ベトナムの作業者調達に潜入してみた(坂口孝則)

東南アジアのインドシナ半島東部に位置する社会主義共和制国家。首都はハノイ。ASEAN加盟国、通貨はドン、人口9,500万人を突破した……というベトナムで人材調達のお手伝いをしてきました。

簡単にいうとベトナム人作業者のリクルーティングです。それで候補者8人の面談を行いました。人材レベルの向上に驚きました。

ベトナム人を受け入れる企業を説明すると、京都の企業で、かつ精密機械関連のところです。個別生産のため、固定的な仕事はありません。都度、最適な業務を模索する必要があります。

いまご存知のように、米国では履歴書に顔写真すら貼らないようになっています。個人情報のうち人種などが採用に影響しないようにするためです。ただ、ここはベトナム、恐ろしいほどの個人情報が記載されていますし、なんでも訊いてもかまいません。なんでも、というのは、極端な話、女性のスリーサイズから(訊きませんが)、両親のこと(訊きませんが)、宗教(これは訊いてしまいます)……等々。

これはベトナムなので一例にすぎません。でも、海外人材との交流が多くなった今、参考になるのではないかと思います。

そこで、我々が実施したうち、効果のあった(その個人がよくわかる)施策は次の通りです。

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1.できるだけ突発的な作業を与える

私たちはお菓子の箱を与えて、その展開図を予想して書いてみろ、と課題を与えました。すると、けっこう面白いことがわかります。

(1)箱を触ろうともせず、見るだけで書こうとする候補者が多いのです。これは、現場にいっても、ものづくりの精神として重要な現物主義が薄いのではないかと推測できます。これは学んで身につくものではない。だって、目の前にモノがあったら、触っていろいろと調べたくなるはずだからです。なお、定規でしっかり測ったのは、二人だけでした。

(2)その後に、一人ひとりを呼んで、修正したいところはあるかと尋ねます。まわりの状況もわかっているはずです。失敗はしてもいい。でも、改善しようという意気込みがあるかどうか。これも性格が出ます。

(3)終了後の様子を見ると、消しゴムのカスを乱雑にしたまま平気だったり、あるいは、えんぴつをまったく整える素振りを見せない候補者がいます。これは5Sを知っていると、全員はいうのですが、その意味を理解していない様子がわかります。

2.嘘でもいいから、論理的に話せるかを見る

彼らは二十代前半です。「精密機械関連」なんて知るはずもありません。ですから、まずはにこやかな雰囲気で、「ベトナムに帰ってきたら、ほんとうは何したいのか」と訊いてみます。それで面接官ができれば「俺は今の仕事を辞めたら、飲食店でもやるつもりだ」と、本音をいっていいと思わせます。

すると出てきた答えは「自動車部品メーカーを作りたい」「レストランを開きたい」「木工職人になりたい」「教師」など……。ほんとうに、精密機械とは無関係のものばかりが出てきます。そこで、すかさず「それって、日本でやる仕事と関係ないよ」と伝えます。

別に、ぶっちゃけ、精密機械なんて興味ないと思っています。しかし知りたいのは、嘘でもいいから、じゃあその経験をいかに夢に結びつけたいか、その論理的説明なのです。二人は「関係ありません」と断言しました。あとは「しかしお金を稼ぎたい」といいます。これではかなり弱い。別に日本の就職学生とは違いますから、確実な答えは求めていません。ただ、そこに、コミュニケートできる性質をもっているか知りたいのです。

3.前職があった場合は、できるだけ詳細を聞く

たとえば、前職がベトナムで「縫製工場でのアイロンがけ」とあったら、それを細部にわたるまで訊いてください。「一日に何枚くらいアイロンがけしていたの」「部位はどこ」「何度に設定していたの」「アイロンメーカーはどこ」「アイロンがけしていた素材は」などです。これも、別に知りたくはありません。しかし、こう効くことで、どれだけ積極的に仕事にコミットできるひとかどうかがわかります。

ほんとうにひどい人になると、創造性を豊かに仕事ができます、といいながら、まったく答えられません。指示の通りやっていました、とかね。

4.日本の印象を訊く

日本の印象を訊くと、100%「素晴らしい国です」と答えます。だから「そんな良いところだけじゃないよ。自殺者もいるからね。ところで、悪いイメージは」と訊きます。すると「そんなことはありません。いいイメージだけです」と返ってきます。これも100%です。

そこで、「あ、じゃあ、そこまでいいイメージの国の人口って知っている」と訊きます。これは人口ではなくても、総理大臣でも、ベトナムから何時間くらい飛行機でかかるか、とかなんでもかまいません。ほんとうに希求していたら、それくらいは調べるはずだからです。夢を具体的にイメージできなかったら実現しません。逆に、真剣ならば、それくらいのリサーチは、いまではスマホでできるのですから(所有率100%)準備可能です。

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とまあ、これが私たちがやったなかで、効果のあった施策でした。

ところで、「いくら稼ぎたいか」と訊きましたら、「300万円」でした。ううむ、それはけっこう難しいかもしれない、と思っていると「3年で」なんですって。訊いたら、「正確には貯金が3年で300万円」とのこと。「月給は12~14万円、そこから親に仕送りして、それを貯めておいてもらう」と熱く語る様子は、たしかに日本における高度成長期の集団就職のそれだったのかもしれません。

結局は上位の二人を選んだのですが、残らなかった候補者は落涙しておりました。私はこれくらい真剣に仕事をしたいと思いましたよ。

<了>

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