転職を考えない人が読む「転職」のおはなし 3(牧野直哉)

前回からの続き、今回で三回目です。

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そしてここでもう一つ。なぜ一つの企業、同一部門での継続的な5年以上の勤務が必要なのか。これは、業務内容の本質的な理解をおこなうためです。自分の仕事のほんとうの意味、前工程の結果で、なにをどのようにおこなって、後工程ではどのような作業が発生するのか。調達購買部門も、他の関連部門でも、標準的な業務内容を記述した資料や、文献は多数あります。しかし、文献にあるような整ったプロセスを持っている会社はありません。文章にまとまった標準的なプロセスとは、割合はまちまちですが異なっています。そして、その違いがなぜ生じるのか。必ず理由が存在します。「なぜ、うちはこうなっているのか」その問いに答えを出すのは、そう容易いことではありません。皆さんの同僚の方でも、このように根源的な部分への疑問に向き合っている人は、残念ながらいないはずです。理由は、そのような問いかけをおこなわずとも、仕事はできてしまうためです。現代の調達購買部門でも、この傾向は顕著です。既に、数十年調達購買活動を継続して、担当しているサプライヤーは、過去に先輩社員、もしくは同僚が担当していたケースがほとんどであるはずです。例えば、今日皆さんが発行した注文書について、その価格や発注先のサプライヤーに「なんで、この価格で、このサプライヤーなのか」ということを、いちいち疑うかどうか。また企業では、関連部門との係わりの中で仕事をしています。なぜ?という疑問は、当然関連部門にも及んで持つことになります。そのようなことに、答えを求めることは、実は一定の時間を費やさなければできないことなのです。

私のこれまでの経験では、やはり30歳代前半までに、勤務先を3回以上変えている方は、業務内容の理解が浅くなる傾向があると感じています。時間的に深く読み解くことができなかった。それは、ある程度長く勤務して実績を残さないと、より責任の重い仕事を任されないということも起因しています。任されなければ経験を得ることもできないのです。

一つの会社に長く勤務することは、転職をおこなったときに感じるギャップも大きくなります。一社に長く留まることは、そんなリスクもあることは事実です。しかし、20歳代から30歳の前半までに、一回長い勤務を経験することは、企業活動の仕組みを理解して、セオリーとの違いを認識し、改善活動をおこない、知識を体得するのに、不可欠なプロセスなのです。

2. 間違った転職のセオリーと、捨てるべき自負

私も転職を経験する前は、様々な文献を読みあさり、転職にはどんなメリットとデメリットがあるのかを必死に理解しようと試みました。決して無駄ではない取り組みだったと思います。しかし、世間に流布しているセオリーと呼ばれる内容にも、実際転職をしてみたからこそ、疑問を持たざるを得ないものがありました。私が疑問に感じた内容について、3点述べてゆきたいと思います。

(1) 35歳限界説

これは、インターネットの記事でよく目にする内容です。最近の例であれば、このページ( http://goo.gl/harQb )。ご紹介したページでは、転職のタイミングで分類して、転職による給与の増減の割合を数値で表現しています。若年層の方が、増加している割合が高くなっています。しかし、提示されている数値も、25~34歳でも、増加よりも減少している人が多くなっています。35歳よりも若い段階で、既に「限界」が到来していることになります。したがって、数値をしっかり読めば、給与という観点では、35歳が限界ではありません。傾向として、年齢を重ねるほどに、年収を上げることが困難になっていくことは読めます。これは、年功序列をベースにした給与体系色濃い日本ではやむを得ないことです。私の勤務先では、基本的に責任が同じであれば、給与も年齢に関係なく同じです。55歳以上であっても、約1割の人は給与を増やしているのです。35歳という年齢が限界なのでなく、年齢以外の別の要因があると考えるべきなのです。

(2) 転職は3回まで

どんな会社でも「素晴らしいな」と思える人との出会いがあります。私は、転職を経験した人で「これは、スゴイ!」と思った人が数名います。すべて4回以上転職しています。そして、現在も活躍を続けていらっしゃいます。強者では7回目の転職で、魅力的な仕事と待遇を勝ち取っている方もいます。そんな皆さんの経歴から判断すると、単純に回数で成否は測れない傾向が浮かび上がってきます。ここでは、7回会社を変わっている強者の経歴から、転職回数に関する問題を読み解くことにします。

① 勤務先への期間は、長いか短いかが極端である
これまでの経歴で、長いところでは5年、7年間、勤務しています。大学を卒業後、日本の大企業に9年間勤務しています。その後、2年間海外留学を経験して、1年以下の勤務を2回挟みながら、比較的長期間働いています。

② 長期間の勤務では、確実に実績を残している
長期間の勤務では、業界にいれば誰もが知っている仕組みの立ち上げや、外資系企業の日本市場でのスタートアップといった、確実な実績を残しています。

この方の経歴から読み取ると、業務上の経験を自分のノウハウへと転化させ、異なる企業でも、過去の経験に根ざした対応を実情に合わせて進める能力を持っていることがうかがえます。調達購買部門でのキャリアで、実際に売買の経験を売りにする場合があります。これは、その人の購買力なのか、それとも勤務先の購買力なのか、採用する側はよくわからないのです。これだけのモノを買ってきた!という経験を、他の企業でも使いこなせるように、スキルかできているかどうかが転職成功のカギとなるのです。

もう一点、先ほどの「35歳限界説」とも関連する内容があります。30代中盤を過ぎると、調達購買業務での経験に根ざしたスキルに加えて、組織のマネジメント力が必要とされるポジションが多くなります。40歳を過ぎた転職では、必須のスキルといえるでしょう。これは「課長をやってきた」といったものではありません。そのポジションで負う責任を果たすためのリソースを、どのように配分するか。過不足への対応ももちろん含まれます。当然、現有人員での成果の拡大といった改善活動もおこなわなければなりません。ポジションに与えられた戦力をどのように活用するかが求められるのです。

(3) 新卒時の武器を捨てる

日本では、新卒の採用時に歴然とした学歴、及び学校歴による差別が存在します。私が新卒で入社した企業では、指定した大学以外の卒業見込み生からの採用をまったく想定していませんでした。また、各社から出されている就職情報誌も、所属大学によって送られる資料の種類が大きく異なっています。例えば、東京大学の学生にのみ送られる情報誌が存在する等、企業の希望によって細分化されているのです。また、資料請求をおこなう葉書も、どの雑誌に添付されていたかが管理されていました。現在30歳代以上の方が新卒で就職活動をおこなった際、通っていた大学によっておおきなアドバンテージを受けているケースもあるのです。

私は転職希望者の採用を検討する際、卒業大学名を判断基準にしません。十数年働いてきたのであれば、たかだか数年間を過ごした大学での経験は、さほど大きな意味を持たないのです。したがって、特に入試の際に偏差値の高い大学の卒業生は、新卒時の就職活動で、かなり下駄を履いた状態で活動していたことを認識する必要があります。その上で、新卒時に大きな影響力を持っていた卒業大学への自負を捨てなければなりません。卒業した大学がどこであれ、入社して何をやってくれるのかが問われるのです。

<つづく>

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