連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
調達・購買の戦略を連載しています。
今回からは、コストテーブルの作成についてお話しします。
・コストテーブルは自然に作れ
コストテーブルはできれば「勝手にできあがっている」のが理想の状態です。コストテーブルは、調達品価格の査定基準となるものですが、「作ったから、使う」のではなく「必要に応じて作成した」のが良いのです。
その礎となるのが、日頃からの活動です。私が強くおすすめするのは、設計者(設計部門)との連携です。設計者は見積書を依頼するだけではなく、自分が設計図を書いたときに「いくらくらいのはずだ」と宣言します。もちろん、ざっとでかまいません。あるいは、サプライヤから下見積書をとってもかまいません(この、「かまいません」は、社内ルールによります)。
「この部品は100円くらいで調達できるはずだ」と調達・購買に提示します。そして、調達・購買はそれに反論します。たとえば「103円にはなる」とか。もちろん、それが100円だと思えば、合意します。103円というならば合理的な説明をせねばなりません。「なんとなく103円」ではなく、納得性のある説明です。
そのうえで、103円なのか101円なのか、合意をはかります。ここからが重要なのですが「たとえば、103円で合意した場合、設計者は実際の調達金額が103円以上になっても責任を問われず、調達・購買が責任を取り、また103円以下になったら、それは調達・購買のコスト削減額と社内に喧伝することとする」点です。こうしておけば取り分も明確です。
そして、調達・購買から、いったん調達が終わってしまったものは、その見積書データを設計者に渡してしまいます。いわゆる、調達実績データです。隠しておきたい気持ちはわかりますが、それを設計者に公開します。設計者側はここで、実際の見積書の詳細を理解することになります。
これは設計者個人というよりも、組織と組織でデータを渡してください。そうすると、設計部門は、次回以降の設計に、より精度をあげた試算値を提示できるようになります。すると、当初は適当かもしれなかった、設計試算値が、相当な的中度になります。
設計者がコストに敏感になり、調達・購買とも、価格を見る目が圧倒的に変わってくるのです。そのうち、勝手にコストテーブルもできあがってきます。これが自然に作るコストテーブルです。
そこで、調達・購買と設計者がこれまで以上に打ち合わせを重ねることになります。そのとき、重要なのは、調達・購買が「前回は、特別にサプライヤから安くしてもらったんです(だから今回はその金額にはなりません)」といわないことです。それは、理屈が通りません。むしろ、前回が安くできたのであれば今回も安くしてもらうべきではないでしょうか。例外があるなら、逆に「前回は、特別にサプライヤの価格を高く査定してしまいました(だから今回はすごく安くなります)」と正直に吐露している調達・購買担当者を知りません。
ただし、材料の高騰については言い訳してもかまいません。それは個人の力量を遥かにこえるからです。したがって、材料比率の高い製品については、材料の推移を把握しえおきましょう。これが、そのまま材料のコストテーブルになるはずです。
やはり、コストテーブルは勝手に自然に作るほうが良さそうです。