調達・購買担当者の意識改革~パート14「サプライヤの労務単価を求める方法」(坂口孝則)

・サプライヤの労働者コストを求める方法

解説:見積り査定が重要になっています。買い叩きがご法度のご時世にあって、正しく見積りを査定すべきです。ただし、この「正しく」が難しい。なにをもって正しいとするのか不明です。とくに労務費に関してはこれまで、正しく査定できるか難題といわれてきました。これまで、一人ひとりの労働者にどのくらいのコストがかかっているか積み上げ型の計算が試みられてきました。ただそれでも、その査定コストがサプライヤに合致しているかは検証できませんでした。しかし労務コストを正しく査定するアプローチがあります。それは、サプライヤ決算書を使うことです。決算書には「労務費」が載っていますから、それとサプライヤ労務費計上人数がわかれば一人/一日のコストを逆算できます。

意識改革のために:サプライヤ労務費を正しく査定するのが長年の課題でした。多くの調達・購買部門では、サプライヤ労働者が1日ほど働くといくらになるのか、いくらで査定するのが正しいのか--それをずっと悩んできました。たとえば、製造業に限りません。ソフトウェアの世界で、一人月間100万円です、と見積もりをもらったときに、それが正しいのかどうかも判断できないのです。

そんなとき、私たちは相見積りしか手段がないのでしょうか--。いや、相対比較ではなく、調べる手段があるはずです。

と偉そうにいっていますけれど、私がハナからその調べる手段をわかっていたわけではありません。これは私の長年の課題でもありました。どうすればいいのか--。そこで私が発見した方法があります。

どうするのか。それは、この式を眺めることからはじめました。

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当たり前の式です。労務基本単価(これを知りたい!)に、労務管理費(社会保険料や賞与・福利厚生費等)、稼働日数、そして労働者の人数をかけあわせたものが「労務費」となります。どうやったら、労務基本単価を厳密に計算できるのか。

ここで、私は「コロンブスの卵」に気づきました。「そうだ! 労務費はサプライヤ決算書に載っているじゃないか!」と。ということは、積み上げるアプローチではなく、逆算のアプローチが使えます。つまり、「労働者数さえヒアリングすれば、労務基本単価は逆算できるはずだ」と! このように文章で書くと、どれほど伝わるかわかりません。でも、この当然に気づいたときの衝撃はかなりのものでした。

サプライヤ決算書に載っている労務費が1億円だったとします。そして人数が10人だったとしますよね。すると、10で割れば、一人あたり1000万円となります。私はこの単純な事実に遠回りしながら気付きました。

労務基本単価×労務管理費×可動可能時間×稼動率×10=1億円

ということは、「労務管理費×可動可能時間×稼動率」がわかれば、より精緻に労務基本単価を逆算できるはずです。

これを押し進めてみましょう。

・稼動率ってどうやって求めるの?

次に、できれば、稼動率を計算してみたい。そこで、使えるのは厚生労働省が発表している、「毎月勤労統計調査」です。これを見れば、日本平均の稼動率がわかります。

たとえば、下図では建設業の例です。年間、2071時間ほど働くのが通常ですから、それを365日×8時間で割って、稼動率70%を得ます。みなさんが調べたい「毎月勤労統計調査」を見て、毎月の労働時間平均が150時間であれば、150×12=1800時間となります。

ここでは、建設業の70%をそのままサンプルとして利用します。

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労務基本単価×労務管理費×可動可能時間×稼動率×10=1億円

と書いたうち、

労務基本単価×労務管理費×365×70%×10=1億円

までわかりました。次に、労務管理費(社会保険料や賞与・福利厚生費等)がわかるか……。これは、わかるし、わかりません。ここでは労務基本単価の1.3倍と仮定します。この1.3倍が間違っていてもかまいません。この時点では、とりあえず1.3倍と置きます。

すると、

労務基本単価×1.3×365×70%×10=1億円

と、ついに、知りたかった労務基本単価を逆算できるのです!

・全員の給料が一緒というのは強引か?

ところで、労務基本単価まであと一歩ではあるものの、やや強引かもしれません。なぜなら、これでは、労務単価に計上される労働者の給料が一緒としているからです。

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もちろん、概算ではこれで良いのです。しかし、どうせなら、労働者は「作業者」と「監督者」にかわれるとしましょう。2階層にわけました。もちろん、3階層にわけても、10階層でも良いのですね。もし多階層がよければ、それぞれ試算してください。

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そうすると、

作業者労務基本単価×労務管理費×可動可能時間×稼動率×人数

これに、

監督者労務基本単価×労務管理費×可動可能時間×稼動率×人数

を足したものが、全体の労務費となります。

・具体的労務費試算

では、具体例を考えてみましょう。

・労務費全体は9億円
・作業者は95人
・監督者は67人

さらに、ここではこう仮定します。監督者の給料は、作業者の1.3倍だと。

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そうするとあとは、エクセルのゴールシークで計算できます。

http://www.future-procurement.com/mancost.xlsx

エクセルのゴールシークを使ったことがない? そんなひとのためにダウンロードファイルを用意しましたので、上記からどうぞ。エクセルの手順通り実施いただくと、

・作業者は14,879.8円
・監督者は 19,343.8円

と計算できたはずです! これ凄くないでしょうか? 労務費合計は変わりませんから、そこから逆算するに、しかるべき労務コストが導けました!

ここで、労務管理費(社会保険料や賞与・福利厚生費等)を1.3倍と置いているのが、やや強引とお感じかもしれません。でも、大丈夫なのです。なぜなら、もし1.2倍なら、そのぶん労務基本単価が上がるだけで、査定金額(労務基本単価×労務管理費)総額にはなんら影響を与えません。内訳に差異はあれど、全体額はかならず合致するのです。

このようにして、私の疑問だった、正確なる労務費試算に、ひとまずケリがつきました。次は、どの悩みを解決しようか。おそらく、考え続けることが、業務を進化させるに必要なのでしょう、きっと。

 <了>

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