ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

引き続き、調達・購買の5×5マトリクスを使いながら、調達・購買スキルや知識を紹介していく。私は、調達・購買人員として、この25のスキル・知識を修得することを勧めている。この25のスキルや知識があれば、調達・購買担当者として一人前ではないかと考えている(無料購読期間の読者は、しばしお待ちを! 有料購読者のかたはバックナンバーをご参照ください)。

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今回は、「サプライヤマネジメント」のE「ボイスオブサプライヤ」だ。これまで、さまざまなサプライヤマネジメント手法を述べてきた。評価から倒産対応まで、多岐にわたった。そして、最後はサプライヤの声を聞きながら、自社の調達・購買レベルを引き上げていく試みを紹介したい。

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ここで定義をしておくと、サプライヤとは「サプライヤの意見を聞き、事業を改善すること」としておこう。そして、このボイスオブサプライヤは、自社の競争力強化に有効だ。

「ボイスオブサプライヤ」とは、文字通り「サプライヤの声」のこと。つまり、こちらから、サプライヤへの一方的な指導ではなく、サプライヤ側からも意見を参考にしつつ、調達・購買活動をよりよくしようとするものだ。

ちなみに、SRM(サプライヤリレーションマネジメント、あるいはサプライヤリレーションシップマネジメント)という言葉が流行したことがある。どうやって、サプライヤとの関係を管理するのかと思って聞いてみたら、単にシステムでバイヤー企業とサプライヤを連結するだけだったことがある。見積り入手をシステム上でやりましょう、というわけだ。これが、ほんとうのリレーション(関係性)強化につながるだろうか。やはり、関係強化には、双方評価と長期ビジョンの合意が不可欠となる。

・ボイスオブサプライヤの評価軸

ここで、まず実効性のあるボイスオブサプライヤ実施のための注意点をあげておく。

注意点1「正確な意見の収集」:コンサルタント(第三者)からヒアリングするなどの工夫が必要。何らかの報復措置がないことをサプライヤに理解させること

サプライヤの声を集めるといっても、なかなか難しい。日ごろ調達・購買担当者とサプライヤ担当者は対面しているはずだ。調達・購買担当者が「ウチの問題をいってください」と依頼したところで、すんなりと本音が出てくることはない。あるいはサプライヤ担当者がまともであるほど、オブラートに包んだ発言となるだろう。そこで、推奨手法は外部機関・第三者がサプライヤに意見を訊くことだ。

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また、外部機関を通じているといっても、その意見いかんによって、何らかの報復措置があるとわかれば、誰だって正直にはいわない。そこで、調達・購買活動向上のために行うのであって、報復措置はないことを理解していただく必要がある。

注意点2「自社評価との比較」:サプライヤからの評価だけではなく、自社の評価と比較する。評価のズレから自社が改善すべき点を見つける

そして、サプライヤから意見を訊くだけではなく、その意見・評価を、自社の評価と照らし合わせる必要がある。たとえば、サプライヤの評価では、調達・購買担当者のコミュニケーション能力が低かったとする。逆に、調達・購買担当者は自身のコミュニケーション能力をどう評価しているだろうか。

自分自身が「あまりうまくできないな」と思うことがあれば、他者から見ると相当な問題がある。自分自身が「けっこううまくやっているな」と思うことがあっても、他者から見ると普通レベルだ。必ず、評価のズレから自分、あるいは自部門の改善点を見つけていこう。

具体的には、VOSの5-mesurementsがある。これは、「取引基本条件」「RFx」「コミュニケーション」「コスト削減」「購買実行」の5軸それぞれで、自社の評価をいただくものだ。

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1.「取引基本条件」:支払い条件や、品質保証、瑕疵に関する条件など、他企業・業界平均とくらべて厳しすぎるところはないか。これはコスト削減にもつながる観点だろう。

2.「RFx」:見積依頼条件などに不備がないか。見積作成に支障が出る曖昧さが残っていないか。とくに、見積依頼時には1万個発注すると述べながら、実際の数量はそれ以下になっていないか。

3.「コミュニケーション」:調達・購買担当者からの日々のコミュニケーションは適切か。伝達事項のモレや遅れはないか、言葉使いは非礼でないか。

4.「コスト削減」:根拠なきコスト削減を一方的に依頼していないか。価格交渉のときは論理性・納得性をもつ材料をもとに交渉しているか。目標価格は適正なものか。

5.「購買実行」:突発納入依頼ばかりではないか。リードタイムを適切に守った注文となっているか。現場間での要求品質は基本契約書以上のものになっていないか。不良品基準は他社と比べても妥当なものか。

……。これらを評価していただき、コメントをもらう。それを眺めるだけで、同床異夢も明らかになるだろう。たとえば、レーダーチャートのようにまとめておけば差異が一目瞭然となる。

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そして、最後の注意点。

注意点3「結果から改善策を創出」:VOSの結果を自社改善(関係改善)につなげていく強い意思と、説明が必要。サプライヤ側にもメリットがあることを強調し、理解してもらう

可能ならば、ボイスオブサプライヤで意見や評価を収集した後に、やりっぱなしではなく、結果と改善策をフィードバックする。サプライヤ側からしても、自分たちの率直な意見が調達・購買部門の改善につながったと理解できれば、次回以降の協力も積極的になるだろう。

そして、このボイスオブサプライヤは何よりも楽しく、新たな発見があることを付け加えておきたい。ビジネスの過程で、社外から自分を評価してもらう機会は意外に少ない。ボイスオブサプライヤは、最初、簡単な項目でもかまわない。それに、もし費用の問題があれば、外部機関に依頼しなくてもいい。何よりサプライヤの意見を聞いてみてほしい。

某社で実施したときには、質問項目とは別に、多くのサプライヤが後継者問題で悩んでいることがわかった。そこでサプライヤ経営陣をお呼びして、事業継続に関するセミナーを実施した。これまでの調達・購買部門では発想すらなかったことだ。それにより、サプライヤ間の情報交換も進み、サプライヤ構造が強化されるという副産物もあった。

・ボイスオブサプライヤはカイゼン拡充作業

考えてみるに、ボイスオブサプライヤとは、生産部門で日常的に行われているカイゼン活動を外部に拡充した取り組みといえる。説明するまでもなく、QCサークルでは、チームを組み、互いの作業を確認したり、データをとったり、分析したり、仮説検証を行ったりすることで、1秒1円を低減しようとする試みだ。ボイスオブサプライヤでは、調達・購買部門単独では「見えない」盲点を外部に教えていただき、そして自部門のカイゼンにつなげていく。

某社では、サプライヤマネジメントのプロジェクトを発足させるとき、サプライヤを一同に集めて宣言を行った。その宣言は、これまでのような「買う」「売る」立場を超え、互いに切磋琢磨することで、なんとか不況を乗り切ろうとする熱意に支えられていた。

「双方向のコミュニケーションにより、知恵と工夫の相互交換ができる場を作る」「共に歩みたいと強烈に願う企業と共に、持続的な強い競争力を持つ最適調達基盤を作る」「真の幸福とは、容易ならざることを何とか成し遂げ それを成功させた時に初めて手に入るものである」とまで、その宣言では述べられている。

ボイスオブサプライヤとは海外から輸入された概念ではある。ただ、これをさきほどのようにカイゼン活動と読み替えれば、これまで日本企業がずっとやってきた地道な向上施策と、調達・購買部門にあてはめる施策といえるだろう。

そして、これまで5回にわたって説明してきたサプライヤマネジメントとは、もちろん定量的な考え方は必要であるものの、その通奏低音として調達・購買部門の強い想い--自社がサプライヤとともに最強の調達構造を創ってみせるという、賭けにも似た情熱--が流れていなければならないだろう。

サプライヤマネジメントの成否は、みなさんにかかっている。

 <つづく>

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