またこれからも増加が期待されるインターネットショッピングに対応した、自動運転宅配。これはいわゆるラストワンマイル対策で、各配送先の近くに到着し、トラックからは各自が下ろすイメージだ。また、最寄り駅から高齢者等を自宅にまで運ぶ回送サービスも検討されている。

自動運転技術は、自動車産業の復活の象徴としてではなく、さまざまな分野に応用できるといった。たとえば、車椅子の技術にも応用できるだろう。また街中を自動運転で走らせることにより警官の代わりができるかもしれない。

もともと運転者は外部にむき出しだった。屋根のあるクローズ型が発売されたのは1920年代だった。これによって天候にかかわらずドライブが可能となった。そしてレベル4以降の自動運転が可能となれば、運転者はたんなる搭乗者になる。運転中から旅行中、睡眠中、同乗者との会話中になる。これまで運転手だったひとは、自動車の外を眺めずに、内側を向くようになる。そうなると自動車インテリアが注目を浴びるだろう。そして、車内でのエンターテイメントが強化されるに違いない。

そのとき、運転自体の快楽は捨て去られるのか――。

ところで自動車はなぜこれほどまでに人びとに訴求し続けたのだろうか。もちろん、かつてのアメリカにおいて大陸を移動できる利便性はあっただろう。また、自動車が自由の象徴としてとらえられた側面もある。1920年代、婦人たちにとっては家庭から社会へのアクセス手段として考えられた。移動=自由だった。

ただ、他の交通手段があるにもかかわらず、自動車を積極的に選択するひともいる。もちろん歴史的にはアメリカで自動車産業がロビー活動を続け、道路建築を加速させた点がモータリゼーション発展の背景には欠かせない。

しかし、単純に運転が面白いと思う人はいるし、私もその一人だ。ところで、自動車愛好家のための文献ならまだしも、自動車の運転そのものについての愉悦について述べるものはすくない。そのなかで、福岡伸一さんが『できそこないの男たち』(光文社)で書いている内容はきわめて興味深い。福岡さんは、たとえば、ジェットコースターに乗る快楽を、加速度を感じる知覚にあるとする。

通常、私たちは時の流れを知覚することができない。しかし巡航する時間を追い越すとき、時間の速度を感じ、快楽を覚える。「蟻の門渡りあたりから始まり、そのまま尿道と輸精管を突き抜け、身体の中心線に沿ってまっすぐに急上昇してくる感覚。(中略)アクセラレーション。それは文字どおり落下だけではなく、アクセルを踏み込んだときに現れる。上昇時にも発進時にも、それを私たちは敏感に感じる」(同書)。福岡さんは、そして、加速の知覚こそが、もっとも直截的な性の実感だという。

福岡さんは、射精も加速覚と結びつくことで唯一の生の報償といっていて面白い。自動車を愛人かのように擬人化する例はどこでも見られるし、セックスの暗示を語った60年代の米国における広告も、その観点から見ると合点がいく。

たしかに、利便性だけが優先され、すべてが自動運転になるはずはない。一部では、加速覚--、運転したい欲求を満たしたいひとはハンドルを握り続ける。または、VR(バーチャルリアリティ)によって、運転しなくなった人類の欠乏を補完するだろう(ジェットコースターやカーレースのVRが多いのは示唆的だ)。

・自動車の今後とは

自動車は移動するハコとなるとき、フリーミアムモデルが発展するかもしれない。たとえば、無人タクシーに乗って5分間のCMを見れば1メーター範囲であれば無料になるサービスだ。

また自分の所有物でなくなった自動車は、デザインがさほど重視されなくなってくる。すると、自動車の形は四角形の無味乾燥なものに近づいていくだろう。そのほうが宣伝広告を貼りやすくなり、外部にアピールしやすくなるからだ。

また、海外でウーバーやグラブタクシーに乗ると、意外に上級クラスの自動車が多いことに気づく。ウーバーでの副収入を見越して、上級クラスを購入しているのだ。上級クラスだと料金も高くなるため、妥当な先行投資というわけだ。

通る自動車の種類によって宣伝広告を変えていく、巨大広告塔が開発されている。そし後、自動車はGPSと連携し、場所に応じて車内での宣伝広告を変えていくだろう。移動者の嗜好はすでにスマホ経由で自動車に伝達しているとすれば、そのようなシステムは可能なはずだ。

そして、自動運転がさかんになれば、自動車は動く金融商品となるだろう。リターンを考えて投資し、道路に放出する。お客を拾っては、交通料金を回収する。それはすなわち、道路に保有する「動く株券」のようなものだ。

<つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい