ケースに潜む10の課題 3(牧野直哉)

今回で3回目、最終回となります。

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7.現地調達の推進

【ケース記載内容】

2013年以降の事業展開について、トップから次のようなテーマが提示されました。題して「生産リソースの再配置」です。調達・購買部門に示されたテーマは「日本→インドへのノックダウン」から「インド現地調達化」の推進となりました。

【問題点】

海外に生産拠点を立ち上げて後、海外拠点に必要なリソースの確保は、コスト的な課題がなくとも進めるべきです。理由はもちろんコスト的な課題もありますが、要求事項を満たしたサプライヤーが確立できれば、様々なリスクに対するデュアルソースの確立も達成します。すなわち、国内サプライヤーの代替ソースの確保にも繋がるわけです。

【解決方法】

問題点5の解決策によって進出先のサプライヤーの立ち上げをおこない、日本と進出先のリソースの状況を同レベルにした上で、それぞれのサプライヤーに対し、どのように継続しリレーションを構築するのかを検討します。例えば、今回のような円高局面では、海外サプライヤーからの供給を増やす、逆に円安局面では、国内サプライヤーを増やす。日本と海外拠点の両にらみでの最適調達を目指し、為替リスクにも貢献可能なバランス管理を実践します。

このためには、日本と現地の双方のサプライヤーを同じ土俵に配して、自社の利益の最大化と、双方のサプライヤーとの関係継続はどうするか、との視点が必要です。このケースの前提条件としては、日本側が意志決定します。最終的に日本企業としてどのように生き残るかを考えるのは当然です。しかし、同時に日本側の意志決定に対して現地の従業員にも理解を求めないことには、いつまでも一方的な主従関係が継続してしまいます。日本企業だから、という理由以外に日本側でも切磋琢磨をおこなう姿勢を見せ、フェアーさをアピールし諸策を講じないことには、現地従業員はモチベーションを得ることは難しく、ひいては現地の独り立ちが遅れます。とても難解なオペレーションと感じられるかもしれませんが、シンプルに言えば現地への配慮です。もっとも避けるべき発言の典型は「言われたことだけやっておれば良い」になります。イノベーションへの取り組みについては、総じて新興国の従業員の方が高い意識を持っていますので、その辺は積極的に自分たちのために利用するのです。

【必要なバイヤースキル】

海外進出先従業員とのコミュニケーションスキルまた、日本と現地の定期的なコミュニケーションの場の設定能力。

8.海外進出時 国内サプライヤーの活用方法

【ケース記載内容】

や□に分類されたサプライヤーは、日本・インド双方のサプライヤーの技術力から判断して、当面現地調達化する可能性は低いとしました。しかし、インド工場側では最もアグレッシブに採用へ向けたサプライヤー側の品質や生産管理の改善活動をおこなっている分野(特に)でもあるわけで、買い続けることを保証する訳ではありません。

【問題点】

日本と、LCCと呼ばれる国とでは、あらゆる面での「格差」が存在します。(例 http://bit.ly/U68nEj)一般論では、日本が優れているとされていますが、進出先のリソースと比較し、「格差」がどのように存在するかを見出し、どのように埋めてゆくかを踏まえ、格差の解消を進める必要があります。

【解決方法】

日本と進出先のサプライヤーを同じ基準で評価し、優位性の際立った日本のサプライヤーとは、関係を継続し、自社の海外展開への活用方法を決定する。要すれば、現地への進出や、供給拠点の設立を打診する等、これまでと異なった分野での関係拡大を志向する。優位性の少ないサプライヤーの取り扱いは、長期的な視野で計画性を持って実行する。最終的には取引からの撤退を見据えることも必要です。

【必要なバイヤースキル】

サプライヤーリレーション構築、継続、撤退の遂行能力

9.グローバル化によるキャリアプランの変化

【ケース記載内容】

そしてもう一つ、検討しなければならない課題がありました。日本の調達・購買部門が抱える人員の問題です。購買額は、まだ日本が圧倒的に多い状態です。売上的には日本はインドの5倍です。しかし、部門として抱える人員は、日本の30名に対して、インドは48名で、インドの方が多くなります。一方、時間当たりレートの日本とインドの差は歴然として大きく、総人件費に換算すれば、人員数に反してインドは日本の約35%となります。いずれインドの人件費は、日本のそれと同じレベルになる日がくるでしょう。しかし、それは現行対比でインドが上昇するのか、それとも日本の人件費を下げるのか。一筋縄では解決できない、とても大きな課題となったわけです。

【問題点】

日本企業の海外進出には、日本の拠点を今後どのように継続・発展させるのかとの点を同時並行で考える必要があります。一般的に海外進出によって日本側の雇用も増加すると言われています。しかし、ただ漫然と増えるわけもなく、あらたな仕組みが必要です。調達・購買部門のリソースは、サプライヤーですが、現在の為替レートの中で、調達購買部門の抱える人員をどのように扱うのかも大きな課題です。グローバル化の前に「ボーダレス化」という言葉が使われていましたが、海外進出先の人件費と、日本の人件費の違いが、合理的かつ、妥当性があることを確認する必要があります。

【解決方法】

(1)日本側の徹底的な効率化

たとえば、注文書一枚をどれくらいの時間を費やして発行するか。についてデータが存在するかどうか。その上で、どのように投下時間を減らしてゆくかという取り組み。バイヤーの「作業」という切り口と、社内システムまた業務プロセス改善との切り口もあります。

(2)業務内容の高度化、高付加価値業務へのシフト

Purchasingに時間をかけずに、Sourcingにどれほど時間を費やせるか。さらに、海外進出先バイヤーへの指導教育プログラムの構築と実践や、パートナー企業の買収、いわゆる「会社を買う」といった業務への対応。

【必要なバイヤースキル】

(1)「変化」への対応能力

(2)行動力

(3)能動的思考

10.なぜ、購入コストレベルが一定なのか

【ケース記載内容】

このようなテーマが取り上げられる背景には、日本の資材費の割合が上昇している事実がありました。(2007 71ポイント → 2012 73ポイント)。一方、インドは68ポイントから57ポイントへ11ポイントもの削減に成功しているわけです。もちろん、日本との比較論なので、購入費の削減はおこないやすい部分があることは事実です。そして、日本へ入ってくる一部の顧客向けのインド製のエンジンの評価は、日本製と比べても遜色がないことが確認されています。一部、外観品質の仕上がりが話題に上りますが、建設機械や産業機械のエンジンルームに搭載されてしまった場合、最終製品の外観品質には影響が及ばないと、大震災後の供給不安によって顧客側に「割り切り」が生まれていたのです。

【問題点】

コストレベルの安定は企業運営には不可欠です。しかし、ここ数年の経済環境激変の中で、コストレベルに大きな変化がない場合、その原因を追及する必要があります

(1)海外から購入する原材料

(2)購入に使用される外貨

と、購入品個々のコスト構成を踏まえた上で、変化に対して現在のコストに妥当性があるかどうかを確認します。

【解決方法】

(1)購入コストの分析を、外貨建で発生するコストの含有額はどれほどかの視点でおこなう

(2)いわゆる「市況」から一歩突っ込んだ、サプライヤーがどのように購入しているか、その購入方法によって市況に対して有利に買っているケースを見いだす。

【必要なバイヤースキル】

(1)分析スキル

(2)仮説構築スキル

(3)交渉スキル

●最後に

今回のケースは、2008年に同じ購買ネットワーク会の場でおこなったケーススタディの続編として作成しました。前回作成当時は、まだリーマンショックの前で、各社の調達購買部門は、サプライヤーの能力確保にまさに文字通り奔走していました。今と比較すると、あまりの変化に驚かされます。

今回は、超円高や縮小を続ける国内市場を踏まえて、海外進出をせざるをえなくなった企業を想定しました。ケースを考えつつ、自分でも驚ろいたのは、コスト削減や、サプライヤーとの調整に必要な交渉スキルといった、現在進行形でバイヤーの皆さんからもご要望のあるテーマが、実はグローバル化を進める企業にとって、陳腐化最前線ともいうべきスキルになっているのではないかとの大きな問題意識でした。もちろん、コスト削減や交渉スキルが不要になったのではありません。その先に、さらに従来の調達購買部門では想定しなかったスキルが求められているという前提です。いずれも、間接部門のビジネスパ-ソンには、すこし敷居の高い内容が多くなります。調達購買システムの構築など、専門的な知識が必要ですし、指導トレーニングにも、これまた異なるスキルが求められます。いうなれば「買わないバイヤー」でしょう。今後の「ほんとうの調達・購買・資材理論」では、今回の問題意識を中心に、解説を進めたいと考えています。

<終わり>

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