ほんとうの調達・購買・資材理論~番外編(坂口孝則)

25のスキルと知識に書かなかったリスクマネジメント

今回は、ほんとうの調達・購買・資材理論の最終回として、中国リスクについてふれたい。このメールマガジンをお読みの方はおわかりのとおり、「ほんとうの調達・購買・資材理論」での連載は(「調達・購買の教科書」にまとめた)下に示す「5×5マトリクス」を基にしてスキルや知識を説明してきた。この番外編では、マトリクスでは意図的に外した調達リスクに関する知識について述べている。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

今回、その番外編で述べたいのは製造業というリスクについてだ。正確にいえば、日本で製造業を続けることのリスクについてだ。製造業に関わらない方々にも参考になると思う。

・日本はほんとうにデフレなのか

次の図は以前にも掲示したグラフだ。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

これはGDP比鉱物性燃料輸入額率を示したものだ。ごく簡単にいうのであればこれは、日本が買っている(輸入している)資源や原材料の値上がりと値下がりを表現している。それと比較するのは、製造業の製造原価率だ。「≒」で結んで、外部調達コスト率としている。これは、もちろん正確ではない。本来は設備の減価償却費等が入る。ただし、ここでは減価償却費等は劇的に変化しないから、その上下落は調達コストの上下落と近似するものとしてとらえていただきたい。

(ご興味ある読者に補足すると、なぜGDP比で鉱物性燃料輸入額率を表現したかというと、経済成長があれば鉱物性燃料の輸入額が増えるのは当たり前だからだ。よって、GDPと比べることによって日本全体の資源や原材料を近似した)

すると、グラフを作成していて驚いたのが、資源・原材料の値上がりや値下がりに、コスト率は大幅な影響を受けていることだ。調達・購買部門は、資源や原材料価格に翻弄されているだけの存在に映る。私のこのグラフを見て「なんだかんだいって、調達・購買部門って何もできていなかったんだね」と皮肉をいったひとすらいる。まさに、ここにきて原材料という古くて新しいリスクの存在を強調せざるをえない。

さて、驚くべきが次のグラフだ。上図はデータの関係で2010年の中盤あたりまでとなっている。これまででいえば、「翻弄されている」「資源や原材料価格が支配的だ」でよかった。しかし、その後はどうか。

完全に一対になるデータではないものの、CPI(消費者物価指数)を見てみよう。さきほどがコスト率だったのに対して、こちらは物価との関係であることに注意が必要だ。下図は、国内で販売されているエネルギー価格指数と、財の価格指数を比べてみた。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

ふたたび驚くのはエネルギー全体価格が上昇している事実だけではない。むしろ、財価格との相関が注目に値する。2005年は、エネルギー価格上昇以上の財価格を維持できていた。しかし、2010年中盤から見られる特徴は、エネルギー価格は上がるものの、それを財価格に反映できていない現実だ。

(ちなみにご興味ある方のみに補足すると、エネルギーとは「電気代、都市ガス代、プロパンガス、灯油、ガソリン」を指すため、鉱物性燃料と完全一致しているわけではない。「完全に一対になるデータではない」と書いたのはそのためだ)

これでは「調達・購買部門はエネルギーを高く買っており、企業としてそのツケを最終価格に転嫁できていない」と批判を浴びてもしかたがない。

私は製造業を中心に述べているとお感じかもしれない。製造業を中心に強調するのは、財=モノの製造と、無形財=サービスでは危機の度合いが違うからだ。下の図は、

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

財の価格推移と、サービス価格推移を比べたものだ。これを見ると、「日本全体が総じてデフレ」に陥っているとは思えない。サービス価格は検討している。それに対して、製造業を中心とする財の価格は下がりつづけている。

(さらにご興味ある読者に補足しておくと、サービス価格の下落の一要因は高校教育費の無償化である)

その結果、どうなっているかというと、製造業の利益下落だ。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

営業利益で見ると、日本には二つの世界があるようだ。下落基調の製造業と、上昇基調の非製造業と。私はあまりアベノミクスに期待していない。通貨安政策と金融緩和だけで、製造業の持つ根源的問題を解決できそうに思えないからだ。

1.原材料価格は製造業のコストに支配的
2.また原材料値上がりを最終製品に転嫁できないていない
3.さらに転嫁できないどころか、最終製品が下落し利益を悪化させている

・では中国進出で解決するのか

多くの日本企業はなんとなく国内産業のヤバさに気づいていた。そして、その解決策を中国に求めた。単純にいえば、日本で売れないので、中国に売ろうとするものだ。たしかに、中国人民の消費パワーを喧伝する報道は多い。

しかし、その報道にも冷静な目を持てないだろうか。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

上図は中国の成長率を示したものだ。これは前々回の連載でも書いた。しかし、意外に知られていないのは、この成長率を支えるのは、一般的に思われているほど中国人民の消費パワーではないことだ。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

これは2008年に中国政府が内需拡大のために四兆元(!)の財政支出をすると宣言したときのものだ。実にその保守性に驚くのは、その大半が実にインフラ投資であることだ。民生事業への支出は1%にすぎない。

さらに、さきほどの成長率のグラフを因数分解してみよう。すると、このようになる。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

報道で喧伝されているほど、中国経済の成長は中国国民の消費パワーによるものだろうか。2009年を見て驚くのは、輸出がすぐれない場合であっても、なんとか莫大な投資によって成長を支えている「不都合な真実」だ。青い箇所が消費であるものの(もちろん伸びている。それは疑いない。しかし)、それほど比率ではない。

各自動車メーカーは中国に進出し、それなりの成果をあげた。しかし、中国国民の消費が低迷すると大打撃を被った。想像以上に難しく、かつ売上が伸びないのは、グラフが示す内訳からもわかる(それに対して中国のインフラビジネスに関わる日本企業は好業績だ、といいたいところだが、中国企業に対するものが大半で、日本企業の恩恵はティア2、ティア3としての間接的効果と考えられる)。

<クリックして図を大きくしてご覧下さい>

さらに中国では事業リスクとして上記のものがあがっている。「労働コスト上昇」と「労務問題」は同種と考えてよいだろう。また当件については連載でもふれたので繰り返さない。私がピンクでマーキングしたもう一つのトピックは「他社との厳しい競争」だ。巨大市場であるほど、競争が激しくなるのは必定だ。実際に、VW(フォルクスワーゲン)が中国市場に真っ先に参入したときと比べ利益率は低下している。巨大市場のパイは大きいだろうが、価格競争に巻き込まれてじゅうぶんな利益を確保できるとは言いがたい。

皮肉なことに、米国企業で利益を確保した企業は、中国を「お客さん」としてではなく「工場」として活用したところだった。アップルは中国工場で組み上げた商品を先進国に売った。もちろん、中国工場の労務コストアップ問題は存在する。しかし、中国で反アップルの活動があったとして、困るのは中国だ。ただ、中国を「お客さん」として見ていた日本企業は反日本デモによって大打撃を被った。

予想があたるかどうか、きっと自動車も電機も「他社との厳しい競争」で日本市場と同様に価格下落を余儀なくされるだろう。その結果が出るのは、1年後だ。2013年決算(2014年6月頃に発表予定)がどうなっているのか私は注目する。

1.中国経済失速のリスクがある
2.さらに中国の経済構造は国民の消費ではなく投資活動に依存している
3.また事業上の課題として(1)労務コスト、労務問題 (2)価格競争 が存在する

リスクばかりではなく、「じゃあどうすればいいか」を書く必要があるだろう。それはビジネスモデルと産業転換を意味する。その点についてはおってふれていきたい。

 <つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい