調達・購買担当者の意識改革~パート18「サプライヤの経営安定度を見る方法」(坂口孝則)

~今回は前回の続きです~

・サプライヤの何を評価し、どう評価結果を伝えるべきなのか

解説:サプライヤを選別し、集中した取引を実施する。これがQCDを高めるに有効です。サプライヤにとっても、多く受注できるバイヤー企業には経営資源(人・カネ・物)を投資できます。技術開発も進みます。サプライヤのうまい管理を、そのままサプライヤマネジメントと呼びます。さらにサプライヤとは、「公正なサプライヤ評価による サプライヤ戦略に基づいて、 サプライヤを層別化・差別化し扱うこと」だと私は定義しています。そして、それにはサプライヤ評価が基本となります。評価対象を決め、評価を実施すること。それにより、評価結果を全社的なメッセージとし、サプライヤ層別化を進め、サプライヤ選定に反映させます。

意識改革のために:

よくISO取得企業は「サプライヤ評価はやっている」といいます。ほんとうでしょうか。実際には、評価のための評価になっており、ほとんどのサプライヤが及第点となっています。これでは意味がありません。サプライヤ評価は、サプライヤ構造強化や、あるいはサプライヤ改善指導に使うものです。攻めのサプライヤ評価とするためには、及第点ありきではいけません。

そこで、この連載では、攻めの「サプライヤ評価」と「サプライヤ評価結果通知書」をご提示します。

http://www.future-procurement.com/sapuhyou.pdf

http://www.future-procurement.com/sapukekka.xlsx

~今回の連載ここから~

・サプライヤ評価と通知

前回、サプライヤ評価についてご説明しました。私がセミナーなどで繰り返し申し上げている肝要があります。それは、

(1)評価軸の設定は重要であるものの、あまりにこだわる必要はない。重要なのは、評価を毎年ちゃんと繰り返すことだ

(2)調達・購買部員だけではなく、他部門も含めた全社で評価すべきだ

の上記二点です。

→(1)の説明:前回の連載で私は、評価軸を「品質」「コスト」「納期」「技術・開発」「経営」とするベーシックなやり方についてご説明しました。その下の代表項目も説明しました。が、やや矛盾するようですが、極端な話、できそこないの評価項目でもかまいません。厳密にやろうと思っても、果てがありません。重要なのは、評価をまず設定して、それを毎年ちゃんと繰り返すことです。

たとえば上司が変わったら評価をやらないとか、やったりとか。それではダメで、継続的に評価を行い、サプライヤに対して「私たちはこういうサプライヤを求めている」と訴え続けるべきです。一回評価やって、それで突然、サプライヤがQCD改善しだすなんてありえませんから。

→(2)の説明:調達・購買部のみでサプライヤ評価をすると、マスターベーションになりがちです。サプライヤからしても、調達・購買部のみの意見だと思われると、その評価結果を「軽く」見られないとも限りません。それよりも、設計・開発・品質・生産管理……と関係部門すべてを巻き込んだ評価とすることで、全社のメッセージとなります。これはサプライヤにとって強力です。

私は常々、見積り評価は、調達のメッセージにほかならないと申し上げています。おなじく、サプライヤ評価も、評価自体がバイヤー企業の欲すものを示す=メッセージにほかなりません。

そのうえで、評価結果通知表をご覧ください( http://www.future-procurement.com/sapukekka.xlsx 

この通知表について。大きく左側が評価通知とコメント、右側は関連部門意見と今後期待することに分かれています。

・サプライヤ通知の目的

ここで、左側の評価コメントをご覧ください。どこまで述べるか迷いますよね。前回も書いた通り、ここに絶対的なやり方はありません。ただ、失念してはいけない一点を。それは、サプライヤ通知の目的です。

評価を見せて「なんだよこりゃ、納得いかねえ」とか「なんて酷い評価だ! もうやる気なくした!」とかの思いをサプライヤに抱かせて何も良いことはありません。そのサプライヤにさんざん悪口をいってもどうしようもありません。みなさんは個人で取引をしていません。あくまでも会社間取引に携わるものです。

したがって、そこはクールに自分の本音は隠したとしても、サプライヤ通知の目標を失念してはいけません。

もしそのサプライヤのシェアを激減させるんであれば、社内関係者とちゃんと討議して、シェア変動を粛々と実施すればいいのです。それをサプライヤに向かって「こんな酷い結果だから、おたくへの発注を減らしてやる!」と息巻いても、両社にメリットはなく、むしろしこりが残るだけでしょう。

では、サプライヤ通知の目的とは? 言わずもがな、「サプライヤに自らの問題点を理解してもらい、その問題点改善をバイヤー企業が望むものと知らせ、両社ともに協業するきっかけとなる」ことですよね。だから、そのコメントはすべて、改善を促し、期待をかけるものでなければいけません。

評価軸の設定によって多少は、サプライヤが納得いかないケースもあるでしょう。でも、些細な点を議論とするのではなく、もっと大枠として両社の進むべき道を合意するのが大切です(し、そう調達・購買担当者も意識して話を進めるべきでしょう)。その意味で、QCDDM(品質・コスト・納期・開発・経営マネジメント)それぞれに、具体的にどうしてほしいかを記載していきます。

同時に3年間分の改善推移を見せる。ここまでが左の部分です。

・サプライヤへ全部門からのメッセージ

さらに右に進みます。ここでは、大きく

・関連部門意見(最新評価年度)
・次年度目標設定(ご協力要請・改善依頼)
・その他、評価項目外のご協力依頼・改善依頼事項

に分かれます。繰り返すと、評価は評価で終わりではありませんから、将来につなげる必要があります。そこで、まず最新年度の評価について関連部門からの意見を伝えます。そして、今後、どうやってほしいのかを目標設定の形で伝えます。

もしかすると、みなさんの会社ではこの関連部門からの意見が集まらないかもしれませんね。「いや、サプライヤ一社一社がどうなってほしいかなんて、考えたこともない」といわれるかもしれません。評価をやり始めの企業では仕方がない反応です。ただ、ここで極論をいいます。(これまでの内容と矛盾することもありますが)そんなときは、調達・購買担当者が各部門の意見を自ら書いて、それを各部門から承認してもらうくらいの意気込みが必要です。叩き台がなければ各部門が動かないケースもあるでしょうから、それくらいの積極性が求められます。

そして、これはメールでポンと投げてはいけません。できれば、評価通知書とともにトップ会談を実現させましょう。年に一回でもかまいませんので、そのような場を使って、営業戦略と調達戦略のすりあわせもできます。それに評価通知書だけを送付すると、誤解されることもあります。面と向かうことでこちらの誠意を伝えられます。

外資系の一部企業では「リテンションマネジメント」と呼び、サプライヤ・自社間の関係性維持向上(リテンション)のために定期的な企業間面談を実施しています。しかるべき役職者同士を引き合わせるわけです。

・サプライヤ評価で注意すべきその他事項

また最後にサプライヤ評価で注意すべきその他事項を三つあげておきます。

(1)社内への公開はじゅうぶんなご注意を!

以前、某企業でサプライヤ評価を社内公開していたところ、あらぬ噂が広がりました。「某社(某サプライヤ)は倒産しそうだ」というわけです。それはサプライヤ評価の経営項目を設計陣が誤解したことによりました。経営評価が悪いことと=すぐ潰れる、ではありません。当たり前ですが。ただし、誤解を与えやすいのも事実です。したがって、妥協案としては、総合評価点のみを開示するか、あるいは関係部門のマネージャー職以上のみに開示するなどです。これも絶対的な方法はありません。試行錯誤しながらやっていきましょう。

(2)サプライヤ評価は可能ならば年に一度

会社法では会社は365日に一度生まれ変わる、と定義されています。経営方針にしたがって経営を行い、その一年をかけて事業計画達成に邁進します。したがって、ほんらいは毎年、毎年、その経営成果を測るという意味でも、年に一度の評価がふさわしいとされています。ただ、ISOなどでは三年に一度となっています。それに、毎年やってもあんまり変わらないよ、とおっしゃるかもしれません。もちろん、これまた妥協案では、重要なサプライヤのみ毎年だとか、あるいは経営項目のみ毎年などの工夫が考えられます。これも絶対的な手法はありませんから、試行錯誤しましょう。

(3)評価者は迷ったら二人を設定

サプライヤ評価について評価者主体の設定に迷ったら、二人を設定してください。できれば、サプライヤ担当者一人と、その上司など。定量的な項目は間違いがありませんが、定性的指標は評価者によって点数がズレる可能性があります。二人の評価者を設定することで、点数のズレを発見できます。

以上、サプライヤ評価で注意すべき三事項をあげました。

これら注意事項をお聞きになったあと、やるべきはまずサプライヤ評価をトライなさることです。最初から完全な評価項目の設定などありません。まずはやってみながら、サプライヤ評価をブラッシュアップさせていってください。サプライヤ評価はメッセージであり、また評価を通じて、みなさんとともに歩むサプライヤを進化改善してもらうツールになるのですから。

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