CSR調達の実践 5(牧野直哉)
これまで、CSR調達が失われた事例を、5つの側面からご紹介しました。今回は、CSR調達実践に際して必要となる「サプライヤ監査」の最新動向をお伝えします。
●CSR調達監査の全体プロセス
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CSR調達にともなうサプライヤ監査は、上記の1~6のプロセスでおこないます。
「1.サプライチェーンの掌握」は、これまで皆さんのご勤務先でおこなってきたサプライヤ評価の中で実践されている内容と変わりません。掌握すべき内容は、
・サプライヤの基本的情報(所在地、生産場所、事業内容)
・サプライチェーンの掌握(社内工程、社外工程)
です。CSR調達実践に際して注意すべきは、次のプロセスからです。
2.監査実施前調査、監査手法の整備
・バイヤ企業のCSR調達ガイドラインの作成
これは、すでに作成されている全社レベルのCSR活動に関する「指針」をベースに作成します。一般的には、どの業界にも適用できる内容と、業界に応じて適否を判断する内容があります。どんな業界であっても適用すべきポイントは、サプライヤでの労働に関する「Decent Work(ディーセントワーク)」との考え方です。
これは1999年の第87回ILO総会に提出されたファン・ソマビア事務局長の報告で初めて用いられた概念です。「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。具体的には、「仕事がある」「働ける」が基本ですが、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事を指します。
こういった考え方を、サプライヤの監査に際して、CSR調達基準として反映させます。しかし「Decent Work(ディーセントワーク)」は適用範囲が広く、この考え方から事業内容に合致した切り口をみつけるのは、すこし難しいかもしれません。そこで、次の資料をご参照ください。
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上記の資料は、すでにCSRに取り組んでいる企業が設定した課題を示しています。大きく3つに分類しています。
「発生事例」とは、日本企業、あるいは同業他社が過去に直面した問題を参考にします。現在の日本で、CSR調達に対する姿勢が厳しく問われている業界は、ファーストリテイリングに代表されるアパレル業界です。アパレル業界だけでなく、一般消費者に直接販売する業界の場合は、自社あるいはサプライヤの労働者と、自社の顧客同じ存在と位置付けて、法令を順守するだけではない、労働者の不利益を少しでも改善する取り組みが必要です。
2つめは「自社事業内容にともなって発生するマイナス要素」です。上記には、4つの業界における、事業推進上発生する可能性の高い市民への不利益を挙げています。4つの例では、アルコール飲料メーカの「適性飲酒」への取り組みが特徴的です。1985年「一気!」とグラスのアルコールを飲み乾す掛け声が、流行語大賞で金賞を授賞しました。最近では、飲酒するかしないか、どの程度飲むのかは、自己責任となりました。すくなくとも、飲酒を強要される状況は、かなり減ったと感じます。しかし、アルコール飲料メーカは、消費者の自己責任であるはずの飲酒方法を指導しています。「酒は百薬の長」といった考え方がある一方で、酒による健康への影響や、酒酔いによる二次的な悪影響を避ける取り組みです。CSR調達を実践する場合の活動指針は、消費者に対して「すこし御節介かもしれない」といったレベルまで踏みこんで検討しなければならない好例です。
3つめの「社会的な関心」は、事業展開している国や地域におけるトレンドです。今、多くの日本企業が海外展開をおこなっている中国やアジアでのCSRにおける注目ポイントは「人権」です。この記事の第2回でお伝えした、テレビ番組での事件をみても、日本では児童労働、強制労働の認識が甘いのが実情です。いまさら人権?ではなく、サプライヤへの監査内容には、法令順守はもちろん、雇用条件や労働環境に関する確認事項を盛りこみます。
・CSR調達 サプライヤアンケートの実施(自己評価)
バイヤ企業でCSR調達指針が完成したら、サプライヤに自己評価を依頼します。最初は、サプライヤの実態掌握の観点から「アンケート」として実態の確認を進めます。CSR調達への取り組みが進んでいない業界では、こういった類のアンケートに戸惑い、サプライヤの実情を反映できない可能性も高くなります。そういった事態を回避するために、アンケート実施の意議や目的、そしてバイヤ企業のCSR調達取り組みへの姿勢や覚悟をサプライヤに説明します。同時に調達購買部門内だけでなく、社内にも周知して理解をうながします。
(つづく)