5-(8)-2 契約・商習慣「私の経験」

「全くありえないよ」

見た瞬間にそう思いました。中国で光ケーブルのサプライヤーの工場を見たときのことです。日本のサプライヤーとのあまりの差に驚いてしまいました。

そこには多くの女性工員がいたのですが、髪の毛は結んでおらず、手は洗わないまま作業が開始される。クリーンルームはなく、ホコリは舞っている。どれほど基本から教えないといけないのだろう、と眩暈がしてしまいました。

「これはありえない」という話をしたところ、返ってきたコメントは「スペックは満足させています」と。最終の検査工程を見てみると、相当数がNGとして落とされています。なるほど、工程では製品を流すことだけに注力して、最後の工程で絞る。確かに理屈上は、どんなにひどい製品が途中に流れていたとしても、最後でふるい落とせば問題ありません。でも、そういう話じゃないだろう、と思うのは日本人だからです。

「外観に傷なきこと」と条件付けていましたが、傷はたくさん付いていました。「なんで傷がついているんですか?」と私が訊いても、「どこに傷が?」と。「ここです」と指摘すると、「ああ、これを傷と呼びますか?」と逆質問。

外国サプライヤーに対しては、とにかく具体的に指示できるものはすべきです。「傷なきこと」ではなく「○○箇所の傷は認めない」がふさわしい。もっと言えば、「○○箇所には、○○ミリ以上の傷は認めない」がよりふさわしいのです。理解されないことは履行されません。

アジア系は一部日本化が進んだとはいえ「顔は似ているが、考え方は違う人たち」と思ったほうがよいでしょう。これは差別ではなく、文化の差異なのです。有名なサプライヤーだからといって、知っている日本企業が取引をしているからといって、スムーズに取引が進むわけではありません。有名なサプライヤーが品質的や対応に優れているとは必ずしも言えません。

可憐な客室乗務員を誇る欧米の航空会社がつぶれても、ポロシャツにホットパンツの航空会社が生き残る。これが自由競争というものです。そこでは、高い倫理観や理想ではなく、「お客からいかにしてお金を取り、利益を生み続けることができるか」という結果が問われています。

だからこそ、バイヤーは海千山千が存在しうる荒海の中で自己を守るためにしっかりとした契約を結ばねばなりませんし、それは今後日本でも同じことでしょう。

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