短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)
この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。
【第14回】会社について調べる~決算書編1
非上場企業の決算書は直接もらうべし、といいました。なぜかというと、上場企業と非上場企業では決算書が異なります。
上場企業とは株式を公開しています。株式を公開することで、不特定多数の投資家から自社株を買ってもらう機会を得ます。したがってその会社の業績は間違いがあってはいけませんし、資産状況や将来のリスク等に関しても、厳密な情報開示が求められます。上場企業は、正しく利益を計算し潜在的株主にふりむいてもらわねばなりません。赤字続きであれば市場の信頼低下は免れません。黒字であれば人材募集にも効果を発揮します。
ただし、非上場企業は不特定多数の株主がいるわけではありませんし、極端な話をすると、経営陣と社員のほか税務署が関わるだけです。したがって上場企業が広く財政状況等を知らしめる義務を負うのにたいして、非上場企業の決算書はいわば税金の計算書類です。非上場企業の場合、税金が少なくなるように利益額を低く見せがちです。年度にもよりますが、約7割の会社は法人税を払っていません。赤字決算です。
ただこれがややこしいところで、ずっと赤字にもできません。中小企業であっても銀行融資が必要な場合、銀行に悪印象を与える可能性があるためです。あなたが大企業に勤めていれば、赤字が続いている会社とは付き合わないルールもあるかもしれません。非上場企業でもさほど無茶苦茶なことはできないわけです。
そこでかなり強引なルールですが、もし調査等で、その企業から決算書を入手すべきだったのに、できなかった場合も、直近3年分の売上高と最終損益だけは聞けないかチャレンジしましょう。最終損益とは、会社の純利益が出たのか純損失だったのかを指します。そしてさらに一つの目安は直近2年が赤字続きになっていないかを見ておくことです。
それでも入手できなかった場合は、官報検索が使えます。官報は前述の通り、内閣府が出しており、立法や行政等の重要項目を世間に知らしめる機関誌です。そこに決算公告を載せると規定している会社は少なくありません。公告とは決算要旨等を公開することです。
*決算公告検索の利点と問題点
ただ問題が二つあります。一つ目はごくかぎられた期間しかバックナンバーを見られないことです。そこでそれら情報を蓄積した官報検索サービス(有料)を利用します。会社によっては、営業部門や管理部門が契約していますから自社を調べてみましょう。また、官報検索が可能な大型図書館があります。各図書館ホームページなどでチェックしてみましょう。
そこで、会社名を検索すれば、決算書要旨を見ることができます。また面白いところでは、過去に会社を倒産させた場合は、その個人名で裁判所が公告しますので、みなさんが新規に付き合う会社の社長が”登場”するかもしれません(法的整理の場合)。
なお私は知人の一人から、「ウチの会社が大丈夫か調べてくれ」と依頼されました。どうも、中小企業である自社の経営が危ないのではないか、と危惧していたからです。自社の決算書ならば経理から入手できないか、と返したものの、難しいといいます。
その会社は資本金を大幅に減資していました。詳しい説明は省きますが、資本金を減資すれば税金面での優遇が得られるケースがあります。ただ、その会社は、元上場企業です。かつて株主が多数いた会社で、大幅な減資では関係者が無数に存在します。そういうケースでは、おなじく決算公告が義務付けられています。そこで官報検索をしてみると、公告が見つかり、くわえて最新の決算書も見つかりました。
ただ、それは運よく見つかったケースです。というのも、特別なケースであれば別であるものの、多数の中小企業は、それにあてはまりません。それが、もう一つの問題が深刻です。それは実際には中書企業のほとんどが決算公告を行っていない事実です。法律ではたしかに公告を義務付けており、かつ罰則まで規定されています。
それでもなお、実務上は当局が確認するのも非効率的であり、かつ、さほど意味も感じていないためか放置状態が続いています。多くの理由は、お金がかかるから、公告方法を知らない、公告義務自体を知らない、といったものです。
直接入手ができず、さらに、官報にも載っていない。そのような場合は、残念ながら当ルートでの検索ができません。取引を開始しようとするときに、調査対象会社からしても「少額の取引なのに、決算書なんて提出させないでくださいよ」というホンネもあるかもしれません。
しかし、ここであきらめてはいけません。この場合は、まだ与信調査会社やその他の書籍などをあたってみましょう。次節に続きます。
【第15回】会社について調べる~決算書編2
非上場企業の決算書については、帝国データバンクや東京商工リサーチから、企業レポートとして購入することができます。
□帝国データバンク(http://www.tdb.co.jp/index.html)
□東京商工リサーチ(http://www.tsr-net.co.jp/)
これら調査会社あたってみるのが一つの手法でしょう。みなさん会社で、この2社どちらと取引があるかもしれません。直接、聞いてみましょう。
ただし、レポート書くとき、詳細情報まで必要なく、決算状況だけを知りたいというケースもあります。そのような場合、インターネット経由で購入できます。帝国データバンクのホームページに検索窓があり、そこから調査したい会社名を検索すれば「TDB会社情報」を購入できます。これは、3年分の最終損益状況等をまとめたもので、2016年1月時点で、490円/件(税込)となっています。
また、決算状況の調査を繰り返すのであれば、会社の決算状況をまとめた本を購入検討しても良いでしょう。代表的なものは、次の通りです。
□東商信用録(東京商工リサーチ)
□帝国データバンク会社年鑑(帝国データバンク)
二つとも国内企業を対象としたものです。
しかし、予算の関係で、決算状況調査を、お金をかけずに行いたい場合、二つの施設が使えます。
□ジェトロビジネスライブラリー(https://www.jetro.go.jp/lib/)
□大型図書館
ジェトロのビジネスライブラリーは東京と大阪にしかありません。ただ、関東圏や関西圏に住んでいれば、一度は行ってみる価値があります。入館は無料です。ここでは、東京商工リサーチが提供する「東商信用録」の情報を検索できる端末が置いてあります。これも無料です。また、大型図書館の多くが最近はホームページを有しており、蔵書検索ができます。そこで、あなたの身近な図書館の蔵書検索を行い、「東商信用録」「帝国データバンク会社年鑑」等が置いてあるかを調べるのです。こうすればプリントアウトの代金は別として、お金をかけずに決算情報を調べられます。
ところで、ジェトロビジネスライブラリーは、国内外の企業について業種・業態ごとの名簿がたくさん置いてあります。連絡先も調べられます。そして全世界で開催されている展示会のレポートなどもあります。
また、海外の企業を調査したい場合は、現地の調査会社に頼むほかは、東京商工リサーチと提携しているD&Bのレポートが有効です。
□D&B(http://www.tsr-net.co.jp/service/product/dnb_report/)
ここは有名なダンレポートを発行している会社で、200ヶ国超の地域で情報を収集しています。また海外の会社と取引をする際に、相手先の信用度が鍵となりますが、同社は会社の格付けも行っています。
*決算状況を調べたあとに必要なこと
さて、決算状況を調べたのち重要なのは、数字がもつ相対的な意味です。たとえば3年間、売上高がまったく伸びていなかったとしても、その業界の落ち込みが激しく、横ばいを維持している凄い会社の可能性があります。
そのときにどうやって調べるのでしょうか役に立つのは財務省が出している法人企業統計(https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/)です。法人企業統計では日本企業の売上高等、指標をダウンロードできます。業種別、あるいは資本金別など、さまざまな検索条件を設定可能です。日本企業の実態を、さまざまな角度から照らせ、便利なサイトです。
これを活用し、特定会社の決算状況が優れているのか劣っているのか確認します。また、時代的推移も把握が可能です。資料作成に際し、グラフ化も容易となります。ただし、国や政府機関のサイトはややわかりにくいため、次に記しておきます。なお、法人企業統計で公開されているPDFはかなりわかりづらく、さらに自分が知りたい情報を見つけるのに苦労しますので、生データを自ら検索しデータを加工することをオススメします。
□法人企業統計「各種データ、資料」→「時系列データ検索メニュー」を選択
□「時系列データ」→「年度次」→最新年度を選択
□時系列データが出てくるので、右にある「DB」を選択(データベースのこと)
□「レイアウト設定」から自分が知りたい項目を選択し、画面下のダウンロードをクリック
これでデータをファイル化できます。もちろんこれは業界全体の利益率等がどう推移しているのかを調べることもできます。そして業界と業界を比べると、栄枯趨勢を確認できるでしょう。
<つづく>