調達・購買担当者の意識改革~パート8「見積書フォーマット」(坂口孝則)
・見積書フォーマット作成
解説:調達・購買担当者の基本業務は、サプライヤから見積書を入手することです。RFQ(=Request for quotation)とも呼びます。見積書入手の際に重要となるポイントは二つです。一つ目は、サプライヤに均一の情報を与え、正確な比較をすることです。サプライヤA社は情報が多く正確な見積りで、サプライヤB社は情報不足で不正確な見積りであれば正しい比較になりません。そしてもう一つは、見積詳細を入手することです。そのためには、サプライヤ任せではなく、バイヤー企業(調達・購買担当者)側から、見積書フォーマットを作成しておく必要があります。所定様式をあらかじめ作成し、サプライヤに記載いただきます。これにより、そのあとの詳細比較が容易になります。
意識改革のために:まず私が考える見積書フォーマットをご覧いただきます。このA3様式がそれです。
これをこのまま使っていただきたいわけではありません。ただ、私が考える理想としてご説明します。見積書フォーマットをあらかじめ作成し、それをサプライヤに提示するべきとご説明しました。その見積書フォーマットは、どのような役割をすべきでしょうか。やや抽象的に申せば、「過去」「現在」「将来」を指し示すべきと私は思います。
「過去」「現在」「将来」とは、過去よりも現在のコスト競争力が増しており、そして現在よりも将来のコスト競争力がさらに増している……とわかるべきなのです。攻めの見積書フォーマットでなければなりません。この見積書フォーマットをダウンロードし、ご覧になりながら以下の説明をお読みください。
・見積書フォーマットで大切な三つのこと
見積書フォーマットで盛り込むべきは次の三点だと考えます。繰り返し、この見積書フォーマットをそのまま使うのではなく、みなさんの品目に応じてアレンジしてください。その三点とは、
(1)自らが査定のために集めるべき詳細項目にわかれていること
(2)その見積が三本立て「過去類似製品」「今回仕様見積り」「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」になっていること
(3)算出基準年月日が明確なこと
この三つです。順に説明していきます。
まず。(1)自らが査定のために集めるべき詳細項目にわかれていること、です。これは見積書を上から下にご覧ください。この見積書フォーマットでは、①材料費、②加工費、③その他、④金型費、その他投資(開発費含む)、⑤物流費等、にわけています。これは、この①~⑤でわけることによって、見積査定ができ、そしてサプライヤ間の比較もできるようになっています。
これをどう詳細分解するかは、調達・購買担当者の意思にかかっています。詳細を分類して、サプライヤに記載してもらっても、それを使わなければ意味がありません。最終コストだけしか見なければ無意味です。そうではなく、意識的にどの項目を集め、将来的にコストテーブルに利用する等々の戦略をもとに分類してください。
よく「見積詳細をどう分類して良いかわからない」と質問するひとがいます。たとえば、プレス部品や樹脂成形品であれば、上記の見積書フォーマットがそのまま使えるでしょう。その他の製品で見積書フォーマットを作りたいのに、どう分けていいかわからないとき。もっともいいのは、サプライヤに訊いてみることです。そうすれば、おぼろげながら見積り詳細の分類がわかります。何社かのサプライヤに訊いてみましょう。
そして(2)その見積が三本立て「過去類似製品」「今回仕様見積り」「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」になっていること、です。これは見積書を左から右に見てください。そうすると、この「過去類似製品」「今回仕様見積り」「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」となっているのがわかるはずです。
これ、パッと見ると、「なんだこれは」と思うかもしれません。でも、これは一つの大きなノウハウなのですよ。サプライヤに単純な見積書を作成してもらうのではなく、必ず「過去類似製品」との比較をしてもらうのです。そうすると、かなり面白い。というのも、毎年、コスト競争力を進化させていると(建前だけでも)宣言しているサプライヤはかなり多いはずです。なのに、過去類似製品とくらべて検証するケースは少ない。だから、必ずコスト競争力が過去類似製品と比して向上しているかを確認するのです。
同じ作業をしているのに、何年もまったく改善していなかったり、あるいは同じ機械で生産しているのにまったく秒数や歩留まりが上昇していなかったり……。そんなことがわかるだけでも交渉のネタに使えます。こうすると、
左側=過去
と
中央=現在
の比較が容易になります。
くわえて、右側には「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」があります。これは、中央の「今回仕様見積り」と比較するものです。なぜ、右側に「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」があるかというと、二つの意味があります。一つ目は当然ながら、VA/VE提案力を見るものです。そして、もう一つの理由は、サプライヤが勝手に見積書にVA/VEを入れた価格にしないためです。安い見積書を見せたいがあまり、なんの断りもなくVA/VEを入れた見積りだけを提出してくるサプライヤがいます。
もちろん、安価な製品を供給する心意気は評価せねばなりません。ただ、VA/VEを入れた価格と現在仕様そのままの価格はわけておくべきです。VA/VEが採用可能かどうかは、あくまでもこちらが決めるべきものですから。こうすると、
中央=現在
と
右側=将来
の比較が容易です。つまり、この見積書フォーマットで集めれば、中央同士の比較ならびに、右側同士の比較もできるわけです。こうなると、単なる見積比較ではなく、攻めの見積比較になるとご理解いただけるはずです。
見積りは集めて終わりではありません。それをサプライヤや価格決定に生かしたり、あるいは見積詳細をデータベース化し備蓄し、今後も使い続けます。目の前の競合案件だけではありません。いかに今後につなげていくかを調達・購買担当者は考えるべきです。
・見積書の算出基準年月日
最後の三点目は「算出基準年月日」の明確化です。見積書フォーマットでは、上のほうに載っています。これは見積書提出日と勘違いされます。ただ、見積書提出日とは別のものです。あくまで、算出基準年月日とは、文字通り見積書の原価を算出した基準日を記載いただくものです。
ところで、<見積書の原価を算出した基準日>とは? これには大きく分けて二つの意味があります。一つ目は、原材料市況です。たとえば、ポリプロピレンでも、鋼板でも、なんでもかまいません。材料を使って製品を生産している場合(=すなわちほとんどの場合)、その材料価格はいつのものを使用して見積書を作成したか、が基準日です。
もしかすると、数年後にこの製品の値上げ申請があるかもしれません。そのようなときに、かつての見積書を探し、この「算出基準年月日」を見てみましょう。短期間で大きく価格変動する材料であれば、ほんとうにその「算出基準年月日」から価格上昇しているかチェックします。
そしてもう一つの意味は、サプライヤの内部生産コストの基準日です。業種業態によっては、労務コストが問題になるケースもあります。または設備の減価償却費(償却済かどうか)が問題になるケースもあります。前者であれば、労務コストの上昇・下落が見積書に反映すべきであれば、材料市況と同じく、いつの労務コストを利用したかが重要です。後者であれば、いつの償却費を利用したかが同じく重要です。
このように、たかが見積フォーマットと思わず、
(1)自らが査定のために集めるべき詳細項目にわかれていること
(2)その見積が三本立て「過去類似製品」「今回仕様見積り」「今回仕様に対するVA/VE提案見積り」になっていること
(3)算出基準年月日が明確なこと
を工夫して盛り込んでおくことが有益です。