ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識が調達・購買を変える

今回も調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介していこう。この連載をお読みの方はおわかりのとおり、私は調達・購買人員に必要なスキルや知識は25に集約されると考えており、その解説を行なっている。

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今回は、「サプライヤマネジメント」のD「サプライヤ倒産対応」だ。かなりぶっそうなテーマだ。サプライヤの経営の安定度評価については、以前もふれた(バックナンバーはちなみに64号なので、有料購読者のかたはご覧頂きたい。まだ無料購読期間のみなさまは、しばしお待ちを!)。しかし、そのなかでもとくに今回は、「サプライヤが倒産しないようにチェックするためには」「そして、もし倒産してしまったら」をテーマに述べていきたい。現在の経済状況では、取引をしているサプライヤがいつ倒産するかわからないので、(将来にわたって)参考になるはずだ。

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さて昨今、不景気だとよくいわれる。その実感は読者もあるに違いない。しかし、ほんとうのところ、どれくらいの企業数が倒産しているのだろうか。後述するように、この「倒産」とは、厳密には法律用語ではない。ただ、この「倒産」の意味はおって説明するとして、まずは件数を見てみよう。

ここで、東京商工リサーチと中小企業庁の二つのデータが参考になる。前者(東京商工リサーチ)のデータは、法人の破産のなかから負債総額1,000万円以上を抽出したものだ。したがって、全数ではない。いっぽうで、後者(中小企業庁)のものは廃業企業数というもので、個人企業と会社企業の双方を加算した数字となる。二つのデータの範囲が異なり、かつ廃業と破産、倒産は同一の意味ではない。ただし、後者(中小企業庁)のデータは3年に一度しか発表されず、しかも一般的に使われないため、ここでは恣意的に前者(東京商工リサーチ)のデータを使うこととした。

・日本ではどれくらいの数の企業が倒産しているのだろう

調達・購買担当者が覚えておいてもソンしない数字は、「日本は1ヶ月に1000社が倒産する」事実だ。つまり、年間で1万2000件ほどの倒産となる。日経新聞などで、経済指標をチェックする際には、この1000件を基準値とすればいい。実際に、さきほど紹介した東京商工リサーチのデータでは、2011年(平成23年)の全国企業倒産は1万2,734件となっている。

なお、この読者の想定産業で述べると、この1万2,734件のうち、
・建設業:3,391件
・製造業:1,901件
・卸売業:1,641件
・小売業:1,489件
となっている。

また、これは2011年(平成23年)だけではなく、一般的な倒産理由としては、次のようなものがあげられている。

・販売不振
・赤字累積
・放漫経営
・過少資本
・設備投資過大

おそらく、読者も想像できる範囲のものだろう。そして次にこの「倒産」の分類を述べていく。

・倒産の種類

この「倒産」という言葉。一般的に流布しているものの、法律用語ではない。もちろん、通常は「会社運営ができず、潰れてしまった」状態を述べる。この倒産についての分類だが、日本の倒産法体制はこのようになっている。

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これを調達・購買担当者がすべて知る必要はない、と私は思う。ただし、倒産といっても「法的手続」によるもの「私的手続」によるもの、の二つがあること。そして、「再建」を目指すものなのか、「清算」してしまうものなのか、さらに二つにわかれることは覚えておきたい(なお、ここでは実際には多いものの統計が取られていない「逃亡」「夜逃げ」は言及できないことをお断りしておく)。

加えて、調達・購買担当者が知っておいたほうが良いことは、法的手続のうち、民事再生法は破産と異なり、一般的には現在の経営陣が経営を続けながら再建を目指すものだ。ただ、会社更生手続においては、裁判所から選任された更生管財人が経営や管理を行う。

そのいっぽう、私的手続は、そもそも法的倒産処理手続によらずに、債権者・債務者の「合意」によって債務を整理する。ガイドラインも発行されているものの、基本は交渉である。私的手続は、倒産会社のレッテルを貼られることを恐れる企業が行うことがあり、かつ法的処理の費用を抑えることもできる。

さらに、おおまかにいうのであれば、関係者が多く混乱を招く場合は「法的処理」となる。管財人(破産、会社更生)や監督委員(民事再生)などが関与しなければ、収集がつかないことが多いからだ。ただし法的手続であれ私的手続であれ、いったん、企業(サプライヤ)が倒産処理をはじめると、モノの納入が遅延したり生産活動に影響をうけたりする。調達・購買担当者としては、倒産をできるだけ事前に察知し、かつ倒産後にも被害を最小限化できるように努めなければならない。

・倒産の事前予知にむけて

かつて「倒産の寸前まで社員や外部に知らせないのが、すぐれた会社の潰し方だ」といった経営者がいる。もちろん、その意味では調達・購買担当者がサプライヤ内部を完全に掌握できない。とはいえ、倒産予知の目を持ち、できる限りの対策はしておきたい

サプライヤは、突然「倒産」するわけではない。このような3段階がある。

1.経営状態:不安定
2.経営状態:危機
3.経営状態:破綻

これは必ずしも、1→2→3と進むわけではない。1→2→1→2→1→2などと回復や悪化を繰り返すことがほとんどだろう。できれば調達・購買担当者は、1状態にあるサプライヤを察知し、2へ進んでいるか、あるいは1へ回復したかを観察しておく。そして、いよいよ3に突入するサプライヤがいれば、そこから受ける被害を予測し、バックアッププランを練っておくことだ。ここでは、凡庸なれど(1)定性的なチェック方法と(2)決算書類のチェック方法を述べておく。

(1)定性的なチェック方法

やはりそのサプライヤの製品が重要だ。というのも、企業は製品をつくって、それをお客に販売する。その粗利益がすべての源泉となるから、製品が売れなくなってしまったら、すべてがうまくいかない。

①主要製造製品の付加価値は高いか、特有技術を有しているか
②生産性が高く、不良率は高くないか
③材料費高騰の影響を受けすぎず、適正な利益を確保しているか
④海外勢の安価な製品に負けていないか
⑤社会の変化に追従し、新技術・新製品を開発する体制を有しているか
⑥安定的な受注を獲得できる大手顧客がいるか

当たり前ではあるものの、海外からどんどん安価な製品が入ってくる昨今、海外勢と同レベルのものしか生産できないサプライヤは厳しい状況にある。しかし、それは数年前からわかっていたことだ。①~⑥を総合的に勘案し、サプライヤの安定度を見る。

(2)決算書類のチェック方法

かつてバックナンバー64号で説明した内容と、「流動比率」だけ重複するものの、サプライヤ決算書でチェックしたほうが良いところを3点あげる。この3点とも、すぐに確認できるものばかりだ。

①流動比率

これは、サプライヤ決算書のB/S(貸借対照表)を利用する。計算式は、

流動比率=流動資産÷流動負債

となる。目安はこの値が1.2を超えていること。流動資産は1年位内に現金化できるもので、流動負債は1年位内に支払わねばならないものだ。したがって、直感的には1年以内に支払う金額よりも、1年以内に入ってくるお金のほうが1.2倍ほど大きいことが求められる。

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ここで、一つ注意してほしいのは、「その他流動資産」だ。この「その他流動資産」とは、「短期貸付金」「未収金」「未収入金」「前渡金」「前払費用」「仮払金」「立替金」などを指し、書籍によっては「不健全資産」と呼んでいるものもある。これは事実上、換金できないこともあり、この「その他流動資産」が同業他社比、あるいは前年度比、あまりに大きければ、要注意だ。

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②負債比率

これはサプライヤ決算書のB/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)を利用する。計算式は、負債の量を売上高で割ったものだ(上図を参考のこと)。

負債比率=総負債(短期の負債+長期の負債)÷年間売上高

よく、「売上高にたいして、負債額が大きすぎた」ことを倒産理由としてあげることがある。その比率を見るものだ。これは、業界業種によってさまざまな数字を取るため、なかなか基準値を述べにくい。業界平均値や、類似他社の値を見ることによって、確認してほしい。

③真性利益

これはサプライヤ決算書のP/L(損益計算書)を複数年ぶん利用する。計算式は、経常利益に役員報酬を加算したものだ。役員報酬は、「販売費及び一般管理費」のなかに入っているから拾ってほしい。

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真性利益=経常利益+役員報酬

ここで、「?」と思ったひとがいるかもしれない。経常利益は、そもそも役員報酬などの「販売費及び一般管理費」を引いて計算するものだ。それなのに、なぜ「+(足す)」のだろうかと。これは、「真性」の文字通り、真水の利益のことだ。言い換えれば、経営層が自由にできる儲けを表現しているといってもいい。その儲けの中から、自分たちの役員報酬を捻出すると考えてもらってもいい。

ということは、真性利益と、経常利益を比べてみれば面白いことがわかる。というのも、(たとえば経常利益を確保しなければ銀行から経営体質が不健全と思われるので、銀行からお金が借りられない、などの理由によって)役員報酬を減らして経常利益を確保することも考えられる。しかし、そのような場合は、真性利益が減じてしまう。

したがって、経常利益はなんとか横ばいでも、真性利益が低下している場合は、役員報酬を削って、なんとか利益を捻出していると考えられるのだ。よって、これは最低でも3~5年分の推移を見ていただきたい。

・しかしとはいえ基本は基本

これまで倒産の事前チェックについて述べてきた。しかし、とはいえ、そのうえで当然ながら、現場現物を見ることの大切さも強調しておきたい。というのも、サプライヤが倒産危機に陥って騒ぐ調達・購買担当者のほとんどが、サプライヤを定期的に訪問していなかったり、営業マンとも会っていなかったりするからだ。

多望ゆえにしかたがないかもしれないが、サプライヤの与信調査や決算書情報収集などは、定期的にしておかねばならない。また、万が一のときに備えて、各調達品の代替候補も把握しておくべきだろう。

以前、調査会社の方と話していたとき、取引先の倒産を事前察知するための方法を教えてくれた。それは平凡なれど、あえて紹介しておきたい。

①取引先とは必ず対面して様子を把握しておくこと、決算書調査を行うこと
②取引先の営業所や工場に足を運ぶこと
③この①②を継続すること

繰り返すとおり、真実は平凡のなかにあるに違いない。

・それでも倒産してしまったときに

しかし、それでもサプライヤが倒産してしまった場合、法的手続であれば管財人(破産、会社更生)や監督委員(民事再生)などが関与することになる。清算する場合は、会社の財産を換金して、債権者に支払われる。ただ、そこで働いていた従業員の給料が優先され、さらに弁護士費用等が差し引かれてから、一般の債権が支払われる。

調達・購買担当者の実務としては次の通りだ。

1.発注品目、発注残額の確認

まだ納入されていない品目や額を調査する。また、逆にそのサプライヤから支払われるべき債権額も調査しておく。

2.貸与品の確認

たとえば無償貸与している設備や金型などがあれば、その所有権がこちらにあることを証拠として提出できるようにしておく。それによって、財産の処分の範囲外であることを証明し、その後の引き上げ処理につなげる。ただし、倒産処理の直後は、管財人の管理下にあるため場合によっては、倒産処理以前に引き上げることがある。

なお、倒産直前の信用状態悪化した時点でのことを補足する。バイヤー企業がサプライヤに有償で材料を販売しているかもしれない。倒産間近であればどうせ、その材料で製品を生産することができず、サプライヤはその材料の対価を支払ってくれないだろう。よって、バイヤー企業側が材料を引き上げようと考えるかもしれない。ただ、その材料の所有権はサプライヤにあるので、無断で引き上げるなどしたら窃盗罪となる。その場合は、サプライヤから承諾書のような書面を受け取って引き取る必要があるので、信用不安があるからといってむやみやたらな処理は止めておきたい(なお、ほんとうに倒産してしまったあとは、述べた通り管財人の管理下にあるため、材料を引き上げることができなくなるので、悩ましいところだが)。

3.代替サプライヤの決定、社内への展開

また調達・購買担当者は早急に、対象サプライヤからこれまで調達した品目をリストアップし、設計・開発部門に提示する。そのなかで、今後も発注する見込みがあったものについては、緊急対策会議を開催し、代替先や特採品(「特別採用部品」)を決定する。

よく、「サプライヤが倒産してしまったら、もう為す術はない」といわれる。なるほど、たしかにその通りだ。事前予防策こそが重要だ。しかし、それでもサプライヤが倒産し、代替候補を選定することになったら、緊急性を要する。

一つのヒントは、そのサプライヤを選定した当時の資料を漁ることだ。つまり、倒産したサプライヤからAという製品を調達していたとする。そのAを採用決定した当時の資料を探すのだ。きっと、他社の類似品などを比較検討しているに違いない。もう設計・開発担当者も、調達・購買担当者も替わっているに違いないけれど、イチから代替候補を探すよりも、ずっと時間を短縮できるはずだ。

・そして倒産を繰り返さないために

最後に倒産を繰り返さないための調達・購買部門づくりにふれておく。

1.基本:調達・購買担当者への経営指標等の教育

2.基本:サプライヤの経営状況の確認
(1)取引開始前
①損益計算書、貸借対照表、現預金推移(資金繰り表)の3年以上分の確認
②共通した各種経営指標の基準を作成し、取引開始可否を判断
③サプライヤマネジメントの長期戦略を立案
(2)取引開始後(既存サプライヤ)
①定期的な経営指標のチェック
②共通した各種経営指標の基準を作成し、取引継続可否を判断
③セカンドサプライヤの選定、倒産時の供給リスク対応を検討

倒産対応手順書がない場合には、作成も必要となるだろう。一つやれば倒産を防げるという奇策や魔法の杖はない。とくに不況のご時世にあっては、注意しすぎるに越したことはない。

世の中の企業は、倒産するものだ。しかし、自社と取引のあるサプライヤはできる限り倒産件数を減らし、かつ倒産後の処理を円滑化することこと、調達・購買担当者のワザの見せ所だろう。

この連載では次にボイスオブサプライヤを取り上げる。

<つづく>

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