CSR調達とはなにか(牧野直哉)

先日、毎月末におこなっている調達購買「私塾」で、この「CSR調達」をテーマにしました。CSRはcorporate social responsibilityの頭文字をとり、「企業の社会的責任」と訳されます。講義の冒頭で、受講生に次の様な質問をしました。

「今日(もしくは昨日)、CSR(企業の社会的責任)を意識した調達をおこないましたか?」

20数名の参加者の中で、「はい」とのご回答は5名。3割弱の方がCSRを意識して調達購買業務をおこなわれていました。私塾ではお申し込みの際に、ご勤務先をご回答いただいています。講義の前日に、参加される方の御勤務先のホームページで「CSR活動」や「CSR調達」を掲げている割合を調べました。なんと、73%もの企業でCSRの推進をアピールしていました。

企業として公にCSRの推進を掲げている。しかし、企業に勤務する従業員が、自社のそういった取り組みを知らない。この状態は、CSRを標榜している企業にとってはもっともリスクが大きい状態です。講義の中で、次の出勤では、まず自社のCSRへの取り組みを調べてくださいとお話ししました。

●CSRとはなにか

CSR調達の前に、CSRとはなにかについてです。

一般に「CSR(企業の社会的責任)」として取り上げられるテーマは、次の通りです。

1.社会問題:雇用、労使関係、機会均等、労働・安全・衛生、児童労働、強制労働問題
2.製品・サービス責任の問題:顧客の健康・安全、製品のサービス・ラベリング、プライバシーの尊重
3.企業の法律遵守性の問題:贈収賄、政治献金、不正競争、不正価格設定
4.近年注目される問題:正しい環境への配慮や社会法規の遵守

「CSR」の対象となる範囲は、とても広いと理解してください。広いだけでなく、CSRにはもう一つ重要な特徴があります。企業として実践するCSRとは、社会と市場の変化によって決定される点です。対象とする範囲が広い上に、経営環境、市場環境の変化によって、求められる社会的責任も変わってくる。これが、CSRがわかりにくい原因です。

上記の4つの問題、例えば社会問題の中には、「児童労働」や「強制労働」といった、日本国内を見る限りは想像できないテーマが入っています。しかし、安い労働力を求めて海外展開し、法整備や管理の目が行き届かない進出国の取引先で「児童労働」や「強制労働」が問題になるケースが実際に発生しています。

日本の場合、CSRが企業の不祥事と合わせて語られる場合があります。自動車メーカーのクレーム隠し、食品偽装の一連の問題が、企業の社会的責任を果たしていないとされています。しかし、日本国内で問題となっている企業の不祥事は、クレーム隠しにしても、食品の産地や品種、賞味期限の偽装にしても、CSR以前の、コンプライアンス(法令遵守)の問題です。

●CSR調達とはなにか~CSR調達をグローバル視点で理解する

1.CSR調達を一言で表現してみる

それでは、続いて日本における「CSR調達」について考えてみます。前にも触れたとおり、企業の社会的責任の範囲は、とても広い。この広さを網羅する言葉が日本語には存在します。「世間」です。「世間に顔向けできない」といった際に使用されます。世間とは、世の中、世の中の人々といった意味で使われます。CSR調達とは「世間に正しい調達」と言えます。ポイントは「世間」の範囲です。

近年、この「世間」が広がっています。地理的な変化だけでなく、時間的、速度的な変化です。こういった流れを後押ししているのは、次の3点です。

(1)企業の海外進出

円高による国内人件費の高騰、じり貧する国内需要により、日本企業は海外進出を進めています。従来は、日本国内市場を相手にして、日本国内を拠点にしていた場合、世間は日本でした。しかし、海外に市場や拠点を求めると、世間は広がります。進出先の国や、市場も日本語で言う「世間」になります。

(2)IT技術の進化

海外の様子を伝える映像や画像も、今や日常的にリアルタイムでやり取りが可能です。フィルム式のカメラで撮影して、現像してといった時間を考えると、パソコンやスマートフォン上ではリアルタイムです。これにより、情報拡散の速度が一気に高まり、短時間で全世界での情報共有が可能となりました。

(3)格差の顕在化と是正活動

企業の海外進出の大きな目的は、安価な労働力の獲得です。先進国企業の新興国への進出は、進出先の経済発展をうながす効果もあります。一方で、進出先での未熟な法整備によって、先進国では違法となるような労働環境・条件によって、安価は人件費が実現するとの側面もあります。そういった格差は従来からありました。近年では上記(2)で述べたIT技術の進化によって、そういった現実が白日の下にさらされています。

これまでに述べた点によって、CSRの重要性が高まっているのです。

<つづく>

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