ウツ状態になったときに必要なこと(坂口孝則)

・明日キミがウツになっても

ウツ病が増えているといいます。本当でしょうか。本当です。患者数のみならず、ウツ病と診断される人が急増しています。ただ、ウツ病か、単なるウツ状態かはかなり微妙な問題をはらんでいるといってよいでしょう。なぜなら、近年医師が安易にウツ病と診断し、薬に頼る医療を続けてきたからです。もちろん、ウツ病患者自体が増えていることは否定しません。ただし、あまりに安易な「ウツ病認定」が増えている。これも事実です。

ここでは、ウツ病ではなくウツ状態をいかに脱することができるかを話していきたいと思います。ウツ状態、ということであればかなりの数の人が経験を持っているはずです。かくいう私もこの問題を考えざるをえなかったのは、自分がそのような状態に何度も陥ったことと無縁ではありません。考えすぎる人、これは私は通常否定の意味では使いませんが、そのような人は、このウツ状態に陥ることが多いでしょう。

少なからぬ本では、ポジティブシンキングを勧めてきました。私はこれに非常な違和感を抱いてきたのです。本当にポジティブシンキングなんて必要なのかよ、とツッコみたくもなってきました。それらが、クルマに轢かれても「笑顔でいなさい。明るい将来を期待しなさい」というほどのものだったからです。むしろ、たまにはウツ状態になるくらいが正常ではないか。その体質を肯定したうえで人生を歩んでいったほうが、それこそ等身大の生き方ではないか。そう思ったからです。

これはポジティブシンキングの批判ではありません。ですので、論を続けましょう。

・ウツを少しずつでも改善していくために

幼稚と思われるかもしれませんが、私が実践した中で、もっともウツ状態脱出から逃れる方法は次の三つです。

1.感情をあらわにする場を意図的に創り上げる
2.とにかく現状を言語化することに努める
3.なんの意味もオチもない会話ができる知人を三人用意しておく

この三つでした。まず1は、なんでも良いけれど、「笑う」「泣く」という二種類の状態を意図的に創り出すことです。思いっきり笑う、思いっきり泣く、という体験はお金で買うことができます。例でいえば、私は3年前のウツ状態のときには、新宿ルミネの吉本に何度も足を運びました。そこで、吉本の笑いを見て思いっきり笑う。もちろん、芸人と芸人のあいだでは、不幸なことが思い出されてくるけれど、それでもいいのです。それが継続しないように笑ってしまう。一度で何かが解決するほどウツ状態とは簡単なものではありません。少しずつ克服していくものです。ちょっとずつ、ちょっとずつ、笑いながら、いつの間にか不安が和らいでいた、ということを狙っていくしかありません。今ではDVDで簡単にお笑いものを買うことができますからね。活用しましょう。また、思いっきり泣ける映画を準備しておいて、繰り返し見るというのも有効です。

2は、言語の「不自由さ」を逆に利用します。言語化とは実は不自由なプロセスです。というのも、言語では物事の表層しか抉ることはできません。言語化した瞬間に捨象化され、言語外のことをすっぽりと抜け落とさせることになります。しかし、ウツ状態のときは、これを逆に活用してやればいいのです。具体的な悩みを、まずは書いてみる。そして、それをいくつもの断層に分けてみる。すると、言語の不自由さによって、悩みが単純化されます。「ああ、この程度のことで悩んでいたのだな」と思うわけです。大切な人との不仲。これは、言語化できるほど単純ではないことがほとんどでしょう。しかし、それを単純化してみるのです。「このことが心のすれ違いの原因」だとか。そうすれば(繰り返し。それほど単純ではないでしょうが)、解決策や問題の小ささに気づくことができます。とにかく言語化して、物事を単純に、そして視覚化することが大切です。

3は、おそらく男女のウツ状態になる人数差の原因と思います。女性はウツ状態になる人が相対的に少ない。それは、「くだらない話」を「オチも目的もないまま」、つきあってくれる人の存在ゆえだ、と私は思います。悩みや、まとまっていない、漠とした不安。それらを、いつ電話しても話してくれる知人。これこそ、ビジネスマンが準備しておくべき「宝」のはずです。いや、事前に相談しておきましょう。「とても困ったとき、あなたに電話してもいいですか?」と訊いておくのです。「その代わり、人生で問題があったら、深夜でも電話につきあう」と約束しておきましょう。これこそ心の支えになってくれるものはありません。これはギブアンドテイクという関係を超えた、一つの相互援助の理想形なのです。とくに、一人で悩んでいることほど陥穽に落ちてしまうものはありません。ここは、そのための「知人」なのですから、ぜひ蟻地獄脱出のために、協力してもらいましょう。もちろん、相手が窮地に陥ったときにも助けてあげる、という態度が必要なのはいうまでもありません。

・身近な経験から

ちなみに、数日前深夜12時ほどに知人から電話がかかってきて、2時間ほど終わりない相談につきあいました。私は翌日、朝の4時には起きねばならなかったのですが、気にせずその話を聞き続けました。人生で大切なものなど、知人やパートナーのほかに、あといくつあるでしょう。そう思っているからです。そして、その相談と真摯に向き合うことは、いずれ自分の窮状時にも、返ってくるものだと私は信じています。

ウツ状態とは、もちろんならないに越したことはありません。しかし、人生の何度かの季節で襲ってくるものでもあります。それは論理的・理論的手法のみで脱することはできない種類のものです。そのためには、いくつかの人間関係や感情を意図的に動かすことで徐々に克服していくしかありません。私はそのための方法論を考えてきました。さきほどあげた三つ以外にも、順をおって機会があれば説明していきたいと思っています。ウツで苦しんでいるのは、「あなただけではありません」。

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