ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●値上げ対応 5 ~サプライヤーの本気度測定法

サプライヤー担当者による「口頭」での値上げ意志表示への対処法

前回は、口頭による意志表示前、サプライヤーからなんら値上げの話がない段階での、バイヤー企業側の事前準備に関するお話でした。実際前回お伝えした内容を実践された方は、値上げ要求の足音が高まっている状況をご理解頂けたはずです。

ここで、サプライヤーの営業パーソンから、販売価格のアップに関するなんらかのアプローチがあった場合の対処を考えます。この段階でのとても重要なポイントは、サプライヤーが値上げに言及した、もしくは値上げを臭わせた瞬間に訪れます。調達購買部門として「値上げ」が行なわれる可能性を、日常的な情報収集で感じつつも、値上げを許容できない理由を明確に述べます。

1. 値上げの話を受けたのは、御社が初めてです。
2. 値上げなんて、とても驚きました
3. こんな厳しい状況で、社内的に値上げが受け入れられるとは思えない
4. 営業からは、再三コスト削減要請が来ているのに、真逆の対応
5. 社内的なコンセンサスを得るのは、かなり大変ですよ
6. 同業の××さんとか、何も言ってきてないですよ。
7. いや、困ったなぁ~
8. 御社内では、どなたが値上げを主張しているんですか?
9. なんでうちに最初に話を持ってくるのですか
10. 値上げなんて、本気ですか?

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このような反応を行なう理由は、「値上げ」の空気を読まず、その口頭で言われた/匂わされた結果で生まれる空気を「値上げ否定」にするための対処です。ここは、バイヤーとしてのあるべき「KY力=空気を読まない力」を、あえて発揮します。値上げを許容するような空気を醸し出してはなりません。上記10個の反応サンプルの中では「なぜサプライヤーが口頭で値上げ意向を伝えてきたのか」の根拠・理由を探る3つの質問があります。最後の3つの質問です。

8.御社内では、誰が値上げを主張しているのですか?

この質問で、具体的な営業以外の部門名が出てきたり、営業パーソンの上司の名前が登場したりするのであれば、値上げに関して社内が一枚岩でない可能性が高くなります。また追加の質問として

「あなた(営業パーソン)も、我々に値上げ要求を行なうことはご納得できる、正当な内容ですか」

と聞いてみてください。値上げを口頭で示唆して予想以上のネガティブな反応によって、この質問にYesの場合は、サプライヤーの社内で顧客への値上げ要求が確固たるコンセンサスを得た企業としての意思になっている証です。

逆に「私はそう思ってないのですが」といった、自分の意志では言っていないといった言い逃れをしてきた場合は、バイヤー企業にとって、つけ込むべき「隙」が見えたと考えてください。この「隙」は、次の質問でその大きさの確認が可能です。

9.なんでうちに最初に話を持ってくるのですか

この質問。ある意味で言いがかりです。間違いなく、サプライヤーの営業パーソンからすれば、「御社に、私のお客様の中で最初に値上げの要求を持ってきました」とは言いません。したがって、この質問に対する想定できる営業パーソンからの回答は「御社(バイヤー企業)が初めてではありません」となります。

そのような回答が得られたらチャンスです。

(1)「どこ(顧客名)に値上げを要求しているのか」
(2)「どれくらいの値上げ幅を要求しているのか」
(3)「いつ頃から行なっているのか」

を、質問してください。既に、値上げ要求を行なっていれば、具体的な名称は無理でも、ある程度の情報は入手できるはずです。しかし満足のいく回答は得られません。このような値上げに関する他社への対応状況を確認すれば、実際に営業パーソンが値上げにどれほどの労力を費やしているかを測れるのです。

もし、回答がおぼつかない内容であれば、それは値上げの受け入れられやすさを測るために口頭で感触を探っているのかもしれません。営業パーソンからのヒアリング内容は、今後のバイヤー企業としての対応を決定する重要な情報をもたらしてくれます。サプライヤーへの対処は、値上げを受け入れる「空気」を作らずにおきます。

10.値上げなんて、本気ですか?

そして最後にこのような質問をします。この質問は、まさに値上げ要求への取り組みを今後どのように行なうかを測る重要な質問です。「本気です」とか、「申し訳ありませんが・・・云々」は、会社としてそのような方針があると想定すべきです。少しでも反応に否定のニュアンスがあれば、まさに様子見の発言となります。

ここまで質疑を尽くして、最後にサプライヤーに告げる言葉。それは、

「万が一でも値上げを要求する場合は、文書で申し入れをお願いします。」

になります。バイヤー企業として、値上げは簡単に明確な根拠がなく受け入れできないと、何度もくり返しサプライヤーへ明言します。明確な根拠とは、前々回にお伝えした5つのポイントです。

① 対象品目
② 値上げ幅
③ 値上げ理由
④ 値上げ時期
⑤ 値上げの数値的根拠

この5つの項目について、すべて文書に明記して提示をお願いしてください。重要な点は「文書で提出」させる部分です。これにも理由があります。

インターネット上には、様々なビジネスで活用できる文例があります。今回のテーマである「値上げ」も、このページ( http://goo.gl/MOedb )を参照すると、多くの売り手から買い手へ提示する文例があります。一つでも良いので、ぜひご覧いただき、次の質問への回答を考えてみてください。

「ホームページにある文面で、値上げを受け入れられるかどうか」

私の回答は、次回お知らせします。

<つづく>

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