連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2021年①>
「2021年 東日本大震災から10年、インフラ危機とそのビジネスが勃興」
作るから守るへ、インフラビジネスは大きな転換を迎える
P・Politics(政治):働き方改革の一環で、建設現場の生産性革命に取り組む。
E・Economy(経済):建設後50年を経過するインフラが大半に。新規のインフラ投資が減少する代わりに、既存インフラの更新金額が増加。
S・Society(社会):新規学卒者の建設業界への就業が減少。高齢化が進み、60歳以上が大半に。
T・Technology(技術):センサーによるインフラ監視の技術やインフラの長寿命化を図る商品が誕生。
東日本大震災から10年。インフラ整備の重要性が注目されるいっぽうで、日本では建設後50年を経過するインフラが大半になり、かつ補修・更新費が捻出できない状況となる。建設業の効率化向上に取り組むとともに、インフラの監視技術、長寿命化技術などの進化が望まれている。
・老いる国家アメリカ
アメリカのインフラ危機を早い段階で示した『荒廃するアメリカ』(1981年)がある。同書では、アメリカのインフラが絶望的な状態にあることを書き、全米に驚きを与えた。そしてインフラの老朽化は、アメリカ経済の衰退をも意味するとした。
アメリカではニューディール政策によって1930年代に、各インフラが建設ラッシュを迎えた。その少し前、1920年代のアメリカでは、第一次大戦から拡大していた設備投資がバブルを迎え、その後、1929年に株価の大暴落を経験した。当時のルーズベルト大統領はそこでテネシー川に多目的ダムを建設すると決め、失業者の雇用に乗り出す。
これがWPA(公共事業促進局)につながる。公共事業によって景気を浮揚させる、教科書に載るような経済政策のはじまりである。もちろん建設物の状態や立地によっても異なるため、かならずしも30年、40年、50年で危機的な状況を迎えるわけではない。ただ、公共インフラは建てる際だけではなく、その後も重要だ、と気付かされる象徴が1967年12月5日のシルバー橋の事故だ。米国ウェストバージニア州とオハイオ州を結ぶこれが突然、落橋し40人以上が亡くなった。建設後40年ほど経過する橋だった。
その対策はじゅうぶんだったとはいえない。この事故の後も、ガソリン税率は( http://www.cbr.mlit.go.jp/hokusei/jigyou/iji/image/2.pdf )80年代初頭まで据え置かれ、じゅうぶんな予算は投入されなかった。ベトナム戦争もはさみ、公共インフラに特別な関心が払われなかった側面もある。
アメリカはなんとか財源の確保によって、なんとかしのいできた。それでも2007年8月にはミネアポリス市で高速道路が崩壊し衝撃を与えた。午後6時5分という混雑時に起きたこの事故は、581mのうち324mが崩壊し、50台が転落し、13人が死亡した。この橋も約40年が経過していた。
アメリカとて完璧ではなく、老朽化したインフラとの対峙は絶対的な答えのない苦悶が続いている。
・東日本大震災時に活躍した地元建設業者と、その斜陽
2021年には東日本大震災から10年で、節目の年となる。この10年を機会に、原発の再議論が進むだろうし、また、危機管理の重要性について議論が再燃するだろう。被災地はいまだなお傷跡が残る。その記憶を呼び覚ますことは意味がある。なにより、国全体で支える気運を消火してはならない。
東日本大震災では、初動対応の早さが目立った。たとえば、国土交通省によると、道路啓開等の初期活動を、発災のなんとわずか4時間以内に、かなりの地元建設業が開始していた
( http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/kisya/kisyah/images/42180_1.pdf )。もちろん、彼らも自らが被災者であり、その比率は7割にも登っていた。それでもなお、「自社・協力会社が地元の建設企業であり、地理に詳しい」「日頃から緊急時に備えた体制ができていた」ことから、その初動対応に参加した。
国土交通省がまとめた書籍『東日本大震災の実体験に基づく 災害初動期指揮心得』は、文字通り災害の初動について反省を交えて書かれたマニュアル書となっている。日本の復旧のためにすべてを捧げた地域事業者と職員たちの記録ともなっており、たんなるマニュアルを超えて、檄文といえるほどの熱意を感じる。
いっぽうで、地方の建設業界は、公共事業の減少により、芳しい状態ではない。かつて建設業のピークは1992年で84兆円もの規模があり就業者数は約620万人だった。その後、ゆるやかに減少を続け、東京オリンピック景気で多少は持ち直したとはいえ、建設投資は48.5兆円になり就業者数も500万人となった。もっとも多い層が60歳以上で、このうち80万人をしめる。おそらく10年後には、大部分が引退しているだろう。
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もちろん、日本全体が少子高齢化のなか、建設業だけ増えるはずもない。とはいえ、全産業のうち、建設業に新規学卒者が就業する比率を見ても、ピークの10.4%から現在では、7.8%に沈む。
建設投資が増えないなかで事業者=企業が増えることは難しい。そして、少子高齢化が解決する妙案もない。同時に、東日本大震災などの震災時に、地域に点在する無数の建設業者の自発的な活動によって支援されてきた。ここには大きな問題がはらむ。
日本は有数の自然災害被害国家だが、それだけではない。社会インフラの老朽化がいっせいに進んでいる。2021年は東日本大震災から10年とともに、日本社会全体が老いていく対応を迫られるタイミングになるに違いない。
<つづく>