会社を設立してからの地獄の日々~連載⑩(坂口孝則)
私を悩ませていた問題に、意識の格差があります。たとえば、ある会社から呼ばれたとします。そこのマネージャー層は、多くの場合、私の本を読んでくれていて、それで依頼してくれます。コンサルティングがはじまることになるのですが、そこで多くの支障が生じます。何かというと、メンバーとの格差です。
メンバー、すなわち、通常の調達・購買担当者は、私の本など読んでいません。「また、忙しいっていうのに、何が始まんだよ」と態度をモロ出しにするひとばかりです。ヒアリングすると、まだやるんですか、とか、どうせ何にもならないんだからやめろ、とまでいうひとがいます。
たとえば八百屋を考えてみましょう。「バナナちょうだい」「はいよ」「ありがとうございます」と会話があるはずです。でも、コンサルティングでは「サプライヤマネジメントのコンサルティングしてね」「わかりました」「(現場では)そんなのいらねえよ」といった事態がありうるのです。
正直に申せば、もういまの私は、このような仕事は途中でも断ることができます。でも、仕事がなくて、やっととった仕事ならば困るでしょうね。それでも、現場に嫌われながら、やるしかありません。それにしても、「何が問題かを抽出してほしい」といった、あまりにも漠然とした依頼もあります。せめて、何が問題かを、仮説でもいいので抽出しておき、それをコンサルに「こういうことやってくれ」と指示したほうがいいんですがねえ……。RFQの重要性があれだけ謳われながら、実際はめちゃくちゃなRFQばかりですし。
それにしても、私などは「コンサルタントを選んで、あとは現場に入れるだけ」っていう態度はやめたほうがいいと思うんですよね。現場はやらされ感が残り、そして、結局は何も残りません。
ただ、同時に思うのは、現場の担当者がたまに「給料があがるわけでもないし、がんばりたくありません」っていうんですね。この幼児性はどうしたものでしょう。いや、たしかにそう思うかもしれませんが、思うのと言うのは別物で、普通、そんなこと外部の人間にいいませんよね。それだけ私のヒアリング力が高いのかもしれませんが(笑) それで「そんならいくらあがったらやるんですか」と訊いたら「5万円とか」っていうんですね。月額。もう、ほんとうに卒倒します。年間60万円だったら、いまの業務を極めて他社をコンサルしたらすぐに稼げます。それに、たかが、その金額ていどで自分を会社に縛らせるなんて……私の想像を超えます。
しかも、現場が納得しなくて、ズルズルと日数が延びるほうがコンサルトしては儲かります。この矛盾……。つまり無能なほうが売上が伸びるのです。なんなんでしょう。
(つづく)