ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

購買戦略のつくり方 2

前回は次の3点を述べました。

1.戦略とはなにか

2.戦略の階層

3.戦略の成立要件

(1)現実的であること

(2)数値化でき、かつ検証できる定量的な指標

(3)具体的に実現可能な行動を集合であること

(4)継続性と展開性があること

(5)全体最適

皆さんは、勤務先でどのようなポジションにおられますか。私は購買ネットワーク会や私塾で読者の方とお目にかかる機会があります。実際にお会いした方から判断すると、担当者か少しマネジメントを行っている管理者が多いと感じています。今回は、調達・購買担当者としての戦略のたて方についてです。

担当者レベルでの戦略構築には、2つのポイントがあります。

1.自分が担当する製品(サプライヤー)をどうするか

産業購買の世界では、一般消費者を相手にする広い意味での市場は存在しません。しかし、狭くはあっても一つの製品に必ず売り手と買い手を含めた「市場」が存在します。そして市場が存在するからには、売り手と買い手のポジショニングが位置づけられます。調達・購買担当者としてまず重要なことは、みずからが担当する製品やサービスをどのように買っていくかという戦略を立てることです。ここで重要な3つのポイントがあります。

(1)2つの視点

これは、自社から見たサプライヤーと、サプライヤーから見た自社という二つの視点を意味します。この二つの視点が現在どんな状態にあって、今後どのようにしてゆきたいか、そしてゆくべきかを見極めることが重要です。自社とサプライヤーとの関係を恋愛にたとえるなら、基本的には相思相愛が理想的な姿です。しかし、多くの場合、なかなか相思相愛の形にはなりません。どちらかが一方的に相手を求める片思いとなるケースが多いのが現実です。片思いな状態とは、バイヤー企業側が強く思うことも問題です。そして、サプライヤー側が一方的に強く思うこともリスクの一つです。

私は、ある購入品をサプライヤー一社に依存してしまった経験があります。しかし、大きな外部要因の変動によって、まったく発注できなくなりました。私の勤務先は、体力もあって、私自身も他の製品セグメントのビジネスにも携わっていました。したがい、私にとってはフォーカスするポイントをずらせば済む話です。しかし、依存していたサプライヤーは違いました。受注量の激減は、資金繰りを直撃し、設備投資の直後であったことも災いして、会社の経営が立ちゆかなくなってしまったのです。私は、この一件以降、サプライヤーへの依存度をサプライヤー側の売り上げの三割以下にすることを目指しています。30%の売り上げがゼロになっても、しばらく継続することは可能です。しかし、80%~90%の売り上げが徐々にでなく突然ゼロになった場合、そんな状態を乗り切るのはとても困難なのです。

(2)投下するリソースをどうするか

これは費用対効果の見極めが目的です。たとえば、バイヤーの重要な評価指標である、コスト削減への協力度合いの現状を掌握します。これには、どんな製品やサービスを買っているか、その内容の掌握も含まれます。そして、ここからが重要です。購入している製品やサービスについて、どのような付加価値を見いだす必要があるのかを担当者として理解しなければなりません。徹底的にコスト削減を追求するのか。それとも、安定的な調達を志向するのか。はたまた自社にとって重要なリソースなので、製品開発や企画の初期段階からサプライヤーのリソースを活用するのか。もちろん、他にも様々なバイヤー企業としてのニーズを明確化します。その上で、果たして自社のニーズをサプライヤーが実現可能な状態にあるのかどうかをバイヤーとして判断するのです。

費用対効果の具体的な判断基準としては、次の2つを押さえます。

1)自分+関係者が対処した時間×時間あたりレートで産出した金額

これは、サプライヤーに割いた直接的な時間から費用を類推する方法です。社内やサプライヤーを交えた打ち合わせに対して、準備含めどのくらいの時間を費やしたかを、社内関係者に質問してみましょう。ポイントは、質問する相手に厳格な正確性を求めないことです。もちろん、具体的な案件まで工数管理を厳格に行っていれば、さほど面倒な作業では無いはずですね。

2)当該サプライヤーについて、バイヤーもしくはその所属部門に課せられた目標・期待される成果

これは1)と異なり効果側の数値です。この数値は、根拠は無くてもかまいません。あくまでも現状掌握ですし、もし設定された目標に問題があれば、まさにこれからバイヤーとして皆さんが修正を加えてゆくわけです。

その上で、もう一つ押さえて頂きたい数値があります。担当バイヤーとして、担当する製品、サプライヤーに対して、どれほどの効果を求めたいかという意志。その意志を数値化してください。効果とは、多いに越したことは無いかもしれません。しかし、ここは日々の業務を通じて、これまでの経緯を踏まえつつ、自分の意志として「こうしたい」ということを、具体的な行動に落とし込む前に、数値として表現するわけです。

たとえば、所属部門が事業からの要求として設定した目標に対して、自らの意志で設定した数値が低くなってしまった場合、その差を生んだ理由は説明できなければなりませんね。同時に、低くなってしまった理由が説明できたら、その理由を克服するにはどうすれば良いかというリカバリーの活動につなげることができるはずです。いやいや、そもそも目標設定がいい加減だからといったケースも往々にして想定されます。で、あるならなおさら、みずからの意志で設定する目標はとても重要です。目標も与えられ、ただ漫然とこれまでとさして変わらない、そこそこの成果を出す。こんなチェレンジのないバイヤーは、結局変化に対応できないことの証明です。変化に適応できない生物にどんな末路が待っているか。滅びゆくしかないのです。

次回は、戦略から戦術への展開です。

<つづく>

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