バイヤー現場論(牧野直哉)

5.強気なサプライヤに対処するとき

日本では一般的に顧客が強い立場を持ちます。したがって、調達・購買部門はサプライヤに対して、基本的に強く有利な立場です。しかし、そういった傾向が覆される状況も存在します。サプライヤの提供する製品やサービスに高い優位性が保たれている場合です。

こういった場合に限らず、調達・購買部門は「顧客だから無条件に強い立場を有している」発想を捨てます。ビジネス上の関係構築は、合意した取引条件の円滑な履行が前提です。したがって、強気な態度が気にくわないといった感情論とは距離を置いて、ビジネスとしてフェアーな判断に基づいた対応を心掛けます。強気な相手に、強気で対しても、事態は善処しないし、相手が強気だから話をしないなんてダメですね。サプライヤが強気で攻めてこようと、従順であろうと、冷静で淡々とした対処をするべきです。

①要求を何でも受け入れるサプライヤを優先しない

バイヤーにとって、難しい要求も受け入れ、サプライヤが独自に創意工夫をおこなって、納入を実現してくれるのが理想です。しかし基本的なQCDの要求が高度化、厳格化し、環境対応、CSR調達といった付加的な要求もおこなって、何もかも満足してくれるサプライヤは、実はかなり貴重な存在です。企業は、各社とも独自性を追求して、市場での生き残りを計ります。独自性を追求した結果としての優位性です。良好な取引関係を目指すのであれば、その優位性を自社製品の優位性やサービスにどのように生かすべきかを第一に考えます。その上で、自社の要求事項を提示し、サプライヤの提示条件とのはざまで、自社に優位な合意形成を目指します。

自社の要求を受け入れるサプライヤを優先するのは、調達・購買部門でサプライヤとの交渉を放棄している事態です。柔順な相手に、自社の要求事項を言って聞かせるのは交渉とは呼びません。自社の事業への必要性や貢献を評価し、バイヤーの業務への貢献度合いは後まわしにします。

②基本的な評価軸でサプライヤの対応を評価する

サプライヤのビジネスへの態度の強気さでよしあしを判断するのではなく、まずサプライヤとの交渉を通じて、取引条件を設定します。強気なサプライヤとの交渉は困難が予想され、サプライヤからの提示条件を受け入れざるをえないケースも想定されます。しかし、サプライヤから提示された条件であれば、順守されなかった場合、より強く言いかえせるネタになるはずです。強気に出るサプライヤにもっとも避けるべき対応は、自社の意向が働かないとして、関与の度合いの減少です。自社の意向が働かないにもかかわらず、発注しなければならない状況は、まさに自社には重要なサプライヤである証明です。他のサプライヤと同様に、日常的な取引条件の順守を注視して、少しでも条件を違えた場合は、強く善処を申し入れます。また、取引条件が順守されたら、他のサプライヤと同じように、感謝の念を持って対処し、お礼の気持ちを伝えます。強気なサプライヤに対して、顧客の立場だけを根拠に同じように強きに対処するのはもっとも避けなければなりません。より良い関係性を創出するためには、強い対応だけはなく、柔軟な対処方法も活用して、自社に有利な条件を引き出せる瞬間を、虎視眈眈(こしたんたん)と狙います。

③強気に出る根拠を突きくずす

強気に出るサプライヤは、果たしてどんな理由で、そのような対応をとるのでしょうか。自社の要求内容ではなく、サプライヤの要求事項を受け入れてしまった場合、一気にサプライヤへ関与する興味を失ってしまうバイヤーがいます。こういった対応は、結果的にサプライヤの強い立場を是認し、事態の改善を放棄してしまいます。サプライヤが強気に出て、自社が受け入れざるを得ない理由を直視して、原因を明確にします。多くはサプライヤの持つリソースには代替性がない場合です。しかし、本当に代替ソースはないでしょうか。どんな企業でも、サプライヤの探索能力は限定されています。自社で全く知らないサプライヤは、グローバル世界に目を向ければ無限大に存在し、日本国内であっても多くのサプライヤの存在をすべて理解しているとは言いにくいのです。したがって、強気なサプライヤの優位性を分析し、正しく理解して、代替サプライヤの探索を継続的におこないます。別の購入ソースを自社が持った瞬間、強気の立場は崩壊し、フラットか自社に有利な商談展開が可能となります。こういった取り組みは、一朝一夕には実現しません。少なくとも自社のサプライヤ探索能力で、他に代替のないサプライヤであれば、年単位の時間を費やして新規サプライヤを探しましょう。世界中を探して、唯一無二のサプライヤしかいないなんて、ありえないのです。可能性を信じて、継続的に対応します。

(つづく)

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