ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・サプライヤーの適正利益は一体いくらなんだ

バイヤーは先輩たちに、こう聞かされる。「サプライヤーとウィンウィンの関係を目指せ」「サプライヤーにも適正な利益を確保させろ」。

では、その「適正な利益」ってなんだろう。原価10円のものを、11円が正しいのだろうか。あるいは20円が正しいのだろうか。私は若手バイヤーのとき、数人の先輩に訊いてみたことがある。答えは「暴利はいけない」という。では、その「暴利」とはいくらだろうか。その答えも「感覚値だ」とのことだった。

そこで、今回は、この「サプライヤーの最適利益」にまつわる話題について、一つの解決案を与えたいと思う。少なくとも一つの基準にはなるはずだ。

考えてみるに、誰だってわかるとおり、大手ゼネコンが確保すべき「販管費及び一般管理費」の額と、中小建設業者が確保すべきその額は異なる。それに、サービス業と製造業では、その率も異なるだろう。額も異なる、率も異なる。

まずは結論から言おう。サプライヤーが最適利益を確保している状態とは、これである。

これが成立していれば、「サプライヤーが最適利益を確保している」状態だ。「当期純利益」「有形固定資産の取得」「減価償却費」の三つに登場いただく。

サプライヤーの決算書を読むときは、この三つを確認すればいい。そして、この三つから、サプライヤーの適正な利益率を計算することができるのである。

・減価償却費のおさらい、そして、有形固定資産の取得

減価償却費とは設備などを投資した際のコストである。たとえば、1億円の設備を購入したとする。すると、その年度に、1億円を計上するわけではない。何年かにわけて計上することになる。たとえば、それを10年で計上することになっていたら(税法で決まっているこの年数を法定耐用年数と呼ぶが、ここではそこまで踏み込まない)、1億円を10年に分割して計上することになる。

<クリックすると図を大きくできます>

この分割のことを「減価償却」と呼ぶ。上記の図では、一つの設備に投資したケースだが、もちろん、企業はいくつもの設備を購入するわけなので、この減価償却費が積もっていく。また、過去に購入した設備の減価償却費分も積もっていく。

この減価償却費は、「過去」に投資した設備などのコストである。これは少なければ良いというわけではない。投資をしなければ、企業の将来はない。たとえば、サプライヤーの減価償却費が1億円だったとしよう(これは決算書のなかの損益計算書からわかる)。

そこで、減価償却費1億円と、次にキャッシュフロー計算書を見てみよう。探すのは「有形固定資産の取得」のところだ。これは、その年度の投資等の金額を示している。減価償却費が「過去」にたいして、これは「将来」にたいする金額だ。たとえば、これが1億5000万円だったとしよう。

一つ覚えておきたいのが、「有形固定資産の取得」が、「減価償却費」よりも大きくなっているほうがふさわしいことだ。直感的な意味で申し訳ないけれど、「減価償却費」=「過去」よりも、「有形固定資産の取得」=「将来」への投資の額が優っていないと、未来への種まきができていないのだ。前述のサプライヤーの例でいえば、「減価償却費」=1億円よりも、「有形固定資産の取得」=1億5000万円が大きいから、投資は健全に行われているといえる。

・減価償却費のおさらい、そして、有形固定資産の取得

そして最後に、さきほどと同じく損益計算書から、「当期純利益」を見てみよう。たとえば、これは1億7000万円だったとしよう。

こうなると、冒頭で示した、「当期純利益」が「有形固定資産の取得」よりも大きく、「有形固定資産の取得」が「減価償却費」よりも大きい状態となる。これも直感的な解説だけれど、「儲かった金額の範囲内で投資して、それが過去(減価償却費)の投資よりも大きい」ことになる。そうすれば、無理のないレベルで、かつ将来につなげる投資もできたことになる。

もし、ギリギリであったとしたら、このような式となる。

「当期純利益」=「有形固定資産の取得」=「減価償却費」

やや衒学的なきらいはあるものの、このサプライヤーの適正利益率を算出する際に、一つの基準を設けるのであれば、売上高にたいする、減価償却費の比率を見れば良いことになる。

これが最適利益の正体である。

・減価償却費のおさらい、そして、有形固定資産の取得

実例を見てみよう。

<クリックすると図を大きくできます>

これは、トヨタ自動車がもっとも理想的な決算を発表した際のものだ。平成18年のものだけれど、この点はご容赦願いたい。単位が百万円で、それぞれの数値を確認したい。上から順に、

・当期純利益:1兆6440億円
・減価償却費:1兆3825億円
・有名固定資産の購入:1兆4258億円

となっている。それにしても、減価償却費が1兆なんて、おそろしい金額だ。それは置いておこう。見事に、当期純利益>有名固定資産の購入>減価償却費となっている。これは厳密な解説ではないが、この場合も、

・当期純利益(稼いだ分)>有名固定資産の購入(未来投資)>減価償却費(過去投資)

となっている。見事な関係だ。こうなると、企業は適切な利益を確保し、かつ永続的な企業活動に支障をきたさない。右側に、参考までに、まだ呻吟していたころの日産自動車を載せておいた。未来投資(有名固定資産の購入)を抑えても、当期純利益が減価償却費にも至っていないことがおわかりいただけるだろう。

みなさま、まず、サプライヤーの減価償却費を調べよう。そこに、サプライヤーの適正利益を握るカギがある。

そして次回は、これから発展した「世界一やさしいサプライヤー指導」に移ろう。難しい数式は抜きで、サプライヤー指導を「見える化」によって実現する方法について述べていこう。

<つづく>

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