製造業の未来(牧野直哉)

とある商社で、製造業に関わる仕事をしている担当者を対象に勉強会を行ないました。今回は2回にわたって、そこでのお話をご紹介したいと思います。

まず、次の様なテーマが事前に提示されました。

(1) 日本製造業の新興国向ものづくり~ダブルスタンダード化について

(2) グローバル化の対応はうまくいっているのか?

(3) どのように対応しようとしているのか?

最初に「日本製造業の新興国向ものづくり~ダブルスタンダード」について。これは、日本の製造業が海外に進出する場合、日本での品質と、進出先での品質には自ずと差が生じ、ダブルスタンダードとなることへの対処法です。

このようなケースでの対応に、私は2つの対処法があるとしました。

① 限界対応・積極的妥協型

② 引き上げ型

まず①限界対応・積極的妥協型では、進出先のあらゆる技術レベルを踏まえ、進出先の技術レベルに合わせていく取り組みです。個々の部品・構成品レベルでは日本と比較して落ちるけれども、製品全体での性能・品質は落とさないための取り組みです。これは、日本企業がサプライヤーに求めるあらゆる要求レベルの中で、製品の基本性能に影響を及ぼさない部分を、進出先では求めない取り組みになります。一方、②引き上げ型では、進出先の技術レベルを日本のそれと同じレベルに引き上げることを目指します。

この2つの取り組み。実は、どちらも当初はダブルスタンダードが発生する可能性があります。では、どちらがダブルスタンダードを早期に解消する可能性があるかといえば、①のケースです。①では、進出先のリソースを「使うためにはどうするか」がスタートになります。一方、②では「要求を満足したら使う」になります。前提条件として進出してしまった後の場合、②の取り組みでは、おのずと日本と違ったモノを作らなければなりません。今の日本の製造業は、高度成長期を経て、長い改善活動の歴史の中で培われたレベルです。②の場合、進出先の品質・技術レベルを上げるために、指導・改善を行なうとの流れになります。しかし数十年という時間を費やして培った水準を、指導・改善という取り組みで実現するには多くの困難が待ち受けています。果たして、日本と同じレベルまで持ち上げることが短期間に可能でしょうか。私の経験では、10年間指導を継続したサプライヤーがいます。今でも定期的に不具合を発生させています。

ただ、①の選択肢も決してなだらかな道が約束されているわけではありません。これまでの一般的な日本企業のエンジニアからすれば、部品個々の要求仕様を、製品全体に影響を与えずに下げるということは困難な作業です。過去に起こった様々な問題を解決してきた結果が現在の要求仕様であり、製品となるわけです。その一部の要求を削減せよとするわけですから、技術部門からの反発は必至です。

しかし、ここで調達・購買部門が、技術部門を「説得する」役回りを演じてはなりません。そのような状況にある企業は、残念ながらグローバル競争に勝ち残ることはできません。「説得する」プロセスが存在するということは、双方の進む道の方向に、すこし隔たりがあるためです。なぜ、新興国サプライヤーの現在の技術レベルを踏まえて要求仕様を見直す必要があるのか。いうまでもありませんが「コスト」です。今の要求レベルを実現させるために費やすコストでは、グローバルマーケットでは戦えない訳です。現在の日本が誇る技術水準であり、品質に対して、グローバルな消費者は、価格が妥当ではないと判断している部分に関して、どう対処してゆくかの社内コンセンサスが存在しないことになります。だから「説得」することが必要なるわけです。

そのような状態を、マネジメント層はどのように捉えているのでしょうか。会社の方針として、サプライヤーへの要求品質を落とすことなく、これまでの高品質の看板を掲げ続ける事業運営を続けるか。それとも、新興国のボリュームゾーンへの売上拡大を目指して、現地ニーズに目を向けるか。私は前者を全否定するものではありません。既に中国では13億人の上位10%が富裕層といわれています。その富裕層が日本人と同じ購買力を持っていれば、前者の戦略も生き延びる可能性を持っています。どちらでもいいのです。ポイントは全社的な決断とすることです。

ここで、二つ目の「(2)グローバル化の対応はうまくいっているのか?」に、話を移したいと思います。これは二極分化が進んでいます。

① 「脊髄反応・猪突型」

② 「深慮・横並び・不実行」

の二つのタイプです。この二つは、私が普段接している企業を例にお話を進めます。

まず①の企業に特徴的なのは「スピード感」です。当然意志決定をおこなうので、検討もするし考えます。しかし、最終的にリスクがあっても決断します。ある中小企業では、「海外顧客を持つ」ことを目標に、和文だけだったホームページに英文と、中文を加えました。以降も、海外顧客との商談展開は平坦な道ではなかったと思います。現在は、売上の3割を海外の顧客が占めるに至っています。

中小企業はあらゆる面で「リソースが不足する」と言われます。しかし、言葉の壁や、海外顧客への納品など、上手に外力を活用しています。既に日本のGDPの80%以上は第三次産業=サービス業ですから、あらゆるサービスは存在します。

次回は②の企業の実例を述べます。

<つづく>

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