短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)

この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第10回】会社について調べる①-0

まず会社について調べるケースについて考えてみましょう。本来は企業がもっとも大きな概念で、そのなかに「個人企業」「会社」があり、さらに「会社」のなかに「株式会社」や「合資会社」などがあります。ただ、ここではそのような厳密な使い分けなしに、いわゆるみなさんが働いているカイシャを想像してください。

会社について調べるケースは大きく二つが考えられます。
1.会社の事業と特徴(商品や特徴や歴史など含む)
2.会社の業績(売上高、利益、年度推移など含む)

調べかたの詳細は次以降で紹介するとして、ここでは概要を述べます。1について。その会社がこれまでどのような事業をやってきたのか、そしてこれからどんなことをやろうとしているのか。といった、いわゆる企業のビジネスに関する調べ物です。あるいは、その企業がかつてどのようなことで話題になったのかなとか、あるいは創業者がどんな人なのか、あるいはどういう不祥事を起こしたのかというのもこれに当てはまります。

会社の歴史を調べようと思えば、多くの場合その会社のホームページに社史詳細が書かれていますから参考になります。ただし会社のホームページでは美しい過去しか語られませんので、新聞や雑誌などの過去の記事、あるいはインターネットを含む他の情報元から多面的に調べてみる必要があります。またアマゾンのような書籍販売サイトにその会社名を入れて検索してみるのも一手です。

また、忘れてはならないのは、調査対象会社と取引をした経験のある社内関係者から話を聞くことです。会社というのは非常に面白いもので、メディアで知った内容と会社の実態には乖離があります。とくにどういう社風なのか、どうしても文字では伝えにくい側面があります。

さらに可能であれば、対象会社の人にコンタクトとってみるのも良いでしょう。社会学の実験で、六人を介せば世界中の誰とでも繋がるという実験があります。真剣になって探してみれば対象会社の社員と何らかのつながりをもっている知・社内の先輩後輩がいるケースが多々あります。

*会社の業績はあらゆる手を使って調べよう

そして2。その会社の売上高をはじめとする業績、そして財政状況を調べるケースです。あるいは子会社がどれくらいあるのか、連結決算の状況はどうか、過去数年で見てみると近年は売り上げが伸びているのか下がっているのか、あるいは利益状況はどうかなどが考えられます。

会社の業績については、上場企業であればネットでEDINETから各社の有価証券報告書等ダウンロードが可能です。また、ヤフー!ファイナンスのようなサイトでは、有価証券報告書のサマリーがわかりやすい形で提示されていますので重宝します。上場企業はIR(インベスター・リレーションズ)といって株主向けのホームページを作り、自社の業績を、説明資料などを交えて説明してくれていますのでそちらも役に立ちます。

次に非上場企業の場合です。非上場企業の場合は上場企業と違って、それらのサイトに載っていないケースが大半です。大きくは三つの手段によります。まず一つ目はその会社の人から直接、決算書(正確には計算書類といいます)などをもらう方法です。企業によっては、新規取引の開始前に、その会社の財政状況等を必須で調べます。もう一つは官報で調べる方法です。官報とは国が政策や法令等の情報を流す媒体で、そこに非上場企業の決算書が載っています。これを「公告」といい、会社化するメリットを享受する代わりに、官報等で決算状況発表をします。

ただし、多くの会社の場合は、実態として官報に公告をしていないため、三つ目の手段を使います。与信情報調査会社からレポート買う方法です。有名なところでは、帝国データバンクや東京商工リサーチ、海外の企業であればD&Bがあります。彼らは.各会社の決算状況をヒアリングしたり集めたりして発表・販売しています。彼らがすでに作成したものを購入するのが基本ですが、調査を依頼することもできます。

同時に彼らは各会社の評価なども行っています。将来性のみならず、近い将来に倒産の危機がないかも、独自の評価指標でレポートを作成しています。おそらくみなさんの会社でも、そういった与信情報調査会社と情報提供の契約を締結しているでしょうから、調べてみましょう。

また、特定の業界特有の問題を解決してくれる与信情報調査会社もあり、たとえば特定の反社会的勢力とつきあいがないか、などを専門で調べるところもあります。

これらの方法によって、「会社」というものの実態に迫っていきます。コツはあらゆる手段を使って調査することです。

【第11回】会社について調べる①-1

会社について調べるにあたって、まずインターネットを使った手法を取り上げます。本来は図書館や書籍などが最初にくるべきでしょう。しかし、現代は実務的にインターネットを使う機会が多いためです。会社についてインターネットで調べる際に次の簡単な指針をあげておきます。

□ウィキペディアは引用しない
□個人ブログは引用しない
□新聞社やビジネス系週刊誌のサイトにある情報は保留つきで信じる

一つ目のウィキペディアを引用しない、と書くことに私はいささか逡巡します。というのも、2016年の現在、ウィキペディアの情報はかなり精度が高く、週刊誌や月刊誌や書籍などのメディアに載っていない情報が少なからず含まれているからです。ただ現時点ではその信憑性を誰かが絶対的には保証しない点で、採用しない方針とします。たとえば雑誌社であれば、誤報を書いてしまえば、読者にたいし謝罪します。芸能ゴシップ系の週刊誌を眉唾と語るひとがいますが、とんでもない。訴訟を抱えますし売上減につながりますので、裏取りをしっかりしています。

そして二番目に個人のブログです。これは意見や分析、そして希望については、参考になるところがあるかもしれません。しかし「事実」に関しては、同じく保証されないものなので、ここでもあえて採用しない方針にします。

そして三つ目です。「ストレートニュース」という言葉があります。これは事実だけを述べる意味です。各ニュースサイトは、各企業の記者会見やプレスリリース等から情報を入手するケースが多々あります。「企業が何かを発表した」ことは事実ですから、これは大いに参考になります。ただしなぜ条件つきかというと、たまに「どこの会社とどこの会社が合併する」といった誤報が流れるからです。これは記者が企業の担当者から秘密裏に聞き出すケースが、とくダネと大誤報の両方につながるからです。しかし、大きな誤報があったら、インターネット上からは消されたり、訂正文が出たりするのが一般的です。

*週刊誌系のニュースサイトは使える

とくに参考になるのは、ビジネス週刊誌系のニュースサイトです。ここではあえて「日経ビジネスオンライン」「東洋経済オンライン」そして、「ダイヤモンドオンライン」の三つをとくに推薦しておきます。私はこの三社と付き合いがありますが、執筆者が各分野の専門家だったり週刊誌の記者だったりします。もし専門家の文章について疑義があったら、自社の記者に確認できます。またそれに限らず、かなり厳しくチェックしています。この三つのウェブサイトにはそれぞれ検索窓がありますので、そこで会社名を入力して検索すれば、ここ最近の状況がざっとわかります。この三ニュースサイトからはじめて会社情報を探してみましょう。

これ以外ではYahoo!とGoogle のニュース検索を活用します。Yahoo!なら「ニュース」を押せばその企業に関連するニュースが出てきます。真偽確認のコツは、2つ以上のニュースメディアが同じこと述べているかをチェックすることです。Yahoo!の場合は信頼できるメディアが基本的に配信社として加盟しています。ただ、そのニュースの引用元は必ず確認しておきましょう。

また繰り返しなるものの、ニュースサイトの記事を見るときに、事実か分析か希望なのかを明確に分けて読みましょう。また検索した記事数が多ければすべて精読する必要はありません。どんなことが書いてあるか、ざっと見るだけでじゅうぶんです。一記事に1、2分間でも、その企業のやってきたことや、やろうとしていることのあらましをつかめます。

また、それらのニュースサイトであまり良い記事が出てこなかった場合は、「(調べようとしている会社)+インタビュー」で検索してみてください。インタビュー記事というのはたいてい社長などの役員が受けることが大半です。それらの発言を追っていくだけでも会社の動きがわかります。

*会社のホームページを隅々まで確認する

調査対象の会社のホームページに情報を求める際には、YaHoo!とグーグルのドメイン内検索は覚えておきましょう。たとえば、ディスカヴァー・トゥエンティワンであれば、同社のホームページ内に書かれている情報を検索したいとします。そのとき、Yahoo!では「条件指定」のページ(http://search.yahoo.co.jp/web/advanced)からディスカヴァー・トゥエンティワンのURL(www.d21.co.jp/)を指定できます。Googleでは「site:調べたいURL キーワード」です。

こうしておけば、あくまで同社が公的に発表した内容を中心に集めることができます。もちろんウェブサイトにも間違いはあります。ただ、玉石混交のなかから探すよりも、はるかに効率的に調べることができます。また、両検索エンジンは、ウェブページの更新時期におうじ、範囲を狭めて検索もできます。

 <つづく>

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