夏休み読書案内(坂口孝則)

今週は増刊号、かつお盆休みもあることでしょうから、読書案内としたいと思います。おそらく、このメルマガを購読のみなさまは、ほぼ例外なく勉強家であるはずで、ある程度は読み応えのあるものをご紹介しようと思います。

私があげた本の条件はこのようなものです。

1.みなさまの帰省先でも買い求めやすく
2.当然ながら、仕事に役立つもので
3.かつ読み物として愉しいもの

では、これから同じく三つの本を勧めていきます。

● 社会とニュースの裏側を知るために

小説 会計監査」細野康弘さん著
幻冬舎文庫 ¥600

まず一冊目にご紹介したいのは、「小説 会計監査です。もちろん、まとまった時間がなければ小説は読めないのか、という疑問はあるでしょう。ただ、実際ビジネスマンが小説を読む機会は少ないはずです。この小説 会計監査は、大手監査法人の理事まで勤めた著者が執筆したもので、スリリングな監査現場を教えてくれます。

もしかすると、「自分には会計監査など関係がない」と思ってしまう方もいらっしゃるでしょう。しかし、これがエンターテイメントとして純粋に面白いのですよ。知的好奇心も与えてくれます。ニュースを見る目も変わってくるはずです。

公認会計士の主人公はさまざまな困難と立ち向かいます。クライアントからの要求、そして国からの指導との板挟み。主人公は、さまざまな会計「不正」に巻き込まれますが、そのほとんどが、もともと不正会計をねらったものではなく、解釈次第で無罪に近いグレーであることがわかります。

これは、元会計士の著者ゆえに、会計士よりの意見になっていると批判するのはたやすいかもしれません。しかし、ほとんどの人は元・ライブドアの堀江社長がなぜ逮捕されたのかを正確に説明できないのですよ。

一般的な報道では会計不正を摘発された企業は「悪」としか認識されないのが普通です。しかし、犯罪と正常の境界は微妙である、という意見を知っておいても良い。そう思うのです。

また、本書では小泉 元総理大臣としか思えぬ登場人物が出てきます。さらに、その右腕と言われていた、竹中 元大臣らしき人物まで登場するのですね。あくまで著者の「」(カッコ)つきではありますが、小泉改革の「真相」が述べられています。その内容は本書に譲るとして、その他、カネボウ事件の「真相」も述べられており、かなり驚かせるものです。

ちなみに、日本振興銀行の木村剛さんが逮捕されたのは、この竹中さん一派の力が弱まってきたからだと囁かれています。私は政治の類を述べる論者ではありません。また、政治とは距離を置く信条なので、これ以上の断言は止めておきます。ただ、この小説を読みつつさまざま推論してみるのも面白いはずです。

なお、この小説は文庫版が幻冬舎から出ていますが、文庫版の解説は、なんと私(笑)。みなさまが購入しても私には1円も入りませんので、誤解なさいませんように。

● 経済学や財務・会計に必要な知識を得るために

中小企業診断士スピードテキスト」等の中小企業診断士受験用テキスト

これは、別にTACのものを勧めたいわけではありません。中小企業診断士受験向けのテキストであればなんでも良いかと思います。経済学や財務・会計の基礎を知っている人と、知らない人では、仕事の厚みが異なる。というのは、おそらくほとんどの人が知っている事実です。それは調達・購買業務においても例外ではありません。たまに、「調達・購買業務に財務知識は不要だ」という人もいらっしゃいますが、ビジネスマンだって、一人の商売人ですからね。全体を俯瞰できるにこしたことはありません。

もちろん、それぞれの教科書を一から勉強していくという方法もあります。しかし、さまざまな分野の本をすべて買っても三日坊主になる可能性は高い。とすれば、中小企業診断士受験テキストのように、コンパクトにまとまっており、かつ実務に役立つ内容を抽出してくれているものを使わないテはありません。

実際、私は中小企業診断士試験を受けたことすらないのですが、中小企業診断士試験のテキストを全分野ぶん買って勉強しました。これがかなり参考になり、今の私につながっています。お時間が限られているでしょうから、みなさまには全分野を購入することまでは勧めません。ただ、経済学・財務・会計くらいは学んでおいたほうが良いと思うのです。しかも、試験自体を目的として読むのではなく、実際の仕事を念頭におきながら読むとけっこう面白いですよ。新たな気づきもきっとあるはずです。

ちなみに、思想研究で有名な著者がいらっしゃるのですが、「よくそれだけたくさんの思想家の論をご存知ですね」と私が尋ねたことがあります。「各思想家の主張を正確に理解するのは大変だったでしょう」と。すると、その方は「いえ、高校の倫理の参考書を読んだだけですよ」とおっしゃいました。私は高校の倫理参考書だけでよいのか、と驚愕した覚えがあります。ただ、思うに日本の高校ではかなり高度なことまで教えています。「実存主義」なんて言葉、なんとなくはわかるけれど、とっさに説明できませんよね。それが倫理の参考書ではコンパクトにまとめてくれているのですよ。「倫理用語集」なんてほんとうに良くまとまっています。

またご参考までですが、日本で(おそらく)5本の指に入るコラムニストの方も「もしセンター試験レベルの知識があれば、ほとんどのライターよりも深い記事が書けるはず」とおっしゃっていました。意外に基礎を失念しているものですからね。

● 調達・購買から会社の利益というものを知るために

利益は率より額をとれ!!」坂口孝則著
ダイヤモンド社 ¥1,575

「最後は自分の本かよっ」と突っ込まないでください。この本は、ふたたび売れているのでご紹介しておきます。この本は、ビジネスの現場から、ビジネスの陥穽にはまらない手法を述べたものです。ビジネスに理論が必要であることは間違いありません。ただ、理論だけで机上計算を繰り返していたのでは、成功することもできません。この本は、ありがちなミスと、利益向上のための逆転発想を述べたものです。

なぜか利益率も利益額も低い商品のほうが、利益率も利益額も高い商品より「儲かる」理由。生産性の低い社員に仕事を任せたほうが良い理由。などなど、みなさまの常識を覆す内容を、できるだけ平易な文章で書いています。

とくにこの本は私自身の集大成のつもりで書きました。ユニクロやマクドナルド、それらの特定企業が儲かる理由など、できるだけ身近なところから論を紡いだつもりです。

自分の本の宣伝みたいなので、長くは書きませんがお愉しみいただけたら。

ということで、三つ(正確には三種類)の本を紹介してきました。お盆といっても、気づけばすぐに終わっていますよね。みなさんのお盆休みが充実した、かつ学習の機会を得ることができる期間となりますように。

それでは引き続きよろしくお願いします。 

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