はじめの一歩!調達・購買業務改革手法4(牧野直哉)

今回も調達・購買部門における業務改革手法の切り口です。調達・購買部門の業務改革に際し、まず現状を正しく理解し、正しくあるべき方向を導く最初のプロセスです。

●社内ニーズの確認と掌握

調達・購買部門へ経営層や社内関連部門は、どんな要望や希望、好き勝手かもしれないけど「あるべき姿」を設定しているでしょうか。それらをまとめて「ニーズ」と表現します。どんなニーズであれ、調達・購買部門として、ニーズの内容を掌握しているかどうかがポイントです。

多くの場合、経営層や社内関連部門の調達・購買部門への期待は、サプライヤからの購入価格にまつわる話、コストダウンです。いつの世もこの期待がもっとも大きいはず、と高をくくっていませんか。企業の経営環境や、各事業の競争環境によって、ニーズは、コストダウン+αです。いうなれば、コストダウンは当たり前。その上で、調達・購買部門にどんなニーズがあるのかを掌握すべきです。

たとえば成長著しい事業の調達・購買業務では、購入価格の低減と同時に、いやそれ以上にリードタイムの短縮が求められるでしょう。品質問題を発生させた直後であれば、品質管理レベルの高いサプライヤへの発注を社内から求められるはずです。また衰退産業でも、一定数の需要が確実に見込めて、市場での生きのこりを計る戦略の場合は、事業継続力の高いサプライヤを見極めて調達を実現しなければなりません。

このように考えると、経営層や社内関連部門のニーズには、調達・購買部門におけるサプライヤ選定=ソーシング業務に影響する極めて重要なヒントが隠されています。調達・購買部門として、まずそういったニーズを的確に補足して調達・購買業務に反映できるかどうかを見極めます。

社内ニーズの見極めには、まず経営層や社内関連部門とのコミュニケーションが欠かせませんどんなニーズをもっているかコミュニケーションを通じて掌握します。その際には、最新の調達・購買環境を経営層や社内関連部門へレクチャーしましょう。社内ニーズの実現が難しい環境であればそれを伝えるとともに、ニーズの絞り込みや優先順位付けを共同で行います。

こういった取り組みは、当たり前のように行われるべきです。しかし驚くほどに調達・購買部門と社内関連部門の間には大きな溝が存在し、建設的な議論など望むべくもないといった悲惨な実態を抱える企業が多いようです。毎年新たな会計年度が開始される前には、各部門の戦略を討議するプロセスがあるはずではありませんか?公式的な討議とは別に、調達・購買部門として関連部門からニーズを聴取し、調達環境を伝える「場」を設定から始めます。ニーズは、次の3つのポイントで行いましょう。

・購入品のQCD
一般的に「品質は高く、コストは低く、リードタイムは短く」が基本です。しかし高品質と短いリードタイムは、低コストとトレードオフする場合が多いですね。社内関連部門とのコミュニケーションでは、トレードオフのバランスをどのレベルに設定するのかのヒアリングと討議、合意までが目標です。

関連部門から闇雲な「品質は高く、コストは低く、リードタイムは短く」ではなく、定量的レベル(できれば数値)とその根拠を求めます。競合している企業も、実は皆さんと同じようなサプライヤから購入しているのです。QCDのいずれも大きく異なる事態は、実はなかなか想定できません。そして大きく異なる場合、なにか違っている理由が存在するはずです。この点を社内関連部門と共通認識化できると、どの辺をターゲットにして改善するかが判明します。

・決算データ・業績
この点は、具体的な購入価格の低減目標で、経理・財務部門や企画部門から示されるはずです。この点は、提示された数値に対してできる、できないといった話に終始するのは得策ではありません。それより提示された数値を実現するための、コスト削減以外の条件の明確化に取り組むべきです。

調達・購買部門の目標管理でありがちな事態は、なんらかの要因によって年間販売目標数値が減少し、売上も落ちたにも拘わらず、コスト削減目標値は固定化され、少ない原資でコスト削減活動の強化を強いられる事態です。実際購入量が減少しているにもかかわらず、コスト削減額を増加させられるのでしょうか。そういった取り組みが、思い出す限りはじめての取り組みであれば、サプライヤから協力を得られるかもしれません。しかし購入額の減少は、コスト削減どころか、逆に値上げを持ち出されても断れない状況かもしれません。

そんな筋論を語ってもムダといった声が聞こえてきそうです。しかしある前提条件の下で設定した数値ですから、前提条件に変更があれば、結果として導かれる数値も変わるのが本来の姿です。この点を踏まえた上で、売上減少をカバーするために、調達・購買部門で工夫してコスト削減へ取り組むのであれば、担当者のモチベーションも随分変わると思いませんか?

・調達・購買部門/担当者への期待
この内容は、大きく2つに分かれます。1つは、購買業務の手続きやプロセスの問題。もう1つは、取引先選定(ソーシング)にまつわる話です。

調達・購買部門以外では、購入=買う行為を随分と簡単に捉えている場合が多くあります。たしかに消費者として購入代金さえもっていれば、どんなものでも購入できます。しかし企業の場合、購入内容を示す仕様書や図面・レシピを作成したり先々の需要見通しを明確にしたり、購入規模によっては社内稟議が必要だったり、企業ごとに設定されたルールにそった「手続き」が必要です。この点は、できるだけ簡素化したルールで社員が方法論を共有化しなければ、購入の度に問い合わせがあったり誤った方法で依頼されると、調達・購買部門にも余分な手間が発生します。

ある企業では、手続きの標準化を進めて、2種類の購入依頼方法で企業内購買のすべてを運用していました。一方事業内容も規模も小さく、購入規模も小額で、14種類もの異なる購入依頼方法を社内に強いている企業も存在しました。社内関連部門が購入する場合に、できるだけ簡単に迷わない=社内関連部門の業務効率化を阻害しない購入手続き方法の確立が必要です。

続いて取引先選定(ソーシング)です。調達・購買部門は、一般的に日々の購買業務を円滑に遂行する=発注業務(パーチェシング)に比重が偏っているケースが多くなります。結果的に取引先選定(ソーシング)業務がおろそかになってしまいます。購入依頼部門が勝手に発注先を選定してしまうのも、実際は調達・購買部門でソーシング業務が社内関連部門の期待レベルに達していない事実が背景にあるケースがほとんどです。

この点には、まずバイヤの問題意識の喚起が必要です。現在取引しているサプライヤは、自社のニーズを満足しているのかどうか。これは確認するために、営業パーソンから十分なヒアリングを行い、サプライヤを訪問しなければなりません。また現在取引しているサプライヤになんらかの不満がある場合や、新たな社内関連部門からのニーズを実現するサプライヤが必要な場合、インターネット検索や展示会や商談会へ足を運び、サプライヤ情報を収集します。これらの取り組みに共通しているのは、バイヤがオフィスを留守にする点です。サプライヤの営業パ-ソンが来訪して行うコミュニケーションではできない取り組みを行うには、バイヤの留守・外出にある程度寛容な部門内風土が必要です。「あいつは出かけてばかりで外で遊んでいるのか」なんて陰口をたたかれるような調達・購買部門に未来はありません。

外出するバイヤも、外出時にどんな取り組みを行っているのか。簡単なメモだけでも上司だけでなく、同僚に報告します。外出したバイヤが興味をもてなくても、他のバイヤが興味をそそられるサプライヤかもしれないのです。営業パーソンが新たな顧客獲得に苦労するのと同じく、バイヤも新たなサプライヤ獲得には同様の苦労がある。そういった当たり前の理解が必要なのです。

(つづく)

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