シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

今回から、具体的な例を活用して、対処方法を学びます。

●ケーススタディ1「独占サプライヤへの対応」

「絶対に緩まないネジ」を売り文句に販売しているH社は、アイデアマンの社長による事業展開で市場での存在感を拡大してきた。しかし一般のネジと比較すると非常に高価で、製品当たりの使用量が多い製品ではコスト削減の必要性が高くなっている。

昨年、中国製で同じうたい文句で販売している製品を発見し、サンプルを取りよせて評価をおこなったものの、緩まないかどうかは最終的に判断できなかった。自社の評価結果を中国サプライヤへ伝え、品質改善を要求すると、急に製品供給ができなくなったと連絡を受けた。理由を尋ねても、回答は得られず、最終的に中国サプライヤの営業パーソンとは音信不通になった。

H社は、過去3年間不良を発生させておらず、4年前に発生させた問題にも、代品納入、原因究明、再発防止策まで文句つけようがない対応を見せた。社内の設計部門、品質保証部門からの信頼は非常に厚い。中国製の評価も、調達・購買部門が社内に頼みこんでやってもらったにもかかわらず、サプライヤ担当者を音信不通状態になって、社内でも営業部門以外は新たなサプライヤ採用の気運が下がっている。

●ケーススタディのポイント ~独占に至った「根拠」「原因」「理由」に着目する

1.なぜ「独占」になったのか?
製品のもつ固有性/優位性が市場でも認められた結果、独占サプライヤの地位を確保しています。実は、この「緩まない××」は、様々なアイデアが特許登録されています。しかし、製品化/実用化しているかどうかで、かなり絞りこまれます。バイヤー企業の対処は、アイデアを実現した企業努力には敬意を表し、良好な関係を構築します。独占とは、他に供給ソースがない状態です。サプライヤが強硬な態度で、対応に苦慮する場合もあるでしょう。しかし、供給ソース確保の確保を最優先課題として対処します。

2.製品ではなく「機能・機構」に目を向ける
独占サプライヤは、特許や意匠登録によって、自分のアイデアと製品化した独自性を守ろうとします。しかし、この発想は顧客ニーズではなく、メーカーのシーズです。顧客ニーズである「機能」「機構」に着目すれば、実に多様な製品の存在に気づきます。特に、特許化されている場合は、別の方法によって機能や機構を実現する企業が存在します。製品名ではなく、一般化した機能や機構に着目したサプライヤ探索をおこなってみます。

このケースは、実際の取り組みをベースにしています。最終的には、緩ませない方法が異なる4社のサプライヤを見つけました。最終的に選定したサプライヤの緩まない方法そのものは独自性があります。しかし、緩まない「機能」に着目した場合は、他にも多数のサプライヤの存在が確認できました。

3.ほんとうに「打破」すべきかどうかの判断
独占サプライヤは「打破する」と考え、新たなサプライヤを探索するのは、バイヤーとして当然の取り組みでしょう。しかし、実際にサプライヤを変更するかどうかは別問題です。またサプライヤ開拓費用に必要な費用を掌握して、新たなサプライヤを探す価値があるのかどうかも検討すべきです。加えて、サプライヤ「置き換え」によって発生する費用、サプライヤを「新規採用」して発生する費用(検証費用)まで含めて、検討しなければなりません。

1つの目安として、購入額の上位80%に含まれるサプライヤが、独占状態にある場合には、明確に対応方法を決定します。上位80%に含まれないサプライヤで独占状態にある場合は、まず独占しているかどうかに関わらずQCDが、要求レベルに達しているかどうかを判断します。次に新たなサプライヤを探索します。最終的には、サプライヤ変更費用を算出して、費用対効果の側面で、サプライヤ変更や並行発注/競合の効果を測定します。

バイヤーが独占状態の打破を思いたつとき、それは何らかの問題が原因になります。自社の事業運営に大きく影響する購入額上位のサプライヤなら、ためらわずに別のサプライヤ探索をおこなうべきです。しかし、問題は特定の製品にのみ使用される局地的な独占サプライヤへの対応です。1つの購入品のサプライヤを変更する場合に発生する費用は、部品の購入額に関わらず、固定費的に発生します。したがって、独占によって生じるデメリットと、変更によって発生する費用を定量的に掌握して、独占を打破する価値を判断します。もし、別のサプライヤから購入する環境整備に要する費用が大きい場合は、独占状態を維持する選択肢を採用すべきなのです。

最後に、サプライヤ変更に伴って考慮すべき費用を挙げます。これは、購入製品によって異なります。調達・購買部門は、数値を算出して、企業の意志決定をサポートします。

・調達・購買部門におけるサプライヤ探索費用
・購入要求部門を含めた仕様確認(打ち合わせ)費用
・発注準備費用(型や必要設備の初期投資)
・製品検証費用
・サプライヤ検証費用(監査費用)

加えて、独占サプライヤとの関係をどうするかも明確にします。関係を続けるのか、それとも関係を断絶するのか。こういった費用は、購入額の多寡に関わらず発生します。独占サプライヤは、往々にしてバイヤー企業の意向が反映しづらい関係になりがちです。購入要求部門が感情的に独占サプライヤの非を社内でとなえて、調達・購買部門に新たなサプライヤの設定を強いる場合もあるでしょう。しかし、そういった場合にこそ、調達・購買部門は冷静に費用対効果を分析して、正しい方向性を社内に明示しなければならないのです。

<つづく>

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