バイヤー現場論(牧野直哉)

4.食事するとき

出張先で数少ない楽しみは食事です。日本のみならず、海外まで含めれば、魅力的な食文化がある場所はたくさんあります。しかし、特に海外出張では、お店やメニューの選択によっては、食事によってリラックスどころか、思わぬトラブルの要因になります。食事によって見舞われるトラブルは、自分が苦しみます。海外では、衛生状態が悪い地域もありますので、トラブル発生を抑止する最低限の配慮は忘れずにおこないます。配慮をおこなえば、より疲労度の大きな出張期間にリラックスできる食事が可能です。一流のバイヤーは、食事さえポジティブな活動の武器にするのです。

①意識しない疲れに配慮する
海外へ向かう航空機では、1~2回の機内食が提供されます。長時間のフライトでは、加えて間食も提供されます。現地への到着時間が昼間の場合、夜になればそのまま夕食を食べる場合もあるでしょう。飛行機内で寝られたといっても、ふだんの睡眠とは違い、十分な休息になっていない場合もあります。機内では、楽しみも少なく、出された食事は「もったいない」と食べてしまうかもしれません。結果的に、一日4回とか5回食事をしたことになります。ふだんよりも多くの回数の食事は、消化器官に負担をかけます。加えて、出張先でふだん食べ慣れない食事を取ってしまうと、体調を崩す要因になります。

こういった疲れを防止するには、飛行機に乗った瞬間から出張先の時間に合わせます。時差のある地域に出張する場合、離陸後の機内アナウンスで現地時間のアナウンスがあります。アナウンスに沿って、腕時計の時間を現地時間に合わせます。現地の時間に合わせて機内食を食べるかどうかを決めても良いですね。

例えば、最近出張したシカゴを例に説明します。成田発午前11:00で、シカゴには成田出発日の午前8:00に到着します。機内では2回食事が提供され、搭乗するクラスによっては軽食も提供されます。成田出発時間は、現地では前日の午後10時くらいです。夕食でも少し遅い時間ですね。一方日本の午前11時は、ちょうど昼食の前です。日本午前発のシカゴ便は、現地到着時間が朝早く、出張先としてはちょっとキツい場所です。現地到着後に仕事がある場合は、機内食を一回パスすると、かなり疲労度が軽減されるはずです。

②火が通っていても要注意
出張する地域によっては、衛生環境が日本と大きく異なります。アジア圏ではテレビの旅番組でも、屋台で提供される食事がおいしそうに映ります。飲みもののグラスに入っている氷が不衛生との指摘は耳にします。日本人は食べて良いかどうかの判断に、火が通っているかどうかを基準にします。しかし、火が通っていても体調に大きく影響する場合があります。

直火で焼いている場合、問題の発生は極めて少ないでしょう。しかし、油を使って炒めたり、揚げたりする場合は、使用される油の品質が問題です。劣化した油で調理された食品は、海外に限らず日本国内でも問題視されています。海外の場合、衛生管理の不全とあいまって、食べてしまうと体調を崩すケースがあります。しかし、入ったレストランで、使用している油の状態を確認できるかといえば無理ですね。したがって長距離の移動の後や、疲れを感じているときは、油物を避けます。

③出張の後半日程に気をつける
私は海外で何度かお腹をこわすといった事態を越えた体調の悪化を経験しています。毎回原因となった食べものは異なるのですが、共通しているポイントもあります。出張期間の後半で、すこし気が緩んでいること。食べて良いかどうかの判断が甘くなっているときに経験しているのです。具体的には、食べた瞬間「何かおかしい」と感じつつも「まぁいいや」と飲みこんでしまうのです。体調が悪くなった後、かならず「あ、あのときだ」と、原因となった食べものが思い浮かびます。国内だったら、まず口にしないモノばかりです。

どんなに気をつけていても、出張期間の後半になると、どうしても注意力が散漫になります。筆者の経験で、症状がひどかった2つの例は、一回は3ヶ月にもおよぶ長期出張で2ヶ月を経過した頃に、もう一回は、一週間の予定がさらに一週間以上延長されたときに起こりました。後半日程は、疲れとともに、現地に慣れてしまい、注意レベルが下がってしまうのです。出張も後半日程となったら、胃腸にやさしい食事の選択を心掛けます。

④海外の「日本食」に注意
長期の出張や、食文化の大きく異なる地域へ出張すると、日本食が恋しくなる場合もあるでしょう。しかし海外では、日本ではありえない「日本食」を目にする場合があります。一番驚いた日本食は、御寿司の太巻きのてんぷらです。現地名では「ドラゴンロール」と呼んでいました。確認すると、調理しているのは中米の出身者でした。

海外の日本食ブームに乗って、見よう見まねの日本料理店が増えています。私の経験で一番多いのが、元々中華料理店だった日本料理店です。海外の方にすれば、中国でも日本でも、同じアジアなので違いがわからないのでしょうね。日本料理の看板があっても、出てくる料理は全然違うケースは世界各地で経験しています。見分け方は、事前にインターネットのホームページで確認や、口コミサイトの内容で判断します。また初めての店では、油物や生ものを避けます。

出張、特に海外出張は、発生費用も大きい分、成果への期待も大きくなります。バイヤーの現場論で「食事?!」と驚かれる方も多いかもしれません。海外出張をご経験して驚かれた方は、海外での生活に適応力をお持ちなのでしょう。海外出張の経験がない方は、初めての出張や、初めての地域の場合は、ぜひ食事には注意してください。これまでに、海外の生活習慣に溶けこめずに、活躍の場が縮小されてしまった同僚を何人もみてきました。新しいサプライヤを採用するために、関連部門の担当者と一緒に出張する場合、私は対サプライヤのアレンジと同じくらい、出張者の食事に気を遣います。出張初日は、現地食のレストランへ行きます。レストランの選定も、街を歩いて行き当たりばったりでは選びません。宿泊先のホテルに紹介してもらったり、サプライヤに紹介してもらったりして、最適なサプライヤ=レストランを選定します。食事中も、楽しんで食事をしているかどうかを注意深く観察します。サプライヤの対応に問題があっても、なんとか乗り越える方法は見いだせます。しかし、食事といった基本的な嗜好(しこう)の部分で合わないとき、順調に出張スケジュールを消化できなくなる可能性が生まれます。食事が合うか合わないかは、初めての出張で、最初の数日間で決まります。たかが食事、されど食事ですから、みなさんご自身、そして同行者にもぜひ配慮をお願いします。

 <つづく>

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