サプライヤーの倒産 2(牧野直哉)

はじめに、前回の記事に頂いた質問へお答えします。

【御質問】
前回のサプライヤーの倒産の記事で「4.サプライヤー評価(採用時、継続時)資料確認」とありました。倒産してしまったサプライヤーの資料を、なぜ倒産後に確認する必要があるのでしょうか。

【回答】
調達・購買部門やバイヤーはサプライヤーを良く理解しているでしょう。しかし、社内関連部門は、一般的に調達・購買部門よりも理解レベルが低くなります。倒産の影響が関連部門に広くおよぶ場合は、倒産したサプライヤーが、そもそもどんな会社だったのか社内へ説明が必要かもしれません。その場合、基本的な情報を網羅しているサプライヤー評価資料を活用します。サプライヤー倒産に際して、社内の協力体制を作り、乗り切るために活用します。

前回は、サプライヤーが倒産した一報を受けたときに必要となるアクションアイテムを十項目お伝えしました。そして倒産状態に陥ったサプライヤーに対するサポートは、限定的な手段しかありません。調達・購買部門はサプライヤーマネジメントによって、代替サプライヤーを確保し、倒産発生による影響度を少なくします。具体的には、次の三つの取り組みによって実現します。

1.財務諸表データを活用する
(※財務諸表は、さまざまな呼称が用いられます。一般には「決算書」、また中小企業では「計算書類」と呼びます。今回はまとめて「財務諸表」を用います)

これまでサプライヤーの財務諸表を参照した分析は、さまざまな文献も販売されておりますし、本有料マガジンでも坂口さんが記事にしていますので、そちらを御参照ください(バックナンバー77号を御参照ください)。今回は数年間の財務諸表から、その変化をとらえて、サプライヤーの抱えるリスクを判定する方法についてお伝えします。

財務諸表は、複数の書類から構成されています。貸借対照表と損益計算書から倒産の徴候を感じとるには、次の3つのポイントを確認します。

① 借入金の増大

企業が倒産した後、原因をたどると「あのときの設備投資だ!」といったケースは多くあります。以下の②、③でもいえますが、売り上げが順調に拡大傾向を示しているのであれば、問題ありません。借入金の推移を確認し、売り上げが同じもしくは減少傾向を示していたら、サプライヤーに借入金が増えた理由と、売り上げの見通しについて確認します。

② 在庫の著しい増加と減少

どのような考えによって在庫が変動したのか、その原因・根拠が問題です。在庫は、増加サイドがリスクとなる可能性が強くなります。しかし、採算を度外視した安値販売といったケースも想定されるために、増加と減少の両方を想定しています。いずれのケースも、企業内で何らかの大きな意志決定がおこなわれた可能性がありますので、必ず確認します。

③ 売上債権の著しい増加と減少

サプライヤーの他の顧客も、日常的に倒産するリスクを持っています。倒産の危機に瀕(ひん)す顧客から、支払いの猶予を依頼されている場合は、売上債権が増加します。また、売り上げ減少が継続すると、減少する可能性もあります。これも②と同じく大きな変動の理由、ここでは外部環境に関する変化の根拠を確認します。

今回御紹介した三つのポイントは、新たにサプライヤーから財務諸表を入手した際、あるいはサプライヤーの経営者と面談する前には必ず確認します。疑問点を見つけた場合は、必ず確認しましょう。その結果で、疑問点が取り越し苦労に終わったとしても、それは相手に「財務諸表を確認している」との印象を残し、明確な回答はリスクの減少につながります。

2.発注割合3:3:3:1の実現

この発注割合は、ある購入製品/カテゴリーを、一社独占/単独ソースとしなかった場合、複数サプライヤーの理想的な発注構成として考案しました。発注割合3を持つサプライヤーは、日常的に発注可能なサプライヤーとします。発注割合1のサプライヤーは、発注割合3のサプライヤーを将来的に代替する存在です。倒産対応を想定すると、発注割合3のサプライヤーを相互に切り替えできる状態が理想です。もちろん、実行には大きな困難がともないます。こういった状態を維持する代表的な方法は、次の3で述べます。

3.サプライヤー変更障壁の撲滅

複数のサプライヤーへ発注できれば、分散したり、集中したり、バイヤーが自由にコントロールできます。バイヤーは「自由に発注先を選定できる」環境の維持も重要な任務です。もちろん、こういった取り組みは、継続的な受注を阻害する動きであり、サプライヤーには歓迎されません。ましてサプライヤーは、バイヤー企業から仕事を獲得し、他の企業に取られまいとして、さまざまな努力をおこなっています。サプライヤーをー選定する決定的な根拠となるような優位性によって変更できない、あるいはやりづらいのであれば、やむを得ないでしょう。それはそれで、優位性を覆す新たなサプライヤーの探索活動へと展開します。そういった点ではなく、どうでも良い点での変更障壁は排除しなければなりません。身近な例では、携帯電話の充電とデータ転送を目的としたケーブルがあります。iPhoneは他の携帯電話とは異なるプラグ(Lightning)を採用しています。これによって他の携帯電話で使用されるケーブルや周辺機器は使用できません。変換アダプタを使えば使用可能となりますが、明らかにコストアップとなるのです。

倒産するかもしれない危険を誰に知られなくないか。企業経営者からすれば、顧客であり、取り引きしているサプライヤーです。サプライヤーは、調達・購買部門やバイヤーに倒産可能性が高まった事実を隠します。これは、やむを得ません。しかし、その徴候は、さまざまな場面で表れますし、倒産する可能性は、多くのサプライヤーあるいは自社も含めてあるのだとの前提にたって、日常業務に確認プロセスを織りこみましょう。

次回は、上記2の「発注割合」についてです。

<つづく>

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