ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

テキスト版 調達購買「私塾」50回突破記念講義
~サプライヤー情報を活用するためにまとめ会話に生かす「A4」作成法

去る9月某日、毎月最終金曜日に開催している調達購買「私塾」の50回突破念講義が開催されました。その時の講義をお伝えする第三回です。

前回は、バイヤー企業とサプライヤーの人的なつながりの「見える化」に取り組みました。相互に面識がある場合は、色を塗りつぶしたり、直接連絡ができる相手には、線を結んだりといった手段で、両社の関係を表します。

ここで、1つの例によって、見える化した関係性の判断方法を学びます。

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上図の通り、人間関係をあらわす面積はまったく問題ないほどに、両社の関係者双方に面識がある場合です。このようなサプライヤーに対しては目標設定Aの項目にもっとも大きな差が出ます。これは前回お伝えした現状=Bの状態がどのようにあるかによって、目標設定Aの内容にも違いを生まざるを得ないためです。

例えば上図のように人間関係はたもたれ売上アップのトレンドに有り、これまでの課題も確実に解決されている場合。これは、疑う余地のない区別すべき重要(パートナー)なサプライヤーです。今後、さらに関係性を維持させ、進化させます。

おなじように売上アップトレンドでも、サプライヤーとの間に問題が山積している場合、その理由を明確にして、改善活動をおこなわなければなりません。購入額が多いわけですから、山積した問題がバイヤー企業の顧客にも悪影響を与える可能性が高くなります。そのような事態は避けなければなりません。購入金額が多いから、改善による効果も大きくなりますので、人的なつながりの大きさを活用して、全社的な改善活動を調達購買部門で実践します。

また、このような関係の面積を持っていながらも、売上が減少トレンドにあって、問題も少ない場合、過去重要だったと判断できるかもしれません。この場合は、この密接な人間関係のリソースを再利用するのか、あるいはこれからお話しする取引関係を断絶するサプライヤーの候補とするのかを決定しなければなりません。

これまでお話した3つの事例でご理解頂けるとおり、同じ面積でも、他の要素(B)の状態でAの設定内容が変化するわけですね。この事例からも、人間関係だけでは測れないサプライヤーとの関係構築の難しさ、良好な状態を維持する困難さがご理解頂けると思います。

つづいて、A4のD:サプライヤーとの接触頻度です。

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サプライヤーと担当バイヤーの接点とは、①面談 ②電話 ③メールが挙げられ、それぞれの回数をカウントします。

この取り組みは、ザイアンス(単純接触)効果を測定するためにおこないます。ザイアンス効果とは、会う回数が多ければ多いほど、会った相手に対する好感度が増すとの考え方です。インターネットで調べると、スライドに記載したザイアンスだけでなく、ザイオンスと明記されるケースもありますが、両方とも同じです。これは、ザイアンスさんがポーランドのご出身で、日本語で表記した場合のブレです。

このカウントは、中身(時間、文章量)でなく「回数」がポイントです。ザイアンス効果の定義からすれば、多ければ人間関係は良好といえるわけですが、これも気をつけなければなりません。特に、日本企業ではお客様へ足を運ぶ行為が営業パーソンのセオリーとして確立されていますので、このザイアンス(単純接触)効果だけで、関係性を評価するのは危険です。

もっとも典型的な例は、地元のサプライヤーのケースです。地元で、車ですぐに訪問できるサプライヤーは、当然接触する機会は増すわけです。だから、バイヤーとしてもサプライヤーや担当者に好感を持つのはやむを得ません。ポイントは、他の要素(A・B・C)との合わせ見て、効率的な「良好さ」なのかどうかを判断します。

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ここでは、ザイアンス効果と同時に、他の要素を確認します。接触機会が多く、将来的な方針を共有(A)して、改善活動も積極的(B)である場合、信頼関係が機能し、具体的な成果も得られていると言えます。このようなケースでは、接点あたりの時間を減少させて、接点あたりの効率を追求に取り組んでも良いかもしれません。いわゆる御用聞き、用事がないのに来ました!は、双方の合意にもとづいてやめるのです。私の経験では、例えば1ヶ月に1回は必ず時間を割いて面談して、その月の双方の活動をシェアするといった活動をおこなって良好な関係は維持できています。

続いて、接点が多いが、将来的な課題の共有や改善活動には消極的な場合です。これは、あきらかに人間関係だけの信頼関係が先行しているケースです。この場合は、関係拡大するのか、あるいは撤退するのかを判断するサプライヤーなのか、判断します。また、改題解決や改善活動に消極的な理由を探索して、障害を取り去る取り組みも必要でしょう。

最後に、接点は少なく、関係の範囲も狭いが、売上が増加トレンドを示している場合です。これは、サプライヤーが調達購買部門との関係を持たない戦略を採用しているかもしれません。ある営業のセミナーでは、調達購買部門との接点はできるだけ少ない方が良い、調達購買部門よりも購入要求部門との接点を増やして、他の企業に発注できなくするべき、といった話がされていました。調達購買部門と話をしても購入価格を下げられるだけといった点が、サプライヤー側からコンタクトしない理由に挙げられています。

このようなサプライヤーに対しては、サプライヤーからの購入内容の重要性によって、関係範囲・接点拡大を試みます。果たしてそのサプライヤーに優位性が存在するのかを調達購買部門として接点を増やし判断するのです。この場合は、購入要求部門とは密接な関係を構築しているはずですから、打ち合わせに同席するとか、見積もりの提出先を調達購買部門にしてもらうとか、サプライヤーだけでなく、社内関連部門にもこのA4の記載情報をベースに、調達購買部門との接点増大に協力を要請するのです。

<つづく>

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