教養としてのサプライチェーン第4回目(坂口孝則)

*1ヶ月前から数回にわたり、「教養としてのサプライチェーン」解説を実施します。サプライチェーン全体像と近年のトピックをとりあげます。この連載をすべて何かに貼り付けていただければ、そのまま新人教育に使えるようなものを目指します。

前回は発注方式についてご説明しました。4回目は、もっともイヤな仕事の一つである、納期調整についてお話します。

・納期の遅延原因あれこれ

まず、納期が遅れる原因はなんでしょうか。三つの分類ができます。(1)バイヤー企業責任のもの、(2)サプライヤ責任のもの、(3)地震災害などの環境リスクにかかわるもの。

リードタイム的に無理のある発注……(1)
支給材料や支給部品の提供遅れ……(1)
自社生産計画の急な変更による数量増加(減少)……(1)
仕様の急な変更……(1)
設備の故障等……(2)
人員の欠如……(2)
無理のある生産計画の計画と失敗……(2)
設備能力不足……(2)
自然災害……(3)
政治問題……(3)
経済破綻……(3)

もちろん他にも分類はできるでしょうが、上記のような代表例があげられます。調達・購買担当者として重要なのは自分が発注する部品のリードタイムをまずは把握することです。理想的には、すべての部品の工程表をサプライヤと確認して、リードタイムの適正性を確認します。QC工程表などを用いて、不用意に長めのリードタイムをサプライヤが設定していないかチェックするのです。もちろん、ある製品を調達するときに最適なリードタイムは100日なのか10日なのか、自分なりに理解することが重要です。

そして、部材の調達スタート時には、社内にその調達リードタイムを伝達しておき、そのリードタイムを確保して注文するように促します。もちろん、そのリードタイムが確保されるかは別問題です。しかし、少なくとも、調達・購買サイドが適正リードタイムを把握したうえで納期調整するのか、あるいはやみくもに納期調整するのかは意味が異なります。それに、適正なリードタイムをしっかり説明できるようにしておけば、責任を転嫁されることもありません。

私の個人的な感想では、この適正なリードタイムを決定するときに、社内を巻き込むかどうかで大半は決まります。調達・購買担当者はQC工程表を読み解くプロではないケースが多々ありますが、そのときは社内の叡智を借用しましょう。また、このリードタイムを守っておけば、納入遅延案件は減少します。

・納期の調整方法について

くわえて、サプライヤにたいして、いかに納期フォローを行うべきでしょうか。もっともよろしくないのは、「納期当日になって、納入されないのがわかり、あわてて電話する」といったことです。これには二つの悪しき状況が反映されています。一つ目は、サプライヤ側も、納期に間に合わなくても、それが恒常化していることです。そして、二つ目は、納期当日まで、納期を確認する機会がないことです。

売買契約の多くでは、注文後、数日以内に条件を満足できなければ双方のどちらかが申し入れると義務づけています。価格、数量、納期について、サプライヤ側が実現できなければ、本来はバイヤー企業に申し入れるべきです。しかし、この契約条項は無意味化しているケースが多々あります。つまり「毎回、無理な納期設定で注文する」のが両者(社)ともに常識化しており、いちいち双方で連絡をしないケースです。この場合は、一概にサプライヤだけに責任を転嫁できません。

そこで当たり前のような方法の徹底こそが注目されます。

1.「サプライヤへ細かい進捗管理を行う」ことと
2.「生産変動等の情報伝達を行う」ことです。

バイヤー企業によっては、主要サプライヤと週に一度、注文品(受注品)すべてにおいて進捗管理を行っています(1.「サプライヤへ細かい進捗管理を行う」)。エクセル表などで一覧化し、それぞれ指定納期通りに納入可能かを確認します。これは、このような場があること自体が有効であるとされます。つまり、確認する行為自体が、両者(社)に緊張を与え、先行での調整を可能とします。つまり、早い段階で納期が間に合わないとわかった時点で、それぞれの社内で調整に動く--、この動き自体が物事の深刻化を防ぎます。

また、これはその時点での注文残だけに限りません。今後の需要予測についても生産管理部門などとともに、生産情報を共有する定期会議が有効です(2.「生産変動等の情報伝達を行う」)。もちろん、ここには一つの問題があり、生産「計画」であって、生産「確定」ではないため、サプライヤ側としては実際に注文を受けるまで生産に取り掛かれないのです。その意味で、先行情報を、あくまで「情報」レベルにしておくか、引取責任を有する先行発注情報として扱うかは企業によってさまざまなスタンスがあります。たとえば、1ヶ月前の選考情報については、もし数量が5割ほど変動(減少)してしまったら、そのうち数割は買い取るなどと取り決めておきます。これには絶対的な方法はなく、生産情報の精度向上しかありません。

・納期の調整の工夫について

また、「カムアップ方式」なる納期フォロー方法があります。これは以前は紙を使って、現在ではスプレッドシート(エクセルなどの表計算ソフト)を使って行われます。単純にいえば、注文した用紙を、納期順に並べ、それを見ながら進度管理を行いうものです。スプレッドシートを使う場合は、注文残について、納期が近い順に並べておき、一件一件、納期が確認できた順に消しこむのです。

もちろん、電話、対面、書面などさまざまな方法がありますが、もっとも使われる手段は、電子上の回答です。現在では、電子発注が主流ですから、サプライヤ側も受注確認とともに、確定納期を電子上で入力してもらう方法です。実際の担当者は、その確定納期が入力されていない注文についてフォローを実施します。

くわえてよく使われる方法は、その翌週に納期指定されている注文一覧を紙出力し、担当者に配布する方法です。データ上ではなく、紙で見える化し、納期フォローの漏れをなくします。

これまでが通常の方法で、適正なリードタイムを順守してもサプライヤ側の問題で納入されない場合もあります。一覧表として納期遵守率を交渉ルームなどに貼りだすバイヤー企業みられます。これは、突発注文のケースを除いて、どれだけの注文を遅延しなかったのか(遅延したのか)を一覧表にする方法です。遵守率の低いサプライヤは「ワーストサプライヤ」として掲げられます。納期を遅延しがちであれば、翌期の受注量が減ってしまうことになれば、サプライヤにとっては納期を順守するインセンティブにもなります。

バイヤー企業によっては、納期をフォローする人員と、発注を決定する人員をわける取り組みを実施するケースもあります。納期を短縮する代わりに、価格は高くする、といった不正行為をなくすためです。ただし、納期フォローだけを担当する人員のモチベーションも向上しないため、定期的なローテーションが望まれます。

さて、次回からは生産編に突入します。

<つづく>

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