海外出張で気をつけること(牧野直哉)
多くのバイヤーが海外のサプライヤーを訪れる機会を増やしています。社内では誰も渡航経験のない国・地域へ初めて出張するようなケースも想定しなければなりません。以前、海外調達を担当する場合に必要なバイヤースキルとして3点お伝えしました。
1. どこでも寝られること
2. 食べ物に好き嫌いのないこと
3. 予定変更に対応できる(待てる、あきらめられる)
これは、私の20年近い調達購買経験の中で培った確信です。私が海外調達に取り組み始めた頃は、英語が堪能であるとか、MBAホルダーといった条件でメンバーが集められ海外調達をおこなっていました。最低限の英語によるコミュニケーションの実践は必要です。しかし海外調達に取り組むのにMBAホルダーである必要はまったくありません。それよりも、日本と海外で異なる環境での適合性がなによりもまず重要と考えた結果です。優秀な頭脳をもってしても、異なる生活環境の中で、日本と同じようなパフォーマンスを発揮するために、いつも通りに食べかつ寝る重要性をお伝えしました。
そして今回は、海外出張におけるリスクを考えてみたいと思います。これまでに渡航経験のない国に行くとの前提で、どんなリスクにどのように対応するかを考えてみます。
1. 情報収集
まず外務省「海外安全ホームページ」( http://www.anzen.mofa.go.jp/ )で基本的な情報を集めます。米国CIAのFact book( https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/ )。また、「(行き先の国名、都市名) 日本人」といったキーワードでインターネットを検索すると、現地にお住いの日本人のホームページやブログ、日本人のコミュニティのホームページを参照できる場合があります。そしてビジネス目的としては驚かれるかもしれませんが、2ちゃんねるの海外旅行板( http://ikura.2ch.net/oversea/ )や、海外生活板「北米海外生活板」( http://uni.2ch.net/northa/ )「海外生活(北米除く)板」( http://uni.2ch.net/world/ )といったページものぞいたりします。2ちゃんねるの情報の信ぴょう性の問題は確かにあります。しかし、上記にご紹介した掲示板は、目的がないと見ないし投稿しません。また、怪しげな情報には別ソースでの確認もおこないますし、信憑性に疑念があるときは情報としては採用しません。
2. 海外出張時の移動手段について
初めての国、都市を訪れる場合、私はできるだけ昼間に到着する航空便を選択します。昼と夜では、おのずと夜に様々なリスクが増大します。たとえば、夜が明るいといわれる日本でも、2012年の実績では夜の死亡交通事故の発生率は昼間の2倍にもなります。また、昼と夜では、目に入る情報量が格段に異なります。
慣れた地域で、空港から宿泊先への移動手段も安全が確保されている場合や、出迎えがある場合を除いては、初めての土地に夜到着を避けるべきです。どうしても、航空便の都合上やむを得ない場合は、宿泊先のホテルに迎えの車を手配します。通常のタクシーと比較して数倍になりますが、日本よりもはるかに暗い空港の到着ロビーでウロウロして精神をすり減らすよりも、ですぐに車に直行できる安心が海外出張の成功にも繋がるのです。
また、首都圏、近畿圏、他の日本の大都市のような電車や地下鉄が発達している都市は、先進国の首都以外では数えるほどしかありません。日本の公共交通網の整備は世界の非常識なレベルに達しています。海外の主な移動手段は車です。私が車以外を主な移動手段にしたのは、ニューヨークとロンドンくらいでしょうか。香港やシンガポールも地下鉄が発達していますが、タクシーも安いので渋滞を避けるとき以外の移動手段は便利な車を活用しています。
サプライヤーを訪問する場合は、サプライヤーに迎えの車をお願いする、もしくは信頼のおけるリムジンサービスを紹介してもらって移動手段を確保します。「リムジンサービス」とは、運転手付の車をレンタルできるサービスです。宿泊先のホテルでもそういったサービスを提供してくれる場合がありますが、できれば現地の伝手による「信頼」を確保すべきです。「(国、都市名) リムジンサービス」で検索しても現地業者が調べられます。
タイやマレーシア、ベトナム、上海や深センといった私が何度も出張した地域では、必ず決まったリムジンサービスを利用していました。国も文化的な背景も異なる地域ですが、各リムジンサービスでは1つだけ共通点がありました。それは、やりすぎる程に安全運転をしていた点です。制限速度を守ったり、十分な車間距離を維持したり、といった安全運転の基本を忠実におこなっていました。そういった安全への配慮は、残念ながら失った瞬間にしか実感できません。この記事をお読みになって「そこまでやるか」との印象を持たれた方もおられるでしょう。私は海外で2件、交通事故に遭遇していますが、2件ともリムジンサービスを使わずに、一般のタクシーに乗車した際の出来事です。さいわいにして怪我もしていませんが、やっぱり「怖かった」との思いは拭えません。流しのタクシーを止めるよりリムジンサービスはコストがかさみます。しかし、自分の動きに合わせてくれる利便性は、海外ではありがたいし安全も確保されるとの一石二鳥と考えるべきなのです。
3. 宿泊先
バイヤーが出張する場合、現地での宿泊先の予約は、訪問先であるサプライヤーにお願いしたり、紹介を受けたりします。インターネットによって、海外の宿泊先の情報は格段に入手しやすくなりました。東南アジアや中国のホテルでは、現地資本であっても日本語のホームページを持っている場合もあります。自分でホテルを予約するのも簡単です。問題は、どのようなホテルを選定するかです。
これは、宿泊料金が高ければそれだけ安全・快適が確保できます。海外でも日系のホテルチェーンがあれば良いのですが、やはり展開力では米国系ホテルチェーンが圧倒しています。日本のANAホテルは、米国のインターコンチネンタル/ホリデーインと提携しています。残念ながら、日本のビジネスホテルチェーンで海外展開を果たしている企業はありませんので、まったく初めての地域であれば米国系ホテルチェーンを選択すれば、満足できる安全、サービスが確保できます。
もう一つ、私が心がけているホテル選択のポイントがあります。それは、自分でレンタカーを借りる地域では、すこし郊外のホテルを予約し、移動手段を持たない場合は、ダウンタウンのホテルを予約します。自分でレンタカーを借りる地域とは、北米とヨーロッパの一部地域になります。
米国やヨーロッパの大都市のダウンタウンのホテルは、驚くほど宿泊料が高くなります。アメリカの各都市は20分車で走れば郊外になります。私の米国での長期滞在経験は、シアトル、シカゴ、ヒューストンになりますが、いずれも少し郊外に行けば、かなり宿泊費を抑えられました。
移動手段を持たない地域とは、主に中国と東南アジアになります。ダウンタウンであれば食事をするのも困りません。東南アジアや中国は、米国と違ってダウンタウンの治安が比較的良いし、宿泊料も欧米先進国と比較すれば安価になるため、このような選択をおこなっています。
4. その他
最後に、海外出張で現地滞在時に気をつけるべき点をお伝えします。以下の例は、すべて北米の例ですが、どの地域にいっても私が気をつけているポイントです。
(1) 路地に入らない
日本では「裏原宿」といった、表通りとは別の地域をあえて「裏」と表現して、なにか別の魅力があるようなイメージを持たせる場合があります。しかし、これは海外ではまったく通用しません。裏通りは危ないのです。
次の写真は、アメリカのある都市で撮影しました。
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撮影した時間は夕方です。通りの向こうが明るく見えていますが、通りそのものはすごく暗いですね。こういった場所=暗い場所には危険がいっぱいです。歩く場合は、できるだけ大きな通りを歩きましょう。
(2) 雰囲気を察知する
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上記の画像は(このリンク http://goo.gl/maps/XdrSh )は、シカゴ大学のキャンパスとそれ以外の境界部分です。以下の地図の赤い部分は、全米でもっとも殺人事件の発生件数が多い地域です。一方青いシカゴ大学の敷地内では、大学警察のパトカーも巡回して、昼間に比べれば危険度は増しますが、夜遅くなっても出歩けます。この境界のガソリンスタンドでは、レジが鉄格子の中にあって、地区の危険度を表しています。私は上記の地図をシカゴ大学の構内から赤い地域に車で入ったことがあります。なにか表現しがたい胸騒ぎを覚えました。その時、私が何事もなかったのはただの偶然に過ぎません。以降、赤い地域には決して車でも立ち入らなくなりました。そして、他の地域でも自分の雰囲気を感じる力を信じて、海外では楽観的になることを戒めています。
また、以下の様な看板が目立つ地域で、かつ店構えに通常とは異なる鉄格子といった防御がある場合は、間違いなく危険な地域です。昼間であっても早々に立ち去るべきだし、そもそも立ち入るべきではありません。
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「海外で羽目を外した」なんて話を武勇伝として語る方がおられます。しかし、そもそも日本から海外へ行くのは、現代版の冒険です。現地でさらにリスクを冒すような行動は慎まなければ、海外調達も成功できません。日本と同じ行動はでも、海外では危険にさらされる場合が多くあります。一方、その危険を事前に察知して行動すれば、海外出張も有意義な旅となります。成果を生むためにも、なによりもまず安全な旅を心がけましょう。
<了>