ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●社内関連部門とのコラボレーション力 3~購入要求部門

今回は、購入要求部門とのコラボレーション力についてです。購入要求部門とは、メーカーであれば設計・技術部門であり、間接材となると、社内のあらゆる部門になります。今回は、購入要求部門とどのように協働していくか述べてゆきます。

前提条件としては、このメルマガでも何度もお伝えしている、企業としての購入に不可欠なルールを再度述べます。調達購買部門では、具体的に購入するもの、あるいはサービスの内容を決めることはできません。何を買うかは、購入を要求している部門が決定します。この具体的に購入するモノを決定するプロセスへ、どのように調達購買部門として関与していくかを協業方法として考えてみます。

購入要求部門でのプロセスを想像してみます。買いたいものを決める場合、特別に困っていなければ、調達購買部門へ連絡することはありません。購入要求部門みずから、サプライヤーから資料を取り寄せたり、営業パーソンを呼んで、直接打ち合わせをおこなったりするためです。結果、購入要求部門とサプライヤーの直接のやり取りで、購入するものの仕様が決まってしまいます。一般的に、仕様が決まると購入コストの80%は決まるといわれています。あと20%あるじゃないか、そんなポジティブな考え方もできます。しかし、コスト削減の取り組みをおこなう場合に、その母数が購入価格全体の20%なのか、それとも100%なのかは、採用する手段も、実現できることも大きく異なってきます。

企業で購入する場合に、本来要求部門でおこなうべきことは、仕様の決定です。サプライヤーの力を借りて仕様の明確化をおこなうことは、上手な外部のリソース活用方法の一つです。しかしサプライヤーの力を借りて仕様決定をおこなった場合、現実的に発注するサプライヤーも決まってしまいます。ポイントは、仕様決定プロセスと、サプライヤー決定を分離することです。しかし、これはとても難しいですね。仕様決定に協力したからには、サプライヤーも具体的な受注に結びつくことを期待しているはずです。実際、発注するサプライヤーを決定する前の段階で、仕様決定のプロセスへサプライヤーが協力し、有利な発注条件をあらかじめ購入仕様へ盛り込む活動は「スペックイン」と呼ばれています。私が経験した産業機械の営業では、お客様の要求仕様を検討する段階に食い込み、スペックインを実現するための営業活動をおこなっていました。後々、価格競争に巻き込まれ、受注価格が下がることを避けるため、スペックで発注先を自社に縛るわけです。このような営業的な取り組みを、調達購買部門として、見過ごせない理由があります。

営業がなぜスペックインするためにあらゆる努力を惜しまずにおこなうのか。これは競合を避けるためです。では競合では何がおこなわれるか。競合とは、あらゆる条件が一番良いサプライヤーを選択するための取り組みの一つです。競争相手の存在によって、価格を下げる効果も生まれます。購入価格の削減は、調達購買部門にとって重要な課題です。スペックインを購入側から見るとき、購入仕様の決定の過程で、より購入側ニーズをくみ取った最適な仕様となる可能性がある反面、価格面では競合をおこなった場合よりも高くなってしまう可能性もあるのです。

スペックインといった具体的な活動でなくても、サプライヤー営業パーソンの本心としては、できるだけ調達購買部門には登場して欲しくない、できることなら注文書が送られてくるだけの関係がよいとさえ考えています。だから、仕様を決定するプロセスには綿密なフォローをおこなって、仕様を決めるプロセスで、事実上サプライヤーの選定も購入要求部門でおこなわれるように仕向けるわけです。このような状態に悩まされているバイヤーも多いのではないでしょうか。自分へ情報が提供された段階では、事実上のサプライヤー選定は終わり、それどころか提示される見積金額も、交渉の余地はない。はたして、このような状態で、調達購買部門としてどのように対応すればよいのでしょう。

製造業の調達購買部門における改善テーマとして、「開発購買の実践」が登場することがあります。開発購買とは、仕様決定の初期段階より、調達購買部門が参画・関与することで、スペックインによる事実上のサプライヤー選定を避け、コスト削減活動を仕様決定段階からおこなうものです。問題は、開発購買の実践をする、しないに関わらず、仕様決定の初期段階から、調達購買が購入要求部門へどんな貢献をするかです。

本来的には、購入要求部門では仕様のみを決定し、サプライヤーの決定は、調達購買部門でおこなうことを明文化し、順守すればよいわけです。しかし、すでにそのような明文化はおこなわれているケースもおおいはずです。なかなか実態がともなわない。そのようなケースにはどのように対応するか。

それでは、購入要求部門から調達購買部門へなんらかの連絡がある場合を、考えてみます。購入仕様が決定した後では、注文書をサプライヤーへ発行して欲しいとか、取引口座を開設して欲しいといった依頼が想定されます。それ以外の場面では、納入前であれば、希望納期とサプライヤー対応納期のミスマッチとか、納入後であれば、品質問題や、仕様違いといったことで連絡がきます。サプライヤーとのやり取りの結果、円滑に進まなくなってしまった場合に「なんとかしてくれ」と連絡がくるのです。まさにトラブルの処理ですね。私は、このようなケースは、これまでのやり方の問題点を指摘して、善処させるチャンスと考えています。なので、トラブルの発生によって、購入部門から連絡があった場合は、積極的に対処すべきです。原因を明らかにして、バイヤー企業とサプライヤーの双方が歩み寄って、問題の解決を図る。次が重要です。再び同じような問題を起こさないための策を講じることを、要求部門とサプライヤーの双方に依頼します。具体的には、直接連絡を取り合うにしても、どんな状況にあるのかを調達購買部門にも連絡をしてもらう様、依頼します。例えば、メールの授受に際して、コピーを送って貰うことをお願いするわけです。

このような取り組みが実行されると、バイヤーが受信するメールの量は確実に増えます。しかし、まったく経緯を知らされることなく、トラブルが発生したときにだけ連絡があるよりも、実際にトラブルの処理はスムースに対応できるはずです。また、バイヤーがメールから状況を掌握していることは、サプライヤーからの金額提示があった場合に、すぐ対処も可能です。打ち合わせの日時の確認がおこなわれたら、バイヤーとして同席してみるのも良いでしょう。様々な形で、調達購買部門を双方に意識させることが重要なのです。

<つづく>

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