バイヤー出張論(牧野直哉)
普段サプライヤーの担当者が来社してくれるので、バイヤーは業務に関連した外出や出張よりも自社内にいる日数が多くなる傾向があります。日々の業務を滞りなく行うため、やむを得ない面もあります。しかし、現時点で購入するサプライヤーがベストなのかどうか。また、過去にベストだった評価レベルを、サプライヤーが維持しているかどうか。そういった疑問を除去するには、サプライヤー訪問の必要性が生じます。
調達・購買部門の出張との関わり方は二つポイントがあります。一つは、出張旅費支出の管理者です。社内の役割分担では、人事部門や総務部門、経理部門が管理しているかもしれません。しかし外部支出ですから、調達・購買部門のもつノウハウを活用し、効率的かつ快適な移動手段や、滞在先の選定へ貢献します。二つ目は出張者です。サプライヤー要求事項の広範囲化と高度化、そしてサプライチェーンのグローバルな広がりは、バイヤーの海外を含めた出張機会が増加しています。出張を意義深くするために、ユーザー視点で適切な出張の、基礎的な条件を整備します。
1.出張予定を計画する方法
出張には、大きく二種類あります。調達・購買部門における年間計画に合わせ、サプライヤーの継続採用監査や、担当購入品に関連した展示会、新規サプライヤー開拓を目的にした商談会の出席が目的の計画する出張。そして、発生の都度、必要に応じて要否を判断する計画しない出張です。
①計画する出張
新しい年度の計画立案時に、あらかじめ次の出張は計画しておきます。
(1)担当サプライヤー訪問
調達・購買部門の年度計画の内容には具体的なサプライヤーが登場するはずです。サプライヤーの継続採用監査も必要です。新しい年度の計画を立案する場合、訪問するサプライヤーとタイミングを、スケジュールに割り振っておきます。あわせて発生する費用を予算化しておきます。
(2)展示会
担当する製品や業界の展示会も、重要な情報収集の機会です。担当しているサプライヤーが出展する場合、ぜひ訪問しましょう。購入しているサプライヤーが出展しているのであれば、同業の企業が出展している可能性も高く情報収集の格好の機会です。「へぇ~」が一つでもあって、関係する人と名刺交換すれば、それは大きな情報収集の成果です。
(3)商談会
地方行政だけではなく、民間主催を合わせると、毎週日本のどこかで商談会が開催されています。主催する団体によって集まるサプライヤーの社数も異なります。大きな市区、複数の市区、都道府県が合同して開催する商談会は、数百社のサプライヤーが新規顧客を求めて参加します。まだ経験がなければぜひ一度参加を検討しましょう。毎年開催時期がだいたい決まっていますので、最低でも年に数回は出張計画に織り込んでおきましょう。
②計画しない出張
時々の状況によって要否を判断して行う出張です。まず、前年度の出張実績を分析してみます。トラブルや、新たな案件が理由の出張が、全体のどの程度を占めるのか。①の計画する出張との割合を算出します。分析の結果、50%以上の出張が計画されていなかった場合は、出張がそもそも場当たりで行われていると判断します。もちろん大きなトラブルが発生し、早急な解消を目的に、サプライヤーに通ったといった事態はやむを得ません。しかし、そういった出張が過半数以上を占めている場合は、せっかくの出張が実務に流されてしまっている典型的な状況です。計画しない出張をゼロにするのが目的ではありません。その割合を減らし計画的に出張します。
③日常業務のバックアップ体制・方法を整える
出張しない理由の一つに、会社にいないと仕事がたまる、発注業務が進まないといった理由が挙げられます。そんなもの自助努力ではなく、バイヤー不在時の対応を仕組み化し、出張しやすい環境を構築します。
(1)在籍者によるサポート
担当バイヤーが自社を離れていても、当面の最低限の業務は進められるように、他の出勤者によるサポートを行う方法です。お互いの助けあいではなく、AさんのサポートはBさんといった形で、あらかじめサポートする対象者を決めておきます。出張前には、簡単な引き継ぎし、不在通知メールの設定に、代行担当者の名前を、連絡先を明記して、不在時の業務滞留を防止し、緊急事態に備えます。こういった取り組みによって、お互い業務内容を理解するプラスの効果も期待できます。
(2)バイヤースケジュールの共有化とコントロール
一度に多くのバイヤーが出張しない工夫も必要です。あらかじめ計画する出張は、事前にバイヤー間でスケジュールを共有した上で重複日程を調整します。月末に翌月の全員の出張予定を確認して調整するといった定期的なイベントにします。毎週の報告会や、発注が集中する時期、社内のイベントを避けて、円滑に計画した出張を消化するためにも、こういった事前調整は不可欠です。
(3)リモート対応
もっとも効果的な取り組みです。特に宿泊をともなう出張の場合には必須です。出張先でも、自社と変わらない業務環境を構築します。メールの確認だけでも外出前で可能であれば、電話で在社している同僚に対応の依頼ができます。最近ではオフィスへかかった電話を携帯電話に転送する仕組みもかなり普及しています。また社内業務の処理は、電子決裁システムを導入していれば、外部からでも滞りのない業務処理が可能になります。出張する際の障害を除去するためには、外部からのアクセス可能な業務環境の実現も重要なファクターです。
(つづく)