ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

値上げ対応 9 ~番外編

これまで8回にわたってサプライヤーからの値上げ対応について述べてきました。最近の経済情勢から「値上げ要求」が行なわれる原因を、円安や原材料費にあると前提していました。今回は、円安(為替)や、原材料費以外の要因によって値上げが誘引されないのかどうかを検証します。

●人件費

サプライヤーからの見積書を分析する場合、原材料費と同じくらいどのように見積もられているかが気になる人件費。特に日本のサプライヤーからの見積では、多くの日本人にはあまり関係のない外国為替レートによって、外貨ベースで評価をすると「高いな」と実感します。そういった要素を外した場合の国内サプライヤーの人件費はいったいどうなっているのでしょう。

以下のグラフは、平均給与の平成13年からの統計です。見事に右肩下がりです。平成24年度の数値は、横ばいかすこし上昇が想定されます。しかし、このデータから判断するに、人件費を根拠とした値上げ要求が行なわれる根拠にはなり得ないと考えて良さそうです。

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今後の見通しは、景気回復による需要の拡大によって、各企業の操業度が上昇した場合です。残業や休日出勤の増加はコストアップです。めざとい営業パーソンであれば、ここぞとばかりに値上げを申し出てくるかもしれません。しかし、あらかじめ受注見通しを提示すれば、抑制は可能です。緊急発注による短納期対応を抑止が一番の予防策となります。これには、調達購買部門であっても、自社の受注動向に注視して、今後の発注の増減についても感度を上げて対処します。

●電気料金

燃料となる原油や天然ガスの価格が上昇している中での円安基調。加えて、原発問題が引き続き大きくクローズアップされ、再稼働がすすまない中で電気料金は発生費用の中では赤丸急上昇となる費用項目です。ただ、サプライヤーから提示される見積書の価格に含まれる電力消費量なんてそもそもデータがあるのか、なんて途方に暮れつつ調べているとこんなレポートを見つけました。

電力料金上昇の影響分析と対策 http://goo.gl/N8EUui

近年の電力料金にかんする分析が行なわれています。2010年度の電力料金に対して、31.3%値上げされた場合の生産コストの上昇率が示されています。31.3%とは、2012年度の燃料費上昇によるインパクトを、すべて料金値上げでカバーする場合の値上げ想定割合の最大値です。現実の各電力会社の値上げ割合は、現時点で31.3%よりも低く抑えられていますので、このレポートに表示された割合よりも現時点での影響額は半分程度が最大値と考えられます。

生産コストへの影響額の算出には、平成17年(2005年)産業連関表( http://goo.gl/P6gjhy )の108部門表が用いられました。産業連関表に馴染みのない方がおられるかもしれませんが、マスコミで報じられる経済波及効果(プロ野球優勝時に報じられますよね)の計算に活用されています。計算用のエクセルシートがこちらからダウンロードできます( http://goo.gl/ATzKEv )

このレポートから、もし電力料金が原因で値上げ申し入れを受けた場合の、一定の目安を得られます。私も業務の中で確認してみました。私の場合は、電力料金原因で値上げ要求を受けたとしても、1%前後であると判明しました。幸いに現時点ではまだ要求を受けていません。

●水道料金

電気料金を調べたので、水道料金も確認してみました。従来から日本は水資源が豊富と言われてきましたが、果たしてどうなのでしょう。

国土交通省のホームページに、水資源に関する記述を見つけました。日本の水資源賦存量(ふぞん量、資源全体)中、農業、工業、生活の各用水で使用している割合は、約20%です。残りは蒸発したり、海へと流れたりしています。資源量的には、あまり心配する必要はありません。

あえて水資源に関するリスクを挙げれば、人口減少です。日本の上水道は、各地方行政によって運営されています。これが人口減少に伴う税収の減少によって、上水道供給の仕組み維持が危機に直面する可能性です。しかし、市民生活に欠かせない水ですから、状況に応じた対処が為されるでしょう。今回のテーマである値上げは、あまり想定しなくてもよさそうです。

最後に、読者の方からのご質問で「為替変動のみを根拠にした値上げ要求」について言及します。これは、日本でもっとも一般的な米ドルを例に検討します。

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昨年11月以降の為替変動は、1ドル=$80を基点とすると、約20%の円安になります。海外からの購入する場合は、外貨建てで発生するコストに影響がでる円安での推移です。

しかし、過去20年の推移を見た場合、果たして現在の状況が「円安」と言い切れるのかどうかを考えてみます。明らかに1ドル=¥80近辺での推移を見せているのは、2011年3月以降です。もし、2011年3月以降2012年10月までの間に、為替変動による価格の見直しを行なっている場合は、今回の円安でも価格見直しをしなければなりません。したがって、為替変動のみを根拠にした値上げ要求を受けた場合は、値上げの基点になっている現在の価格をいつ決定したのかによって、対応方針を決定しなければなりません。

日本では、円高時に輸出企業の売上への影響がクローズアップされますね。売り手の立場からすればピンチです。しかし、調達購買部門側からすれば、円高とは大きなチャンスです。2年前の超円高は、どのような状況で発生したかを思い返してみてください。震災の発生によって、日本円の需要が増えるとの憶測から円高へと振れました。震災発生の翌週には、各国金融当局による為替相場への協調介入も行なわれました。そして、我々バイヤーは、サプライチェーンを維持するためにモノの確保に奔走していたはずです。そんな中で、為替相場に連動した価格決定を適切に行なっていたかどうか。「円高は好機」を生かしづらい環境だったのです。「為替変動のみを根拠にした値上げ要求」に対しては、

1. 前回の価格決定時の為替レートはいくらだったか?
2. 為替変動への対応は、サプライヤーとどのように取り決められていたか?
3. 2011年3月以降の超円高の際にはどう対応したか

この3点を確認した上で、対処を検討するのです。

<おわり>

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