サプライヤの倒産 最終回(牧野直哉)

今回は、これまでの内容をまとめバイヤーがサプライヤの倒産サインを読みとる糸口を三つお伝えします。三つに共通しているのは「違い」による「ひっかかり」です。日々、激務の中にあるバイヤーに、こういったサインを感じとるのは、少し酷な話かもしれません。しかし、この三つのポイントだけは逃さないとあらかじめ理解しておけば、必ず役立つ日が来ます。ほんとうは、そういう日は来ない方がいいのですけどね。

1.直接訪問の機会に「感じる」

バイヤーは、担当する重要なサプライヤに、最低でも年1回程度は訪問し、最新状況のヒアリングと、自らの目で経営状況を確認する機会をつくります。直接サプライヤとのコンタクトが業務である調達・購買部門です。リレーションの強化もしつつ、同時にサプライヤ社内の様子を「感じ」とります。

新規開拓したサプライヤの初回訪問時だったら、自社で設定したサプライヤ評価基準でチェックします。二回目以降の訪問は、自社のサプライヤ評価基準に加えて、前回訪問時との比較を必ずおこないます。そのために、訪問時には必ず見たこと、聞いたこと、感じたことをメモし、記録に残しておきます。私の経験では、調達・購買部門や、関連部門向けの出張報告書よりも、ノートに書き殴った「見たこと+感想」の方が、後々役立つケースが多くなります。感覚的な良いところ、悪いところといったレベルで、いろいろメモし、来るべき次回の訪問に役立てます。

また電話の使い方にも有効な方法があります。多くの営業パーソンが携帯電話を持っています。本人が直接電話を取るので、どうしても携帯の番号にかけてしまいます。これは、自分の用件が、少ない時間で確認できるメリットがある一方、サプライヤ社内の人脈開拓には、大きなデメリットになっています。オフィスに電話すれば、外出や打ち合わせ、会議で不在となっている場合も多いでしょう。しかしオフィスの電話には、誰かしらが電話に出てくれます。密接なコンタクトを持つサプライヤであれば、担当者本人のみならず、担当者の周囲の人にバイヤーとしての自分を認識させるチャンスとして、オフィスに電話します。僅かなきっかけで会話をした相手は、訪問の際に挨拶して名刺を交換し、密接な関係ではなくとも好印象を残します。世の中のバイヤーは一般的に印象の悪い人が多い(当社調べ)ので、好印象があれば助けてくれる場面があるかもしれません。

2.訪問機会に合わせた信用情報から「読みよる」

定期的な訪問に際して、自社に重要なサプライヤは、調査会社から信用情報を入手します。「重要なサプライヤ」ですから、より積極的にサプライヤに情報開示を迫るとともに、自社でも情報収集活動をおこないます。訪問の前に情報入手すれば、気になった点を直接確認もできます。信用情報といっても、100パーセント真実ではありません。ポイントは、調査報告書記載の内容と、サプライヤの実態との間にある大きな違い、乖離(かいり)です。

そういった点が明らかになったら、信用調査報告書の真偽を確かめるとのスタンスではなく、違っていたポイントについて、深く理解するために、より詳細な説明を求めたり、具体的な質問をしたりします。

3.噂(うわさ)から静かに「行動する」

信用調査会社も、入手した噂(うわさ)の真偽を確認して、事態の見極めをおこなっています。信用調査会社は、企業の存続にまつわる情報が集まりやすいですね。集まりやすいが故に、真偽の定かでない情報も多く存在すると、容易に想像できます。

倒産の予兆につながる情報が、調達・購買部門で働く担当者まで伝わってきた場合、まず噂(うわさ)の送話者に詳しく、持っている情報をすべて聞きだします。重要なのは、発信者に情報の信頼性を確認しない点です。確認できないと言った方が正しい表現です。「本当ですか?」の質問に、仮に「間違いありません!」と自信をもって答えられたとしても、真偽は自社の責任の下で確認し、行動しなければなりません。

続いて、入手した情報の管理です。的確に行動するために必要な最小限度の関係者にのみ報告し、情報管理を徹底します。これは、自分と自社が、特定のサプライヤに関するよからぬ噂(うわさ)の発信源とならないため、必ず徹底しなければなりません。

三つ目が情報確認です。実際に噂(うわさ)を聞いたサプライヤの担当者を呼ぶなり、自分がサプライヤに出向くなりして、情報の真偽を確かめます。「御社に倒産の噂(うわさ)があります」と聞いても、まず「そうなんです」とは回答してくれないでしょう。また、突然経営状況の確認を始めても、サプライヤに不信感を生むだけです。したがって、コンタクトの方法から、質問方法まで、細心の注意を払います。

サプライヤを訪問する場合、先方に「軽く」考えてもらう方法は、「ついでによらせてもらう」形での訪問です。もちろん、バイヤーの訪問は、サプライヤの負荷になりますので、本来的には軽い気持ちの訪問は慎まなければなりません。しかし、倒産に関する噂は、供給の継続性が疑われる事態であり、より真実を聞きださなければなりません。それには、最新かつ日常をバイヤーの目で確認しなければなりません。サプライヤ側に警戒させないためにも、こういった理由付けは必要です。

同時に、従来使用している企業とは異なる信用調査会社からの情報を入手します。信用調査会社は、そういった情報確認にノウハウを持っているからこそ成り立っています。突然の供給断絶といった最悪の事態を回避するためにも、調査費用を予算化して備えます。

つづいて、入手した情報の判断です。火のない所に煙は立たない、の喩(たと)えからも、何かあって噂(うわさ)になります。そういった点を、過去との比較や、さまざまな視点からの情報で読み解き、別サプライヤの開拓や、ダブルソース化へのアクションの必要性を判断します。

最後に、こういった取り組みをおこなうサプライヤの選別です。企業ごとに購入する頻度や回数、金額は異なります。購入しているすべてのサプライヤに、同じくこういった取り組みをおこなうと、時間も費用も膨大となります。私は実務の中で、上記のような対応をおこなうサプライヤを次の通り定義しています。

・年間の総取引額の90%を占めるサプライヤ
・取引している総サプライヤ社数の15%

この基準で、対処できるバイヤー一人当たり6~7社になります。そして、この規準から外れるサプライヤは、積極的な倒産時の対処はおこなっておりません。もちろん、事前に確度の高い情報が入手できれば、話は別です。社数換算で、85%を占めるサプライヤの倒産はすべて事後対応と割りきって考えているのです。

(終)

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