会社を設立してからの地獄の日々~連載⑪(坂口孝則)

コンサルタントとして驚くのが、魔法の杖を求めるひとの多さでした。というのも「これさえやったら大丈夫!」という武器をみなさんが求めてきます。本音を言えば、そんなものはありません。状況や場面によっても異なりますし、コンサルタントが絶対的回答をもっていないケースがほとんどです。しかし、それは複雑系の世界においては、いわば当然のことともいえます。

ただ、それなら「コンサルの役割って何だ?」ということになりますし、私もそう思います。だから、魔法の杖はないんだけれど、うまく回答を導くスキルをもっていなければなりません。私は、これまで「何社もコンサルティング会社を変えた」というクライアントを相手にしてきました。すると、多くの場合は「以前のコンサルティング会社は抽象的すぎてダメだった」と悪口を聞かされます。しかし、言いにくいものの、その場合は、依頼項目も曖昧なことがほとんどです。さらに、抽象的な内容から具体的なアクションを組織自ら導かなければならない、という自覚がありません。

ただ同時に、たしかに多くのコンサルは曖昧で抽象的なのも事実で、それが私をいらだたせるのも事実です。このバランスが非常に難しい。というのもコンサルタントを擁護してもしかたがありません。でも、完全にクライアントのほうを賛同し続けるわけにもいきません。

あるとき、こういうことがありました。なんと、その会社がつきあってたコンサルタントは、私の個人的な知人でした。そのコンサルタントの悪口がはじまってしまったものですから、「そのひとよく知っています」とはいえなくなりました。でも、あとで私とコンサルタントのつながりがわかったら、それこそイヤですよね。そこで、私はいろいろな反論を試みました(「いやーそのコンサルの方がいうのも理解できますよ」とか)。しかし、途中から馬鹿らしくなってやめました。こういうものだと割り切るしかありません。

また、あるときは、こういうこともありました。窓口の方が真面目すぎて、うつ状態になってしまったのです(うつ病とうつ状態は異なりますのでご注意ください)。しかし、コンサルがはいって、数ヶ月で組織や業績が急改善しますか? いや、こういうことをいえないから苦しい立場なんですが、急な向上はしないはずです。それでも数ヶ月で成果を求められるのは酷です。

私は申し上げました。「よくコンサル会社は、クイックウィンといって、やりやすい製品でコスト削減を行い、それでさも成果が出たように喧伝します。でも、あれって、単にこれまで交渉をしていない品目を抜き出して交渉するだけです。そんなのコンサルに頼まずにご自身でやったほうがマシですよ」と。しかし同時に「それでもやったほうがよければやります」とも伝えました。

結局やることになりました。「おお! 3ヶ月で成果が出るなんて凄いじゃないか!」と褒められましたし、その窓口の方のうつ状態も改善しました。ただ、私は、こんなていどのことに金を払っていいのだろうか、と思いました。正直に、「こんなのだったら、私に頼まないほうがコスト削減になりますよ」といいました。しかし、こういうコンサルタントは珍しく、たいていはコンサルタント契約日数を伸ばしたいひとばかりです。それに窓口の方からは「いや、コンサルティング契約中は、プロジェクトをやることになっているから」といわれました。

なんだかなあ、と思ったのは事実です。それに、会社の金ではなく、自分の金だったら、こんな雑な注文をするでしょうか。

実は私の性格にも問題があります。というのも、うまく軌道にのったのだから、そのままやればいいのです。クライアントがやりたいということを実現するのが正解かもしれません。それがたとえ、間違ったお金の使い方であっても……。こういうウジウジ考えてしまうのが私の悪いクセでした。このころから「役に立たないコンサルティングならば、断ろう」という考えになりました。

先輩のコンサルタントからは「大企業から依頼があるのに断るのはバカだよ」と、文字通り、心底、バカにされました。これはいまでも続いています

(つづく)

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