「ほんとうの調達・購買・資材理論」番外編~労務コストの計算方法(坂口孝則)

・作業者のコストをどうしても査定したい!

読者のお一人より、私の個人メールにご質問が寄せられました。そのご質問とは、「作業者の加工賃率の求め方について」でした。調達・購買担当者がサプライヤの見積りを査定する際に、作業者コストをチェックする必要があります。たとえば、調達品を生産するために、工場作業者が10秒ほど作業するとしたら、何円と査定すればいいのでしょうか。このメールマガジンのバックナンバーをご覧いただける方ならば、「75号」を参照してください。

そこで私は、次の計算式を提示しています。

・作業者コスト=作業者加工賃率×加工時間

つまり、作業者が1秒あたりいくらかかるのか、その加工賃率を計算し、作業時間をかけあわせるというものです。そして、その加工賃率は次の式で求められます。

・作業者加工賃率=(作業者にかかるコスト)÷(稼働時間×稼働率)

です。(作業者にかかるコスト)とは、給与・賞与・福利厚生費・退職準備金等々を含みます。しかし、これを実際に計算するのは難しいものです。なぜなら、

(1)この(作業者にかかるコスト)に用いる社会保障費や福利厚生費、退職準備金などをどう算出するかといった問題があります。

(2)くわえて、作業者が純粋に一人なら良いのですが、たとえば別にラインの班長がいたりだとか、間接費用がかかったりだとか、その他コストに漏れがないか確認できません。

といった内容から、私は「1秒1円が一つの目安になる」とメッセージを述べました(同じ主張を著作「調達・購買の教科書」でも書いておきました)。時給3600円、稼働率込みで1日7時間働き、月に22日勤務するとします。そうすれば、月給が55万円くらいになります。私の説明を引用すれば「横浜市調査で工場作業者の月額は30万円ほどとなっている。ここから、社会保障費や福利厚生費、退職準備金などを加算する。社会保障費は会社が折半しているため、見えないコストがかかっているからだ。さらに、直接作業に関わらない班長やライン長などのコスト分を加算すると、1秒=1円はさほど間違っていない賃率となる」としています。

私は「稼働率込みで1日7時間働き、月に22日勤務」としているので、一ヶ月に154時間勤務、年間で1840時間勤務となりますね。これは実際の標準2160時間と比べれば少なめです。ただし稼働率があるため、実際は8時間の拘束と考えれば、年間264時間が生じます。そこで、1840時間+264時間=2112時間のため、まあ、そんなもんかな、といったレベルです。

しかし、ご質問者は、「これをより一歩だけでも進めて、もっと厳密な査定ができないか」というものでした。「1秒=1円を疑うわけではないが」とも。では、やや詳しく計算したら、この1秒1円がどう変わるか見ていきましょう。

より厳密な作業者加工賃率の求め方

では、ここでは調達・購買の教科書」をさらに踏み込んで、作業者加工賃率の算出方法について述べます。

必要な項目は次の5つとなります。

1.作業者の月額給与
2.付帯人件費率
3.直間費比率
4.労務共通費
5.製造経費比率

この5つです。このうち、1.は省略します。2.からご説明します。

「2.付帯人件費率」とは、さきほどもあった。賞与・社会保障費や福利厚生費、退職準備金などです。内容としては、「賞与」「雇用保険料」「労災保険料」「健康保険料」「厚生年金保険料」「退職準備金」「福利厚生費」があげられます。果たしてこれをサプライヤぶん調べられるでしょうか……。とくに「賞与」や「退職準備金」などはバラつきが大きく、一概にいえません。しかし、この「2.付帯人件費率」はおおむね1.の50%といわれています。ここでは個々の厳密な数値をあげられませんが、この50%を採用します。

「3.直間費比率」とは、直接工と間接工の比率です(間接部門ではありません)。直接工を支援する間接工の比率です。これもサプライヤによってバラつきがあります。ただし、ここでは一般的な製造業の8~15%の中間をとって12%を採用します。

4.労務共通費」とは、生産現場において作業者共通で使用する費用です。食堂や施設、用品類の費用・減価償却費を指します。これはほぼ無視してかまいませんが、これまた平均では一人あたり15万円くらいです。よって時間あたりは70円となります(年間2160時間とし、15万円をわると、この程度の数字になります)。この数字にさほど意味がなく、実績からの値と考えてください。

5.製造経費比率」とは、その他、製造経費です(そのまま!)。たとえば、作業標準管理とか、生産工程管理とか、治工具メンテだとか……です。これも、平均値でいえば8%程度です。

値をまとめてみました。ここでは一例ですが、次のように設定します。

1.作業者の月額給与:300,000円/月
2.付帯人件費率:上記1.の50%
3.直間費比率:12%
4.労務共通費:時間あたり70円
5.製造経費比率:8%

そこで、このような計算ができます。

300,000円×1.5×1.12=504,000円

(1.5とは「付帯人件費率」、1.12とは「直間費比率」です)

これを1時間あたりで割ります。年間2160時間ですから、一ヶ月あたりは180時間です。

・504,000円÷180=2800円

・(2800円+70円)×1.08=3099円(←1時間あたりコスト)

・3099円÷60=51.66円(←1分あたりコスト)

・51.66円÷60=0.9円(←1秒あたりコスト)

となりました。こうしますと、私が申し上げた1秒1円に対して、結果は0.9円となりました。

さて、みなさんはこの差額0.1円についてどうお考えでしょうか。私個人的には、稼働率も計算していないわけですから、この0.9円と1円の違いは、「まあ、こんなものかなあ」といったレベルです。

ご参考になれば幸いです……って、結局は1秒1円に回帰するかもしれませんね。

<了>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい