ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
サプライヤーマネジメント 10~関係継続論
前回は、サプライヤーとの面談回数によって、関連部門まで含めたサプライヤーとのコンタクトを指標として、関係を密にして継続を行なう方法を論じました。面談回数なので、どう見積っても一定期間に100回までカウントできれば実践が可能です。今回は、この面談回数をカウントすることで得られた結果をどう判断するかについて、具体的な例を用いて、お話を進めてゆきます。
- 重要サプライヤーであるにもかかわらず、面談回数が少ない場合
取引金額であったり、自社の事業運営に欠くことのできない技術を持っていたりするにもかかわらず、バイヤーとの面談が少ない場合です。
重要サプライヤーであれば、バイヤーとしてより一層の影響力の行使を志向すべきです。重要サプライヤーとは、購入するモノ・サービスの代替性に乏しいケースが多くなります。代替性が乏しいが故に、サプライヤー間での競争状態の創出もままならない。コスト削減にしても、中身がブラックボックスで……というように、バイヤーとしてはとても悩ましく、お手上げ状態であることが多いわけです。
だから、コンタクトの回数が多くなくても良い、ということではないですね。ここで手をこまねいてしまっては、バイヤーとしての職責を放棄したも同然です。何か、そんなサプライヤーへの影響力を行使する手を考えなければならない。さて、どうするか。
こんな時は、他部門とのコンタクト回数を探ってみます。重要と目される位置にある理由の一つと考えられる技術的な差異が、バイヤー企業側の設計者との打ち合わせで形作られているかもしれません。そして、もっとも憂慮しなければならない事態は、サプライヤー側もバイヤー企業側を重要視しているけれども、バイヤーとのコンタクトをスルーしているケースです。このような事態は往々にして起こっています。サプライヤーの営業としての立場からすれば、コスト削減しかいわないようなバイヤーとはできるだけコンタクトを持たないことが、もっとも円滑にビジネスを進める為です。
円滑なビジネスとは、サプライヤーだけのものではありません。 このようなケースでは、まず打ち合わせのアレンジをバイヤーが行なって、自社の設計・技術部門の担当者を本来の姿である味方としなければなりません。それには、まず彼らに役立つ存在となる。そして、対峙でなく、サプライヤーと一緒に製品なり、サービスを作り上げてゆくという協調関係を構築することが重要となります。その上で、なかなかコスト削減への道筋は険しいけれども、例えば、サプライヤー側の製品開発へ自社の意向を盛り込んで貰うとか、納入条件の改善によって、自社の購入コストを相対的に安価にするという対応を取りつつ、関係継続を行なっていくことが重要です。
- 重要性には乏しいけれども、面談回数が多い場合
このようなケースでは、いくつかの想定を行なうことが可能です。
(1)サプライヤーのバイヤー企業への依存度が高い。重要度のサプライヤーとバイヤー企業とのミスマッチ
このようなケースでは、既に継続するか否かを厳しく判断するステージにあるといっても過言ではありません。そのサプライヤーに発注する理由が見いだせない場合には、潜在的な関係断絶候補に挙げる。その上で、ちょっとレベルの高い課題を与え、その対応への姿勢と成果によって早々に決断を行なう必要があります。
(2) バイヤーとサプライヤー側の担当者の個人的な繋がりによるもの
これは、およそビジネスの関係とは言い難い状態です。ですが、個人的な繋がりの強さとは、時にフェアーなビジネスの状態を超越する結果を導く可能性をも秘めています。そのような可能性を考えても、関係維持に疑問符がついてしまう場合には、まずバイヤー企業側の担当者を変更するといった対応が必要になります。
上記の2つのいずれのケースも、多くの企業の資材部門で非効率性の代表と言えるケースではないでしょうか。サプライヤーマネジメントにおける重要度判断が、過去の報償的である場合には、このような状態が温存される場合が多いようです。しかし未来志向をベースとしたサプライヤーマネジメントの場合、過去の報償的対応とは決別しなければなりません。従い、サプライヤーマネジメントの前提条件として、その時々の応じた適正利益をサプライヤーにもたらすことも譲れない条件になります。後で儲けさせるから、とりあえず今は……的な軽々しい将来の約束は、バイヤー企業、サプライヤーの双方に、行く先のリスクにしかなりません。
これまで10回に渡って、サプライヤーマネジメントを論じてきました。最初には、どのようにサプライヤーとの関係を断ち切るかについて述べました。本日の最後に述べた2つのケースは、近いうちにサプライヤーとの関係を清算する可能性を秘めています。2010年になって新聞紙上を飾る調達・購買に関わる記事には、ある一つのキーワードが共通して存在します。それは「取引先数の削減」です。そして、サプライヤーの過度のバイヤー企業への依存を断ち切る大企業の姿勢も見え隠れします。
これまで語ってきたサプライヤーマネジメントの根幹にあるもの、それはある意味ではビジネスライクな関係の追求です。ビジネスライクといえば、何かクールな関係を想像させますね。しかし、バイヤー企業とサプライヤーとの関係はビジネスそのものです。ビジネスを越えた人間関係も、そもそもビジネスの関係が無ければ、ただの仲良しでしかありません。まず、ビジネス上の関係を健全な依存関係、双方の不足部分を補い、メリットをもたらすものとする。そして、双方の関連部門まで含めた密な人間関係を構築することが必要なのです。