【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
価格交渉
市中価格比較
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

知人たちとの再会

かつて、旧友たちと久闊を叙するために、10年ぶりのささやかな会合を開いたことがあります。大学時代の知人たちで、経済学部だったためか、金融機関に勤めるケースが大半でした。銀行、証券、保険……。

私のような現場でボルトを手に取りながら汚れているひとはほとんどいません。さらに、年齢が年齢なので、管理職になって、自宅と職場を往復し、さらにパソコン仕事が中心です。酒を重ねるにつれ、彼らの口から出てきたのは、儲かった株の話とか、社内政治の話とか、あるいは、健康の話だけです。

かつて、文学や社会問題を熱く語り合った高校生時代から、私だけがどうやら遠いところにたどり着いたようでした。いまだに私は顧客とともに工場に出向いて現場確認をしたり、図面を広げながらあれこれと議論したり、または、組織の未来をどうするかといった青臭い議論を重ねているのですから。

旧友たちの会話はほとんど理解できませんでした。それは、意味がわからない、というよりも、その重要性がわからなかったためです。もっとも私は社内政治や忖度に疲れ果てて、組織を飛び出した人間ですから、もともと重要性を理解する能力が欠けているのは間違いありません。

しかし、彼らが、何かにとりつかれていることだけは理解できました。

私は、皮肉ではなく、金融は立派な仕事だと考えています。もし差別的な感情をもつならば、それは現代にそぐいません。
しかし、私は彼らの発言の端々に出てくるギャンブル的な仕事の話題に、埋めようのない懸隔の欠片を見ました。「現場でドロドロした環境に身を置くのって、楽しいけどねえ」という私の感想は、あっさりと流されていきました。たぶん、そんな仕事よりも、こっちのほうが儲かるぞ、という彼らの自負があったにちがいありません。

ありがとう、楽しかった。

そういった私は一次会でお金を置いて、一人、違う店へ逃げ出しました。

そこで一人で飲んでいると、なんだか目眩がしてきました。この文章の読者は、比較的、私と近い業界に身を置いていると思います。別に、自分の仕事を下卑たり、後悔したりはしていませんが、つくづく、あったはずの人生について思いを巡らせました。

私は、きっと、旧友たちを思い出しながら、おそらく、もう彼らと会うことはないのではないかと、ずっと思いつめていました。

淋しかった、と思います。

* *

あるとき、師匠に相談したことがあります。この師匠は、私と同じ会社ではなく、まったくの別業界にいますが、私が常に心を寄せているひとです。師匠は、「そんなの考えたって仕方がない」といいます。「人には、得手不得手がある」と。「しかし、その得手不得手がわかるためには、すべての業界を経験する必要があるのではないでしょうか」と私。

そうすると、「でも、たまたま、いまの仕事を選んだんだから、それが得意ってことだよ」と師匠。私が納得できないでいると、「奇跡はない。いや、ほんとうは、あるんだけどね。だけど、奇跡なんて、なくなればもっと良い世界になるよなあ。奇跡なんてものがあるから、みんな、ありもしない夢ばかり見ちゃう」と師匠はいいました。

私は「けっきょく、目の間のことをやれ、ってことですか」というと、「正確には、目の前のことしかない、と思って、ちゃんとやれ」と訂正されました。

では、と思って、目の前を振り返ります。

取引先との無意味な言い争い。納期調整のいう名の懇願。いった、いわないの、不毛なやりとり。誰かからの怒りのメール。と思えば、誰かからは仕事を押し付けられる。

しかし、ここで発想を逆転することができないか。この逆境の状況にあえて見を飛び込むことで、そこから学びを享受できないか。誰もが飛び込もうとしない、調達・購買の深いところに入っていって、そこでもがき苦しみながら、なんらかの学びを得たら、きっとそれは代えがたい付加価値になるはずだ。と、もっとも完全に打算的だったわけではありません。ただ、私は紆余曲折しながら、なんとか、目の前の相手――調達・購買でいえば、取引先になるわけですが――と真剣に対峙しようと試みました。

・ベンダーリストの作成

取引先管理の第一歩として、まずはベンダーリストを作成する必要があります。ベンダーリストとは、つまり、それぞれの調達品を、どの取引先から調達できるのか表にしたものです。このベンダーリストの作成意義は次のとおりです。

取引先数管理:調達品ごとの取引先をリストアップすることによって、調達品による特徴や、取引先の多寡を知ることができます。たとえば、特定調達品にはほとんど取引先がいない場合は、今後の課題として、取引先増加が挙げられるでしょう。逆に、取引先が多い場合には、取引先口座管理の観点からも削減が求められます。

見積書依頼候補調査:調達品によっては、比較的、発注の頻度が低い場合があります。そのときに、あらかじめベンダーリストを作成しておけば、スムーズな依頼が可能です。また、競合見積書を入手する際は、当然として、現業部門から相談があったときに、ベンダーリストを作成していれば、他事業部が実績のある取引先を推薦できるかもしれません。

推奨取引先:また、現業部門がなんらかの技術的な課題を先行して取り組むとき、調達・購買部門の推奨取引先を、ベンダーリストで表示しておけば、現業部門も一つの目安になります。もちろん、現業部門から調達・購買部門への相談は必須でしょうが、すくなくとも、あらかじめ現業部門は、調達・購買部門の推薦取引先を確認できます。

・具体的なベンダーリスト作成

具体的には、過去の調達履歴を把握します。調達品によっては、発注頻度が低いため、過去1年分を調べても、そもそも発注していないかもしれません。絶対的な基準ではありませんが、過去三年分を履歴調査することを勧めます。これは企業の中期3年計画ともリンクしますし、3年の発注履歴がなければ、ベンダーリストを作成する意義も低いためです。

エクセルで作成するのであれば、品目分類、取引先情報(取引先名称や、住所)を記載し、その取引先が、どんな調達品に対応しているかをマトリクスで表現します。さらに、読者の企業が多数の都道府県にまたがった営業をしているのであれば、その調達先が、どこの現場に納品できるかを、おなじくマトリクスで表現しましょう。

そして、完成したら、その調達品ごとに推奨取引先を色付け、現業部門に配っておきます。あとは、時間の余力があれば、取引先の参考情報として、年間のコスト削減実績や、強みと弱みなども記載しておきましょう。

(つづく)

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