ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

テキスト版 調達購買「私塾」50回突破記念講義
~サプライヤー情報を活用するためにまとめ会話に生かす「A4」作成法

去る9月某日、毎月最終金曜日に開催している調達購買「私塾」の50回突破念講義が開催されました。その時の講義をお伝えします。

サプライヤー担当者とのコミュニケーション。それは、サプライヤーとの間に構築する信頼関係のベースになる取り組みであり、とても重要なものです。しかし、コミュニケーションは難しいとの事実も皆さんは既にご理解なさっているはずです。調達購買部門におけるバイヤーのサプライヤーとのコミュニケーションについて今回、考えてみます。そもそも、サプライヤーとの良い関係とはどんな状態でしょうか。

サプライヤーとの関係の状態を語るとき、このような例はありませんか。「あのサプライヤーとは、人間関係は良いのだけどね…」担当者同士、あるいは上位者を含めた人間関係は良好なのでしょうね。双方が適度に認知して、面談を行なっても穏やかに話が進んでいく。しかし、なにか、どこか足りない。このような状態は、人間関係が先行して、バイヤー企業とサプライヤーの本来の関係を見失った状態です。ここで、サプライヤーとの良い関係を定義します。

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上記の図にあるとおり、バイヤー企業とサプライヤー双方の担当者間の良好な人間関係とは、両社の関係の基礎的な条件を満足するに過ぎません。したがって、そういった良好な人間関係をベースにして、次の3点について明確な成果を継続して出さなければ、本来の良好な関係とはいえないのです。それでは、本来の良好な関係を形作る3点について、詳細を確認します。

1. 変化への対応

良好な企業間関係を継続するためには、環境変化に応じて、双方が変化に対応しなければなりません。良好な関係を変えずに維持する、あるいは従来と同じ成果を出し続けるためには、バイヤー企業とサプライヤーが変化しなければならないのです。

こんな例を考えてみます。最近では、為替変動や、新興国の技術面、品質面での追い上げによって、従来と異なった新興国企業との競合、そういった状況に対応するために日本国内企業の空洞化といった問題があります。かつて、私も小学校の社会の授業で、日本は天然地下資源に乏しく、資源を輸入して製品を輸出する加工貿易立国である習いました。しかし、そういったビジネスモデルが疲弊して、現在の経営環境に適合しなくなっています。そういったミスマッチにどのように適応してゆくのか。

現在、ひと頃の超円高といわれたレベルと比較すると一服感があります。例えば、この状況に甘んじて、ただ円安のメリットを享受するのか。それとも、新興国企業とどのように対峙していくかを今、サプライヤーと共に考えるかどうかが問われているのです。

2. ビジネスの基本的な関係

バイヤー企業は購入金額を支払って、モノやサービスの提供をサプライヤーから受けます。購入金額で得られるQCDDMは適正かどうか。これは永遠に問い続けなければならない課題です。

QCDDM、これが適正なレベルでサプライヤーから提供されない限り、良い関係ではありません。極端に申し上げれば、QCDDMが確保されれば、サプライヤー担当者との人間関係は最悪でもかまわない、そう言えると思います。

3. 不測事態への対処

最後に、不測事態への対処です。2011年には大きな震災と、タイでは大規模な洪水が発生しました。こういった大規模な天災で無くとも、今年だけでも土砂災害や竜巻といった局地的な災害に見舞われました。こういった事象、リスクへの対処は、事前にすべてのリスクへ対応する事はできません。なぜなら、リスクとは追求すればするほどに増大します。そもそもリスクとは∞(無限大)なのです。したがって、ある程度、発生可能性を踏まえて対応するリスクの特定化・細分化が重要になります。なにか不慮の事態が起こって、バイヤー企業への納入が行なわれなくなった場合、どんな状態で、いつ復旧するのかといった情報が共有されなければなりません。もちろん、最優先で納入を再開してもらえば良いのです。しかし、混乱の中で、多くのバイヤーは同じように考え、サプライヤーに対して要求しています。

例えば、2011年に発生した震災の時には、ある特定の製品が品不足に陥りました。当時、もっとも困った事態とは、いつ納入が再開されるかとの情報提供が無かったケースです。例えば、工場の復旧には1ヶ月が必要で、100%の稼働にはさらに10日程度の時間が必要です、といった情報があれば、バイヤー企業でも対策が可能です。

ここまで、良好な関係を形作る具体的な3つのポイントを説明してきました。バイヤー企業とサプライヤーの間では、人間同士の信頼関係だけではダメなのです。信頼関係を構築して、この3つのポイント、良好な関係の要素が、継続的に達成されているかどうかかどうか。達成されて初めて良好な関係といえるのです。この3つの状態を理解して、その上で信頼関係の状態と合わせ考え、本当の関係性を判断するためのツールをご紹介します。

<つづく>

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