転職を考えない人が読む「転職」のおはなし 7(牧野直哉)
今回で第7回 最終回になります。
7.内定をもらったら
現時点で、転職を意識していない皆さんですから、内定をもらった後になにをするかは、少し気が早いかもしれません。しかし、スムースな転職を実現するために、これから説明する内容も、まさに今の働き方と行動が大きく影響します。これも準備の一環として、最後までお付き合いください。
(1) 「立つ鳥跡を濁さず」的引き継ぎの実行
自分の意志で転職をする場合、会社を去った瞬間が、あなたに対する元職場の欠乏感が最大値を示す瞬間になります。以降、あなたがいない現実に元職場の同僚の皆さんも徐々に慣れ、最終的には、いない状態が普通になります。したがって、いなくなった瞬間である退職した時に同僚の皆さんが困る事態を想定して、後任の同僚へ引き継ぎをおこないます。
現在、多くの職場では業務標準が整備されています。仕事をどのように進めるかは、既にマニュアルが存在するはずです。したがって、引き継ぎは、マニュアルに記載されていない、皆さん独自のノウハウや担当していたサプライヤー、購入品に関する知識です。ご自身でサプライヤーや社内関連部門と進めている仕事があれば、過去の経緯を含めて必ず現在の状況と、将来的な課題について引き継ぎします。退職したあとも、周囲ができるだけギャップを感じずに仕事が進められる環境構築を目指します。
解雇でない限り、必ず行うべき引き継ぎ。それは、後任のためだけでなく、自分のために行います。マニュアルに記載されていない、皆さんが独自に行っていた仕事は、とてもユニークなノウハウであるはずです。「私は・・・」と、自分を主語できる独自のスキルなのです。ご自身で努力と研究を重ねて培ったのであれば、振り返って、他人へ伝えることで理解を深めましょう。また、独自性といっても、働いてきた中で培ったノウハウであれば、あなたが退社して失われてしまうのは避けなりません。引き継ぎを行って確実に残します。
理想の退職とは、退職後に何事も無かったかのうように、後任が業務を進められる環境の実現です。それまで負っていた責任が大きければ、退職によって後任の担当者が受ける喪失感もゼロではありません。しかし、遠くない将来には何事もなかったかのように業務は行われます。しかし、あなたが行った苦労を同じように同僚たちにやらせるのか。それとも、仕事を引き継ぐ同僚にノウハウを残し、これまでと遜色ない業務遂行をサポートするのか。あなたが行った同じ苦労を、後任の担当者にも経験させることは避けなければなりません。自分のやっていた業務で、過去を凌駕する成果を生み出すサポートを行います。
(2) 前職場との繋がりを持つには?
前の職場の同僚と繋がりを持つ必要性の有無は、意見が分かれる所です。職場を去るので、疎遠になる同僚も多いでしょう。ただ一つ言えるのは、転職回数に関係なく、転職を成功させている人は、以前の勤務先の同僚と、なんらかの繋がりを持っています。これは、闇雲に同僚との関係を続ければ良いのではありません。「続く」からには、それなりの根拠が存在するのです。
以前の勤務先との繋がりを持っている人には、共通点があります。どんな企業へいっても、活用できる普遍的なスキルを備えているのです。例えば、転職して最初にぶつかる壁の一つに、企業毎に異なる用語の使い方があります。例えば「コストダウン」にしても「原低」「値引き」「セービング」「VE」「低減」と様々な表現方法があります。例に出した語彙も、少しずつ微妙にずれていますね。しかし、会話の中での本質的な定義をつかんで、場面毎に使い方を変え、適応させられるかどうか。これができるかどうかが、普遍的なスキルを持っているかどうかを判断する基準になるのです。私がこれまで出会ってきた尊敬すべき皆さんは、まったく異なる背景を持ちつつも、心地よい会話が成立します。実は、会社が違っても、やっていることに大きな違いはないのです。どんな企業でも利益の創出を行っているのです。したがって、言葉の違いがあることを前提にすれば、転職先の業務内容も理解が早いし、前職でのあなたの経験やスキルも転職先で活用しやすくなるのです。
私は「調達購買」部門で活用できるスキルを自分の「売り」としています。以前の勤務先の職場も、今の職場も、名前は違いますが調達購買部門です。しかし、前の職場と今の職場では、スキルの活用方法も少し変えています。調達購買部門では、企業によって購買時に発揮できる力が大きく異なります。以前の勤務先は、大きな購買力がありましたが、今の勤務先は比べるまでもなく購買力は弱いのです。サプライヤーへのアプローチも、求める姿は同じでも、活用する取り組みやアクションはまったく異なります。そのような違った環境毎のスキルの使い分けを可能とする「変換式」が必要です。そのためには、まず物事の本質をつかむことが求められます。その上で使われる言葉の違いを理解する。以前の職場の同僚との関係を維持するために、そして新しい職場の同僚との関係を構築するために必要な能力なのです。
(3) 残っている有給休暇でなにをするか
最後に、これまでの職場で取得していなかった有給休暇です。中には、退職時の有給休暇の取得が難しい職場もありますし、転職先からすれば、そもそも不足している人材を調達する訳ですから、一刻も早く就業して欲しいはずです。しかし、可能な限り有給休暇を残さずに消化しましょう。来るべき職場で、どんな困難が待ち受けているかもわかりません。新しい職場では、大なり小なり「話が違う」「想像と違う」だらけです。初めての転職ともなれば、そのようなギャップから受ける影響が大きくなります。そのような困難に打ち勝つためにも、英気を養う目的で残った有給はすべて消化すべきなのです。
それでは、具体的に何をすべきか。ご家族をも説得するのは難しいかもしれませんが、一人旅がオススメです。共働きの方は、主婦(夫)も良いかもしれません。なにか趣味をお持ちの方は、期間限定で没頭するのも良いですね。これまで時間に追われてきた自分へのご褒美です。思いっきり時間を持てあます状態を作って、心身をリセットします。私は、日本企業から外資系への転職だったので、一ヶ月ほど海外の学校に通いました。20歳代前半が中心の生徒の中に、30歳代後半の私(おっさん)が一人まじって語学学校に通いました。英語の能力は別にして、日本へ帰国する頃には勤労意欲が最大になっていました。どんな手段でもかまいません。有給休暇とは給料をもらいながら自分の意志で使える時間です。捨ててしまうのはあまりにもったいないし、次の職場で自分の能力を最大限活用できるように利用すべきなのです。
<おわり>