ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・2012年のはじめに調達・購買部門が考えておかねばならないこと
今回は、調達・購買部門にとって衝撃的なデータを提示し、そこから2012年以降に大切になることを語っていこう。
これを見ていただきたい。
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これは、1988年から2010年中盤までの、鉱物性燃料輸入額の推移だ。鉱物性燃料とは、原油や石炭、LNG(液化天然ガス)などのことで、いわゆる「原材料・資源」と思っていただいて良い。日本はこれらの鉱物性燃料は海外からの輸入に頼っていることはご存知のとおりだ。
ところで、単純に鉱物性燃料輸入額を見てしまうとおかしなことになる。たとえば、ある年に1兆円だった鉱物性燃料輸入額が、翌年に1.5兆円になったからといって、それが経済成長ゆえであれば、むしろ望ましい。そこで、鉱物性燃料の価格上昇(下落)を知るために、GDP比較の鉱物性燃料輸入額をとった。
原油だとか、石炭だとか、個別の価格推移を調べているひとはいる。ただ、こうすることによって、原材料全体の価格推移を表現することができるのだ。
そこで、衝撃的なのは次の図である。私は、ここに、各企業の売上高外部調達コスト率を並べてみた。文字通り、企業の売上高に占める、外部調達費の比率だ。当然、ここに各企業の調達・購買部門がかかわっている。
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これほどぴったりだとは思わなかったので、愕然とした。このデータは、財務省が公開している法人企業統計をもとにした。
これを見ると、各企業の調達・購買部門は、単に原材料の上がり下がりに翻弄されているだけではないだろうか。もっといってしまおう。各社が毎年発表する「○○○億円のコスト削減」とは、虚像だったのではないだろうか。
これまで日本企業は「○○○億円のコスト削減を達成(ただし、原材料分は除く)」と裏ワザを駆使することによって、ほんらいのコスト削減効果を隠蔽してきた。
よく、調達・購買部門のかたから、「自分たちの成果が、どのように損益計算書に反映されるのかわからない」とボヤきを聞かされる。しかし、それは、そもそも反映しないと考えれば合点がいく。
私は各社の調達・購買改革を愚弄したいわけではない。もちろん個別では、うまくいっている企業もあるだろう。ただ、マクロで見ると、調達・購買改革ははかない。かつて、伊達政宗伝の小説「天下は夢か」を拝借していえば、「調達・購買改革は夢か」の状態が続いている。
・原材料調達にかける情熱
この状況は日本に特有ではない。アメリカでも同様だ。昨年も調達・購買の世界的研究組織ISMの総会に行ってきた。その際に論じられていたのが次の三つだった(とはいえ、もちろんアメリカのものづくり企業は減少しているため、議論の数自体が限られたものではあったが)
1.金融商品の活用。これまで投機目的で使われていたデリバティブ、オプション、コール取引などの金融商品を活用して価格を平滑化する
2.安価なアジア材料の活用(上昇・下落はしかたないにせよ、もともとのベースが低い)
3.材料使用量の削減。ものづくりにおけるロスを最小化する。1%の削減は1%の価格低減に近い
と、凡庸な、それでいて普遍的な施策だ。やはりものづくりに近い業界では、コツコツと改善を積み重ねるしかないだろう。1.はこれまでになかった手法だが、整備されたとはいえない。これもこれからの発展に期待するしかない。
これまで原材料調達は、組織のなかでスターバイヤーが担当しない領域だった。しかし、原材料価格に翻弄されているいま、この領域への注目が高まっている。いや、もっと曲解していってしまおう。これまで、バイヤーはミクロな知識が必要だった。それにたいして、これからは広く経済動向を理解する目が必要となるのだ。
世界的な経済動向がじぶんたちのコスト率に影響を与えていると知れば、おのずと日々の業務にも変化が起きるだろう。2012年からは、バイヤーにマクロな経済動向を知る慧眼こそが求められている。