ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

緊急論考!値上げ対応 1

もう一つのキュレーション記事でもお伝えしている通り、値上げの足音が今、あらゆる方面からどんどん大きくなっています。先日の値上げ対応をテーマにした私塾の講義では、出席者の半数弱のバイヤーが、既にサプライヤーから値上げ要求を受けていると回答していました。現在、値上げ要求を受けていなくても、早晩バイヤーにとっては悩ましい要求を受ける事態になるでしょう。

値上げへの対応について、具体的な方策をお話しする前に、2000年代初めの材料費高騰に襲われた時期の私の対応を思い返してみます。当時の私の対応は、決して褒められたものではありません。その時の反省から、今回のお話は生まれています。今回だけ、どうぞお付き合いください。

私が、購買ネットワーク会の分科会として「材料費と戦うバイヤーの集い」を開催したのは2008年です。10名ほどが集まった会では、値上げ要求に悩むバイヤーが、思いの伝を語っていました。正直言えば、私自身はそう悩んでいませんでした。材料費が値上がりしている事実は、多くの人が知るところになっており、材料価格の決定に主導権が持てなかった当時の勤務先では「材料費アップはやむなし」との雰囲気が蔓延していました。それよりも、当時の米国と欧州の旺盛な需要に対応すべく、モノやサプライヤーの生産能力の確保が、大きな課題となっていたこともあり、値上げへの厳正な対応は二の次でした。

当時の数年に渡った値上げトレンド。しかし、値上げ要求が各サプライヤーから出だした当初、「値上げが市場で受け入れられるわけがない」と、強気に断っていました。事実、生産数量も増えており、なんとか我慢できていたのです。しかし、商品相場を見ても、高止まりが継続しています。購入品毎にコスト分析を行なって、原材料費の割合が高いサプライヤーほど、値上げ要求の勢いが増していました。しかし、引き続き断り続けていました。これは、調達購買部門としての意志でもありました。

値上げが受け入れられないサプライヤーは、納入に際しての条件見直しを迫ってきました。日次ベースの納入を、週次への見直し要求です。しかし、1社に認めてしまうと、他社にも認めなければならなくなり、認めるためには社内の仕組みを見直さねばならず、調整も難航していました。結果、納入継続できないと迫られ、値上げを認めてしまいます。一回、認めてしまえば、雪崩式にあっちもこっちも認め、終わってみれば年間のコストダウン額と同じか、少し多い材料費アップを認める結果になったのです。

値上げを認めるといっても、サプライヤーの要求金額を満額で認めるわけではありません。値上げの内容をチェックします。しかし、そこに至るまでの、断っている期間が長すぎました。値上げを認めなければ、納入は保証できない雰囲気の中、十分な値上げ内容の確認も行なわず、一般的な材料費の指標と、コストに含まれる割合で、厳密な確認や、交渉を行なわずに認めるケースも多かったのです。具体的には、2%ならいいか、みたいな感じです。

多くの調達購買部門と同じく、コストダウンが業績評価の指標であった私の所属部門も、コストダウン額とコストアップ額を別表示して、コストダウンは、それはそれで評価。材料費高騰の影響によるアップ額は、市場価格なので、やむを得ずとしていました。そんな状況が数年間も続いたのです。

その後、リーマンショックによる急激な需要減少によって、高止まりしていた材料費も下落してゆきました。しかし、値上げ対応における苦々しい思いは、なかなかぬぐい去れませんでした。当時、私はこのような反省を行なっていました。

1. 値上げを断るか、受け入れるかの二者択一で決定

2. 値上げ要求が始まった当初から断り続け、かつ値上げの影響の試算を行なわなかったため、いざ認める段階での準備不足になった

3. 慌てて行なった値上げの影響評価は、値上げを適正な幅とする目的でなく、社内を説得する説明資料として都合の良い数値を採用していた

この3点です。今回のシリーズでは、この反省をもとにして、次の様な内容を皆さんへお伝えするつもりです。

1. トピック『今、なぜ「値上げ」への準備をしなければならないか』
(1) 経済環境要因~円安、原材料市場の上昇トレンド
(2) サプライヤー要因~原材料の価格決定はサプライヤーに有利になっている
(3) 財政政策要因~政府と日銀のインフレターゲットの設定
2. トピック『ほんとうに「値上げ」が必要なのか』
(1) 値上げの根拠となる原材料及び要因の特定
(2) サプライチェーンの「長さ」よる価格変動の、購入価格反映までのタイムラグ
(3) 原材料の割合と、価格変動インパクトの「感度」
(4) 説得力のある適正な値上げ幅を算出する方法
3. トピック『サプライヤーの値上げ本気度を測る』
(1) 値上げ対応プロセスで絶対に避けなければならない対処方
(2) 口頭による値上げ意志表示
(3) 文書による値上げ意志表示 1
(4) 文書による値上げ意志表示 2
4. トピック『サプライヤーの本気度別 調達購買部門対処』
(1) 値上げ意思の表明前に行っておく準備
(2) 口頭による値上げ意志表示
(3) 文書による値上げ意志表示 1
(4) 文書による値上げ意志表示 2

上記の内容は、これからいろいろ加えてゆきたいと思います。次回より、どうぞお楽しみに。

<つづく>

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