新人バイヤーへの提言 ~アンテナを高く!(牧野直哉)

多くの日本の会社では、あと数週間で新しい年度が始まる。現在、今年度の追い込みと称してコスト削減の上積みに四苦八苦しているか、それとも来年度へ向けて虎視眈々と戦略・目標の上位概念を具体的な個々人の行動計画へ落とし込みをしているかであろう。そういう意味では、既に来年度は始まっているといってよい。

最近では、目標設定と達成度評価がセットになって給与に連動しているケースも多い。目標設定ともなれば皆血眼になって……と思いきや、実際は人件費が総枠で管理されたり、一律予算カットの憂き目を見たりといった、業績連動での個人評価が有名無実化しているケースも多い。しかし、だ。

トップダウンか、それともボトムアップか。この両者は、会社の文化によっても大きく異なる。しかし、どちらの場合でも目標や戦略を検討している時は、是非普段以上にアンテナを高くして、情報収集をすべきである。理由は言うまでもないが、将来、会社のどんな考え方に基づいて働くのか、という個人の生活に大きく影響することを決めているのだ。来年度を控えた今の時期であれば、そういった情報には敏感になる必要がある。そして是非とも、自分だったらどうするのか、自分にはどんな影響があるのかを考えてほしいのだ。

企業に属している以上は、組織としての考え方が前提として存在するはずだ。そして、もし上位者から目標や戦略の策定に際して相談を受ける場合や、調達に関する企画をつかさどる部門に席をおく、もしくはそもそも目標や戦略を決定する立場に有れば、内部のみならず、外部環境にも当然目を配っておくべきなのである。そのために、常日頃からアンテナを高くする意識を持つことはとっても重要なのである。

ここで、アンテナが低い人の典型的な発言をあげてみたい。

「そんなこと聞いてない」

「そういう内容は、俺の所に伝わってこないんだよなぁ~」

「どうしたいのかが聞こえてこないですよね」

上記のような発言の経験がある場合、ちょっと自分の立場を心配した方が良い。そして「実際ほんとうに聞いていないし」と思ってしまった場合、それは、自らがかなり厳しい立場におかれていると認識すべきである。いうなれば、LCB(Low Cost Buyer)へと自分が転がり落ちている途中にいることを認識すべきなのだ。

まず、バイヤーとしての経験が浅い場合。たとえば、自分はまだ経験もないし、戦略とか目標をつくる立場にはないと思ってしまっている。既にLCBへ片足をつっこんでいるのも同じなのだが、まだ改善の余地は十二分にもっている。なぜなら、今そうなっている理由の一つに、身近なある人の立ち振る舞いが大きく関係しているからだ。

私「そんなことをしたら、我々の事業が立ちゆかなくなるんじゃないですか?!」

上司「おまえはそんなこと考えなくて良い!こっちが考えることだ」

これは、私が実際に経験した入社2年目の上司とのやりとりである。今でも鮮明に記憶している。この背景は、当時営業だった私は、ある案件の見積を作成していた。お客様は、とある国の大きな財閥企業。その財閥企業の本社ビル用の設備機器である。既に競合メーカーが食い込んでおり、後発であった我々は巻き返しを計っていたのだ。

そんな状況に足下を見たお客様は、無理難題、実現がきわめて難しい指値をしてきたのである。そしてコスト積算を見直せとの上司からの指示に対し、どう見直したところで限界利益の確保すらままならない状況でのやりとりである。

話を戻そう。経験の浅いバイヤーが、戦略・目標といったものに対して、作る立場にないとか、与えられるものといった当事者意識の欠いている場合、その大きな原因の一つは、身近な上司や先輩社員の当事者意識の欠如がある。経験がないが故に、言われて事だけをやっていればいいという考えは傲慢だ。経験がないが故に、キラリと輝くアイデアを生み出すことだってある。しかし、そういった環境=上位者・先輩の傲慢さばかり責任を求めることには無理がある。では、どうすればいいのか。

質問するのである。自らの責任の範疇で、どういった考え方によって、何をすればいいのかを聞いてみるのである。これは決して難しい話ではない。そして、普段働いている中で、耳にする話をちゃんと理解する事を心がけること。この2つを忘れずにいてほしい。

経験が浅くて未熟であったとしても、小さい責任の中で、どのように事業運営に貢献するのか。アンテナの高さとは、当事者意識と言い切ってしまってもよいくらいだ。当事者意識とは、ある役職に就いたから、経験年数を重ねたから持つべきものではない。自分が労働の対価として日々の生活の糧を得ているのであれば、入社したその日から当然持つべき意識なのである。

もう一つ。繰り返しになるが、ふたたびアンテナの低い人の発言の例を出してみる。

「そんなこと聞いてない」

「そういう内容は、俺の所に伝わってこないんだよなぁ~」

「どうしたいのかが聞こえてこないですよね」

ある程度経験を持っているにも関わらず、このような発言を普段してしまっている場合。事態は深刻だ。もしかすると、そのような情報を与えるに足る能力がないと判断されているかもしれないのだ。上記の発言をよくおこなっている人への私の回答は以下の通りだ。

「そんなこと聞いてない」 →はい、あなたには言っていません

「そういう内容は、俺の所に伝わってこないんだよなぁ~」 →はい、伝えていません

「どうしたいのかが聞こえてこないですよね」 →いや、聞いていないだけでしょう

あえて伝える価値を認めていないのだ。ここで「伝えられる価値」を考えてみたい。なぜ言ってもらえないのか、伝えられないのか。これも答えは簡単、過去にしてこなかった反応、無視してきた自分の姿勢への裏返しと判断すべきなのである。話をしなくてもさして大きな影響がないから・・・影響力を持った人間へは事前に相談したり、コメントを求めたり、当然情報も流す。「聞いてない」のでなく、その人は言う側からすれば、言う価値の無い人なわけだ。

では、価値の有るビジネスパーソンになるためには、どうすれば良いか?一番簡単な方法は反応することだ。イエスかノーか、どんな意見を持っているのか、自分の考えを他人へ伝えることをやっていれば、自然といろいろな情報が集まってくる。

情報はタダではない。たとえば、興味深い雑誌の記事があった場合、切り取ってコピーしてなんて作業が発生する。情報を提供するために時間を費やしている。情報を提供する側からすれば、その提供であからさまに代償を貰おうとは思っていないと思うが、ぜひあの人には知って欲しい内容、内容に関して意見を聞きたい人だから、手間を掛けて送るわけである。メールの転送にしたって、同じ事。他愛も無い作業であるが、面倒くさいと思われない程度に自身が価値を持つ存在であることが重要なのである。

アンテナを高くするとは、抽象的な表現である。抽象的であるからこそ、いったいどういう事なのかを考えて、自分でいろいろ実践するという姿勢も忘れてはならない。今まで二回示した言葉に、ある言葉をつけると、この姿勢が実現できる。最後にその一言をお伝えする。ただ一言を付け加えるだけで、相手の反応は必ず違ってくる。

「そんなこと聞いてないので、教えてください

「そういう内容は、俺の所に伝わってこないんだよな~誰に聞けばわかるのかな

「どうしたいのかが聞こえてこないですよね、どうしたいのかわかりますか

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