転職を考えない人が読む「転職」のおはなし 6(牧野直哉)
今回で第6回になります。
1. 面接対応
(1) 自分と向き合う
転職するためには、入社を希望する企業の人事担当者や、未来の上司、同僚になるかもしれない人の面接を受けなければなりません。私の経験で申し上げれば、新卒の時とは比べものにならないほどに長時間の面接でした。そして、時間だけでなく話も非常に濃い内容でした。長時間かつ、密度の濃い話を想定した対処も、あらかじめおこなわなければなりません。
ここで、なぜ時間が長くなるのかを考えてみます。新卒時とはどこが違っているのか。日本の場合、新卒時には「可能性」を見ます。働いた経験が無いわけですから、入社したい意志がどれほど強いのか。そして面接では入社したら何ををやりたいのかを質問します。質問の回答は、未来の話になります。未来の話を、それまでの経験で得たもので、信憑性を測ります。「測る」といっても、企業にとっては先行投資的な色合いが濃くなります。
一方、転職の場合、これまで働いてきた実績があります。転職希望者であれば誰もが持ち得ている経験です。しかし、やってきた結果だけを話すのでは不十分です。なぜなら、面接官は、あなたが結果を残したとされるその場にいなかったのです。あなたの話を信じるしかありません。面接の際のポイントは、何をやってきたのかも重要です。それ以上に、あなたの話に信憑性があるかどうかです。ここで、職務記述書を書く際の注意事項をもう一度読み返してみます。面接では、あなたが提出した職務記述書をベースに、質問されます。質問に答える内容も、次の5点を話の中に必ず盛り込みます。
1) あなたは、どういう役割を果たしたのか
2) 役割は、どのような具体的行動によって果たされたのか(あるいは、果たされなかったのか)
3) 行動による結果から反省すべき点はあるか、あるならその具体的な内容
4) 反省点から何を学んだのか
5) 学んだ結果を次の行動にどのように生かしたのか
企業は、事業内容や社風によって千差万別です。しかし、企業内で働く人が苦労して成し遂げる事実には共通するポイントがあります。ばらばらだったチームがまとまりを見せたきっかけとなったエピソードや、大きなコスト改善のきっかけとなったサプライヤーとの出会いといった、日常業務の1シーンです。大きな事件ではなく、日常的な出来事です。大きな事件は誰もが気付くわけです。日常的な業務の中から問題を切り取った話が、同じように企業で働きながら面接官となった人から「共感」を得る近道です。日常的な「気づき」から、上記1)~5)のポイントを盛り込んだ話で、面接官を攻略するのです。
(2) 話の「主語」を意識する
私の友人にこんな人がいます。私と同じように調達購買の交流会に参加しています。交流会の席上で、様々な方が発言をされますが、発言する際の「主語」について、何度もくり返し指摘をしています。多くの人はこう言います。
「うち(の会社)は・・・」
どんなに大きくて優良とされる企業であっても、その中で意志決定をおこなって、実際に行動するのは人です。したがって主語は「私」であるべきとの指摘です。私は、そのような指摘を受けて以降、かなり意識して、自分の業務を語る際に「私」を使っています。たかだか主語が違うだけで何がちがうか。私は大きな違いがあると実感しています。
まず、繰り返しになりますが、職務記述書を書く際に提示した5つのポイントの最初の部分を思い返してみます。「あなたは、どういう役割を果たしたのか」ですね。勤務先を示す「うち(の会社)」でなく、「あなた」です。企業としての意志決定や、それにもとづいた結果は、面接の場ではあまり重要ではないのです。例えば、マスコミで大きく報じられるある企業の、優れた実績に携わっていた事実を、自分の売りにするとします。転職の面接の場では、ただ「携わっていた」だけではダメです。どのような役割によって、どう機能したのかを話さなければなりません。
「うち(の会社)」を主語にすると、話の内容が第三者的になります。もちろん、だから貢献が無かったとの意味ではありません。しかし、面接の場で、相手に実感をもって耳を傾けてもらうには、第三者的に話すのでなく、当事者として話さなければなりません。そのためには、主語を「私」にするのがもっとも効果的です。実際に、おこなってみてください。調達購買の異業種交流会の場に出てくる、比較的高い意識を持っている(であろう)人が集まっても、驚くほどに「私」を主語にできる人が少ないのが現実です。企業内の業務とはチームで行います。また、典型的な日本人の特性として、過度な自己主張を嫌う風潮も理解しています。しかし、面接の場です。ぜひ「私」を主語として、自己主張を当事者としての実感を込めて、行って頂きたいのです。
(3) リクルーターのアドバイスを参考にする
私が転職をした時は、面接前のリクルーターのアドバイスが大変参考になりました。リクルーターにとっての顧客となる企業に入社を希望するのです。したがって、面接をする時点では、就職を希望するあなたよりも、リクルーターの方が深く理解しているはずです。ここで求めるアドバイスとは、一般的な面接対策ではありません。他の企業とは異なる、独自でユニークな点をあらかじめ確認しておきます。優秀なリクルーターであれば、企業の風土をある程度理解し、適切なアドバイスができるはずです。
<つづく>