ほんとうの調達・購買・資材理論~番外編(坂口孝則)

25のスキルと知識は調達・購買を変えるのか

私が1月に上梓した「調達・購買の教科書」が予想以上に売れているので驚いている。amazonをはじめとして、一時期は、すべてのネット書店で売り切れになった。amazonお得意の「2~4週間以内に発送します」というのは、せいぜい1週間のことを指すにしても、一斉に在庫がなくなった状況だ。

本書はメールマガジンの内容を集約したもので、ご存知のとおり私が提唱する「5×5マトリクス」を基にしている。このコンセプトがわかりやすかったのか、これから文字通り「教科書」になれば幸いだ。

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ところで、さきほど私は「私が提唱する」と書いた。これは正確ではない。もちろん、調達・購買業務における「5×5マトリクス」は私が提唱したけれど、ベースとなるものは日本ユニシスの柴田晴康さんによるものだ。この柴田晴康さんとは、知る人ぞ知る伝説のSEで、これまで多種の案件をマトリクスにより可視化し、そして解決してきた。たとえば(自治体クラウド開発実証事業の成功要件を検討する)では、日本ユニシスの方が寄稿なさっているけれど、これはあきらかに柴田さんの影響にあるものだ。

柴田さんは「人生の問題はすべて5×5マトリクス」という。面白いコンサルティング手法だ。当然ながら、私も「調達・購買の教科書」を献本した。「これは実務の世界の定番になる」とまでおっしゃってくださった。本家に認められ、私も今後の展開が愉しみだ。

・2013年にむけて~調達・購買担当者が知っておくべきリスク

そこで、今回も「5×5マトリクス」番外編として、調達・購買担当者が知っておくべきリスクについて述べていく。このマトリクスでは、リスクマネジメントも省略しておいたので、その補足にあたる。

当記事で述べたいのは、「中小企業金融円滑化法切れのリスク」だ。「中小企業金融円滑化法」については、さまざまな解説書が出ている。ただ、調達・購買担当者であれば、当法について、こう考えておけばいい。この法律では、中小企業の借金返済を合法的に先延ばしした、と。中小企業は事業計画さえ出せば、銀行は不良債権化の処理を免れる。実際は、銀行も事業計画の良し悪しは判断していないといわれている。また、考えればわかるとおり、借金を先延ばしにしても、それが払える保証はない。その先延ばし法が、2013年の3月末で切れる。

多くの中小企業は、先延ばししても資金繰りに困窮しているといわれており、問題を保留しているにすぎない。その法適用件数はどれくらいだろうか。

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実に344万件に上る。隠れた「時限爆弾」と呼ぶひとがいる。なるほど。「お金の返済だけど、ちょっとまってくれ」と頼んでくる友人がいたらどうだろうか。ほとんどの場合、「ちょっとまって」も、返済の見込みはほとんどないと判断するのではないか。2013年はサプライヤの倒産が相次ぐと予想される

しかも、日本企業の設備投資額は減っている。国内だけの事業ではジリ貧に陥ることは必定だ。下の図は、企業のキャッシュフローと、企業の設備投資額を比べたものだ。これも簡単にこう思えばいい。90年代の初頭まで企業は、手持ち現金(キャッシュ)を設備に再投資することで拡大をねらった。しかし、それ以降は、現金を持っているが、設備投資を行わなくなった。

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影響を受けるのはサプライヤたちだ。この変化は劇的だ、と私は思う。この危機にたいして、金融庁は、中小企業が海外に進出し新たな販路を開拓することなどを勧めている。

ここで一つの問題がある。この話をすると、多くの調達・購買担当者が「?」と思うことだ。このメールマガジンをお読みの方であれば、「たしかにサプライヤは売上や利益に悩んでいるかもしれないが、それほど深刻な状況は伝わってこない」のが本音ではないだろうか。

ここに、大中企業のバイヤーに見えない「壁」がある

ここで金融庁が勧めるとおり、海外進出した企業がどれくらいの比率かを見てみよう。まずは2001年当時の状況だ。縦軸が、企業のうち海外進出している比率だ。横軸はそれを資本金で分類した。

(注:本来は折れ線グラフではなく、棒グラフがふさわしいものの、わかりやすくするために折れ線グラフとした)

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これを2010年と比較してみよう。

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読者が「Big-tier1」か「tier1」企業に属す調達・購買担当者だとしよう。すると、付き合うサプライヤはたしかに海外進出を加速しており、なんとか不景気をしのいでいる。しかし、その壁のむこうにほとんど海外進出できない、孫・ひ孫サプライヤがいる。

とくに深刻なのは、日本のものづくりを支えている資本金5千万円以下のサプライヤだ。実に、海外進出率はほぼ0%に近い。単純な作業、単純な加工工程だけを請け負っているサプライヤが海外進出しているのは、たったの400社程度にすぎない。

まとめと同時に、ここから得られる事実や行動は次のとおりだ。

・2013年3月に「中小企業金融円滑化法」が切れる
・中小企業の多くは経営難に陥ると予想される
・中小企業は国内売上高から、他の販路を見つけねばならない
・しかし多くの調達・購買担当者が見えない壁がある
・中小企業と一口にいっても、資本金5千万円以下のサプライヤはほとんど海外進出できていないのが実情
・よって、中小企業金融円滑化法切れ後は注意する必要がある

具体的には、サプライヤに対し、tier4、tier5の与信管理を依頼するべきだろう。あるいは自社での独自調査をするならば、資本金5千万円以下が一つの基準となるだろう。

ちなみに、先日この「中小企業金融円滑化法切れリスク」を某所でお話したところ、意外に大きな反響があった。まさに年末くらいから、資本金の少ないサプライヤの倒産騒ぎが起き始めているという。各社では倒産防止策を五里霧中のなか模索しているようだ。

現在のところ、まだ期間内(2013年3月以前)なので全国で数十件ほどの倒産例しかない。私はむやみやたらに倒産危機を煽りたくはない。しかし、この危機対策は、危機が訪れなかったとしてもムダにはならない。その意味でも、紹介する価値はじゅうぶんにあると思った。

今回は「2013年のリスク」代表例として「中小企業金融円滑化法切れリスク」をお伝えした。

 <つづく>

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